<< 前へ次へ >>  更新
68/127

閑話2 強斎は地球でもチートっぽい 中編

今回は久しぶりの地球です!


「くっ……化物め!」


 誰かが、目の前の人間に吐き捨てるように言った。


「いい加減家に返してくれないか? お前たちじゃ練習相手にすらならない」


 化物と呼ばれた人間……鷹見大地はあくまでも冷静に答える。

 たとえ数人に囲まれていようとも。


「うるせぇ! 一年のテメェが目立ってるせいで俺の面子が丸つぶれなんだよ!」

「ただの逆恨みじゃないか」


「あぁ!? なめてんじゃねぇよ!!」


 男はそう叫ぶと、大地に殴りかかった。


「なめられているのはこっちの方なんだがな」


 大地は男の拳を蹴りで叩き落とした。

 そして、そのまま裏拳で男の顔に打撃を与える。


「お前は馬鹿なのか? いい加減力の差を自覚しろ」


 男は大地の裏拳をまともに喰らい、数メートル吹っ飛んでいた。

 その結果だけでも、大地がどれだけ化物じみているか周囲の人間は充分理解した。


「ほ、本物の化物かよ……!」


 誰かのその一言がきっかけとなり、大地を囲んでいた男の仲間は男を残してその場を去った。


「……俺も帰るか」


 そして、大地も男を残してその場を去ろうと男に背を向けた……その時。


「がぁぁぁぁ!!!」


 顔をものすごい力で殴られたはずの男が、手に刃物を持って大地に襲いかかったのだ。


「なっ!?」


 大地もまさか男が意識を取り戻すとは思っていなかったらしく、驚愕で一瞬怯んでしまった。

 そして、手に持っていた刃物を見て、その怯んだ一瞬を後悔する。


(くっ……! 避けきれないっ!)


 大地は刺される覚悟で目を瞑った。

 しかし、いつまで経っても痛みは襲ってこないことに疑問を感じ、恐る恐る目を開ける。


「おい、大丈夫か?」


 目の前には、先ほどの男とは違う男が立っていた。

 その男は大地と同じ制服を着ていて、しかも同じ一年生だった。


 だが、大地の気にするところはそこではない。


「……どこから来た?」


 刃物を持った男が倒れていることから、この男がやったのは間違いない。

 だが、人の気配には敏感な大地が、全く気が付くことなく目の前に男は現れたのだ。


「どこからって……普通にお前の後ろからだが?」

「俺の後ろから? そんな馬鹿な――――」


 と、そこまで言いかけたところで口を閉じて考え事をする。


(ちょっと待て、この男はどうやってあの男を撃退した? 俺が目を瞑っている間? そんな馬鹿な。俺が目を開けている時には周りに誰もいなかった。俺が目を瞑ってから刃物が当たるまでの時間は本当に一瞬だぞ? その間に誰にも気がつかれずに音もなく倒したというのか?)


 大地は自分の気配察知能力には少しだけ自信があった。

 だが、この男は文字通り気配を完全に消して大地の前に現れたのだ。


「てか、刃物持った奴から狙われるって……お前何者だ?」

「それはこっちのセリフだ。どうやって気配を完全に消したまま瞬間移動並みの速度で動けるんだ?」


「別に気配を消した訳じゃないし、俺は瞬間移動なんて使えない」

「……そうか」


(確かに、相手に自分の技を教える訳にはいかないもんな)


 大地は男が何かを秘密にしていると思い、これ以上探らなかった。


「すまないな。俺の家柄のせいで、どうしても知りたくなってしまってな」

「何を納得したかわからんが、わかった」


「さっきの質問だが、俺は逆恨みでこの男に襲われただけで、特にこれといった事情はない」

「そうだったか……それは災難だったな」


 男はそう言うと、大地に背を向けて歩み始めた。


「まぁ、こんなことそうそうないと思うがこれからも気をつけろよ? 俺はそろそろ帰るから」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 大地は立ち去ろうとする男を呼び止める。


「お前の名前は……なんだ?」

「ああ、名乗ってなかったか。俺の名前は小鳥遊強斎。お前は?」


「鷹見……大地だ」

「大地……ね」


 強斎はそう呟くと、また歩み始めた。


「今度は普通に学校で会おうぜ」

「……そうだな」


 そして、強斎が去ったのを確認した大地は、刃物を持った男を一瞥して自分の家に向かった。


………

……


「よぉ。遅かったじゃねぇか」

「ちっ」


 大地が家に帰ると、大地に少しだけ似た男が不気味に口元を釣り上げながら迎えた。

 大地は心底嫌そうに舌打ちをしてスルーする。


「おいおい、偉大なお兄様を舌打ちしてスルーとはいい度胸じゃねぇか? ああ?」

「うるせぇよ落ちこぼれ兄貴」


「なっ! へ、へぇ。お前も言うようになったな……。昔は俺にボコボコにやられたくせによ」

「昔は昔だ。今となったら兄貴は俺に戦うことすら拒むだろ? 俺にボコボコにやられるのを恐れて」


「き、貴様ぁ!」


 大地はそんな兄を放っておいて自室に向かう。


(昔はあんなのじゃなかったのによ……。稽古もサボらずやってたら、いつか親父に追いつくぐらい強くなってたのにな)


 大地は少しだけ兄を哀れんだが、その考えを直ぐに振り払った。


(とりあえず、今日は早めに寝よう。色々ありすぎて疲れたな)


