62話 澪の制御が解けたっぽい
twitterでrt来た分だけの話数を更新すると調子こいたツイートをしてしまったせいで苦笑いしか出ません。
それと、あけましておめでとうございます!
「ふーん……そんなことがあったのね」
鈴は大地と強斎の過去話を聞いて、どこか納得したように頷いた。
「私って、あの時襲われそうになってたのね」
「ああ、あの時強斎が駆けつけなかったら本当にやばかった」
澪は半分笑っていたが、大地はそうでもなかった。
「本当にあの時はすまなかった……。家庭の事情にお前たちを巻き込んでしまって……」
「別にもういいって。もう二年近く前の話だし、結局は強斎のおかげで未遂になったわけだから」
「……そうだな、強斎がいる時にまた謝罪させてくれ」
「もう……人の話を聞きなさいよね」
澪はそう言って立ち上がった。
「さて、もうそろそろ帰ろっか。お城に戻ってゆっくりと休みたいし」
「そうね、私もちょっと疲れちゃった」
鈴も澪の意見に賛成のようだ。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか」
勇志がそう言ってヴェレスが見つけた地上に転移できる場所を指差す。
だが、勇志とヴェレスは動こうとしなかった。
「ユウシさん……」
「……ヴェレスは凄いな」
勇志は若干焦り気味な苦笑いを浮かべていた。
「私はユウシさんの彼女なんですよ? それぐらいわかります。……嫌な予感がするんですよね?」
「ヴェレスは本当に凄いな……。僕のポーカーフェイスを見破るなんて、強斎以外にヴェレスが初めてだよ」
ヴェレスは動こうとしない勇志の腕を強く引っ張った。
「多分、その予感は避けては通れない形で的中します」
「……なぜだい?」
「何となく……です」
「何となく……か」
勇志は小さくため息を吐いて、されるがままに地上に戻った。
………
……
…
「到着……です」
ヴェレスの転移魔術でドレット王国に戻った勇者一行は、それぞれこの後何をやるか雑談していた。
だが、そんな雑談も数秒で終わってしまった。
近くに、勇志を上回る強い魔力を感じたのだから。
「敵だったらちょっとやばいかもね……」
「シャレになってないな」
鈴と大地は既に戦闘態勢に入っていた。
「うん、確かにヤバいねー……。この感じだと勇志を完全に上回っているし、私たちも色々と消耗している。幸い一人だけだから、逃げることなら出来るよ……相手が気づいていなかったらね」
澪は全員のステータスを見ながら笑顔で説明するが、どこかぎこちなかった。
だが、勇志とヴェレスだけは違った。
「なぁ、ヴェレス」
「はい、ユウシさん」
「これって……あの人だよね?」
「はい、あの人ですね」
そして、遂にその人物が姿を現した。
「ほう……お前らが勇者と呼ばれるもの達か」
「やはりあなたでしたか……ベルクさん」
そう、シッカ王国のギルドマスターベルクである。
「勇志、知り合いか?」
「ああ、だから肩の力を抜いていいよ」
その際、勇志はベルクについて簡単に説明をした。
そして、再び口を開く。
「ベルクさん、ここまで来るなんて珍しいですね。ドレット王国とはそこまで良い仲ではないと聞きましたが」
「ああ、はっきり言って仲は良くない。と言うより悪い方だな」
「だったら何故?」
「お前たちに人間界を救って欲しい」
唐突にそう言われ、フリーズしてしまった勇者一行。
「勿論、俺も協力する。恐らく人間界を救えるのは全ての冒険者を含めてもお前たちだけだ」
「……ベルクさん、事情を話してくれませんか? それに――――」
「冒険者最強って言われてる強さ――――『ショクオウ』じゃダメなの?」
勇志の代わりに澪が質問をする。
しかし、ベルクは静かに目を伏せた。
「人間界の危機……そして『ショクオウ』の存在……。この二つは繋がっている」