 そして、大地は自室に入っていった。


 そんな大地に怒りの視線を送る人間がいた。


「あの野郎……覚えていろよ」


 大地の兄はそう言ってその場を立ち去った。


………

……


「強斎、ちょっといいか?」


 大地と強斎が知り合って数日後、深刻な顔をした大地が強斎のクラスに訪れた。


「どうした、そんな顔して」

「実は……」


 大地は手に持っていた紙を強斎に渡した。

 強斎も慎重に貰いその手紙の内容を確認した。


「…………」

「俺はどうすればいい?」


「とりあえず爆発しろやぁ!!」

「ごふぅっ!」


 強斎は大地の腹部を殴った。


「何か大変なことでも起きたのかと思ったら何だこれは!? ただのラブレターじゃねぇか!」

「だ、だから俺は強斎に助けを求めているんだ。俺はこういうのについては全く未経験でな……」


「俺だって未経験だよ! ていうかラブレターすらもらったことねぇよ!! マジで爆発しろよ!!」

「それは済まなかったな……だが、困ったぞ」


「別に俺以外の奴に訊けばよくないか?」

「生憎俺はそこまで話す方じゃなくてな。お前以外友達と言える奴はここにはいない」


「なんだボッチか」

「気にしてるからやめろ」


「で、話を戻すが……お前はどうしたいんだ?」

「とりあえず、断ろうと思う」


「まず爆ぜろ。で、なんで断るんだ? それと爆ぜろ」

「俺は恋愛とかは興味あるが、今はやりたいことがある。そっちを優先したい」


「総合格闘技か」

「……ああ」


「まぁ、やりたいことがあるならしょうがないな。ってことは、俺にどうやったら相手を傷つけないように断るかを訊きに来たのか?」

「まぁ、そんなところだったが……」


 大地は困ったようにため息を吐く。

 そんな大地の肩に、強斎は手を乗せてとある提案をした。


「この学校に小さい頃からの友達がいるんだ。そいつは女子だから、そいつに直接訊けば解決すると思う」

「だが……大丈夫なのか?」


「ああ、そいつは絶対に秘密を守る。ほかの奴にバレることはない」

「よくわからんが、大丈夫ならいいか。確かに渡してくれた女の子に悪いもんな」


「もう一度言う、爆ぜろ」

「……」


………

……


「おーい。澪いるか?」

「あ、強斎! どうしたの?」


 澪と呼ばれた少女は、強斎が呼ぶと直ぐに駆けつけてきた。


「済まないな、用事があるならそっち優先していいんだぞ?」

「大丈夫! 用事なんて――――」

「澪さん、アンケートの集計終っ――――がふっ!」

「用事なんて何にもないから!」


 澪は何かを言いかけた男子生徒を突き飛ばして、言葉を遮った。

 高校に入ってからそこまで時間は経っていないはずなのに、物凄い馴染みっぷりだ。


「本当に何にもないのか?」

「うん!」


「さっきアンケートの集計って――――」

「何にもないよ!」


「そ、そうか。実は澪に教えて欲しい事があってだな……」

「私に教える事が出来るなら、なんでもいいよ」


 澪の了承を得たところで、強斎は少しだけ声のボリュームを落とす。


「実はあまり知られたくないことだから、内密に頼む」

「う、うん。わかった」


 強斎は周りに聞こえている人がいないか確認して、澪に質問をする。


「もしもの話になるんだが……」

「うん」


「もし、澪に好きな人がいるとするだろ?」

「っ!?」


「ど、どうした? 具合でも悪いのか? 顔が真っ赤だぞ……」

「ふぇ!? な、にゃんでもない!!」


 澪はかなり動揺していて、その変化っぷりは物凄くわかりやすかった。

 強斎以外の人間は澪の動揺に気が付いているだろう。


「話を戻すが、澪がその男に告白したとする」

「ちょ、ちょっと待って! 準備! 心の準備するから!」


「お、おう」

「すー……はー……よし。うん、いいよ」


「それで、その告白が断られたとする」

「……え?」


「その時、どんな感じに断られれば傷つかない?」

「ちょっと待って……え?」


「いや、だから……まぁ、例えだけど。もし澪が俺の事を好きで俺に告白した時、俺はどう断れば澪は傷つかずに済む?」

「え? え? そ、それ答えなきゃ……ダメ?」


 澪は今にも泣きそうだが、強斎は澪の顔を見ていなかった。


(流石に俺と澪で例えちゃ不味かったかな……勝手に俺のことを好きという設定にしちゃったし……嫌がってなきゃいいけど……)


 罪悪感で顔を直視できていなかったのだ。


「本当に答えないと……ダメなの?」

「ん、まぁ……答えてくれると嬉しいな」


「……強斎の」

「え?」


「強斎の馬鹿ぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ぐはぁっ!?」


 澪はそう叫んで、強斎の腹部に強烈な右ストレートを打ち込んだ。


「例えの話でも……! そんなストレートに訊かないでよ! 馬鹿っ!!」

「え……ちょ……」


 澪は強斎の呼び止めに反応することなく、その場を早足に去っていった。


「……大地、これが結果だ。どんな感じに振っても結局は殴られるらしい」

「お前馬鹿だな」


「なっ、俺はお前の為に体まではったんだぞ! それを馬鹿呼ばわりとは失礼な!」

「流石に今のは俺でもわかったわ」


「……何がだよ」

「自分で気がつけ」


 大地は強斎に『気がつけ』と言っているが、大地自身も気がついていなかった。

 ずっと後を付けられていることに。




 結局、大地はやんわりと告白を断った。

 勿論殴られてなどいない。

今回の閑話は見ての通り大地メインです


<< 前へ次へ >>目次  更新