「……どういう意味ですか?」
澪はベルクの顔から何かを察してしまったようで、声を震わせながらその意味を訊いた。
だが……。
「最強の冒険者……『ショクオウ』は殺されたんだ」
現実は残酷だった。
そして、空気の温度が殺気でグッと下がった。
「……あんたさ。ギルドマスターだかなんだか知らないけど……殴るよ?」
鈴は怒気を隠そうともしないで、ベルクにぶつけていた。
「殴りたければ殴ってもいい……それでこの夢から覚めるならな……」
ベルクもベルクで冷静さをなくしていた。
「お前たちからしても『ショクオウ』が特別な存在だと、そこの勇者から聞いている。だが――――」
「それで、強斎を殺したのは誰?」
「澪!?」
一番信用してなさそうな人物の言葉に、鈴は戸惑っていた。
「澪、あんた信じるって言うの!? 強斎が生きていた事すら確かじゃないのに!?」
「私だって信じたくないよ? でも、この人の言うことは本当だと思う」
「なんで……なんで!?」
「強斎が死んだほうが色々と辻褄が合うから」
「っ!!」
鈴は感情に任せて澪の頬を叩いた。
「こんな時だけ優等生ぶってんじゃないわよ!」
「しょうがないじゃない! 私の直感がそう言ってるんだから!」
その時、澪の髪を結んでいたゴムが音もなくちぎれて解けてしまった。
「数日前にこのゴムはちぎれたのよ! その意味が鈴にはわかる!?」
澪の感情の制御も解けてしまったようだ。
「このゴムは強斎が初めてくれたプレゼントなのよ! そして、その時強斎が私に言った言葉は今でも覚えてる……『このゴムが俺の代わりに澪を守る』子供の時の戯れごとだけど、実際に今までそうだった……! だからどんな時でも冷静でいられた! 強斎が私たちの代わりに転移しちゃって死んだって言われたときも、生き返る可能性があるって知らされただけで立ち直れた! このゴムがまだ切れていない限り強斎とまた会えるって……!」
叫ぶだけ叫んで澪は脱力し、膝を地につけた。
「本当はわかってる……地球とは異なる環境、過度な動きによるダメージ、それに寿命……。いつ切れてもおかしくなかった……だけど!」
その場にいた全員は静かに澪の言葉を聞き、手に持っているゴムを見ていた。
「こんなタイミングで切れるなんてさ……いくらなんでもあんまりだよ……」
そう、誰もがわかっていたことである。
この中で最も冷静ではないのは澪であると。
そんな澪を見ていると、鈴は冷静にはなったが叩いた罪悪感が込み上げてきた。
「さっき鈴は言ったよね? 優等生ぶるなって。私は今まで一度も優等生ぶったことなんてないし、優等生ですらない……今だって真っ先に出た理由がこれだよ。理論なんかじゃない感情論を優先しちゃってさ……。強斎がいないと精神が安定しない出来損ないなんだよ……」
そこまで言ったところで澪は口を閉じてしまった。
暫く誰も喋らなかったが、勇志がその沈黙を破った。
「ベルクさん。とりあえずはあなたの話を信じます……ですが」
「ああ、流石に俺もそこまで空気の読めない男ではない。また出直そう」
「ありがとうございます」
「いや、俺が無用心だった」
ベルクはそう言って澪と鈴を一瞥する。
「暫くはドレットにいるつもりだから、覚悟が出来たら俺に言ってくれ」
「わかりました」
ベルクはそう言ってこの場を去った。
一刻を争うはずの要件なのだが、勇者達の心の整理を優先したのだ。
ベルクがいなくなってからも沈黙は続いた。
だが、暫くすると鈴が立ち上がり。
「私は……私は信じないから!」
そう言って走ってその場を去ってしまったのだ。
いや、もう本当女の子の描写って難しいですね
まだまだ練習が必要なようです…
それと皆さん、今回の勇者視点が終ったら主人公と再会まで勇者視点は書かないつもりなので!