閑話2 強斎は地球でもチートっぽい 前編
閑話第二話目です!
今回の閑話は本編と関係あるので読んでくれると嬉しいです
え?前回の閑話と『っぽい』の位置が違う?
気にしてはいけません!
「澪、MP大丈夫!?」
「余裕!」
「ヴェレスは!?」
「大丈夫です!」
鈴は二人に確認をとったところで、前衛で戦っている四人に大声で呼びかけた。
「五秒後に決め技使うから下がって!」
『了解!』
「緋凪! 琴音! 前衛が下がれるように援護お願い!」
『わかった!』
前衛に指示を出してから二秒経過している。
それでも鈴は、余裕をもって目の前の迷宮ボスである魔物を見ていた。
(敵の残りHPも僅か。私も澪もヴェレスも『あの技』を使うのに充分なMPを温存している。心配なところは大地のHPが残り半分しかないってぐらいね)
鈴は一瞬でそう解析すると、次は状況を解析し始めた。
(緋凪達の援護はもう始まって、勇志たちも撤退できそうね。澪とヴェレスの魔術の詠唱も完成しているっぽいし、私もやらないとね)
そして、鈴は僅かコンマ五秒で詠唱を終わらす。
「皆! いくよ!」
鈴は自らの目の前に巨大な火球を生成させ、そう叫んだ。
「属性強化」
「魔術強化」
鈴の火球に澪とヴェレスはそれぞれブーストをかけた。
「人にかけるはずのステータス向上魔術を、魔術そのものにかけた威力……味わいなさい!!」
口元を釣り上げ、その火球を弱った魔物に向けて放った。
(この魔術の弱点は私たち三人の息が合っていないと発動しないこと、それと消費MP、最後に放った後のスピードと操作不可ぐらい。リスクは大きいけど、そのリスクには似合わない程の威力を持っている)
鈴の放った火球は遅いとまではいかないが、決して早くなかった。
本来なら避けることができる魔物だったが、結構なHPを削られていたため直撃してしまった。
そして――――。
「やばい! 伏せろ!!」
大地の叫び声がしたと思ったら盛大に爆発し、その爆発音が聴覚を支配していた。
先ほどの魔術は威力だけなら帝級魔術に属する。
明らかな
「……やったか?」
「あの魔術をまともに受けて絶命しない生命なんて、そうそういないと思うけどね」
信喜が煙越しの魔物を確認しようとするが、勇志が苦笑い気味に答えた。
「そもそも、あの魔術で死なない魔物だったら僕たちにはまともにHPが削られないよ」
「それもそうだな」
煙が晴れ、魔物を確認するがどこにもいない。
跡形もなく消し飛んだのだ。
「なんだかんだ、これが初めての迷宮制覇だな」
「そうですね、迷宮を制覇するとその迷宮の所有権が得られますので、この迷宮の魔物からは襲わられなくなります」
大地の呟きに、ヴェレスは何かを探しながら答えた。
「何を探しているの?」
「あ、ミオさん。実は――――あ、ありました」
ヴェレスは壁を思いっきり蹴って、その壁を壊した。
「やっぱりここでしたね。ここから、迷宮の所有権を持っている人は地上に戻ることができるんですよ」
「そ、そうなの……」
「どうしたんですか?」
「いや、なんかギャップが凄くて……」
「? なんのことかわかりませんが、もう地上に出ますか?」
「せっかくだから、もうちょっとここにいたいかな?」
澪が代表して答えてしまったが、他の皆も特に異論はなさそうだ。
「そう言えば、私たちも変わったよね……」
鈴が唐突にそう呟いた。
「ここに来る前は戦法とか全然わかってなくて、ゲームもあんまりやらないから魔物とかもわけわからなくて……。それが今ではこれだよ? たった5ヶ月しか経ってないのに人間って変われるものだよね」
「さっきの鈴ちゃんかっこよかったもんね! 何か本能的に逆らえないっていうか、勝手に体が鈴ちゃんの言う通りに動いちゃったもん」
緋凪が素直に賞賛するが、鈴は苦笑いをするだけだった。
「ああ、強斎が今の俺たちを見たらびっくりするだろうな」
「私、あんまり変わってないんだけど……」
大地の言葉に一番反応したのは澪だった。
「別に、強斎は変化なんて求めてないと思うよ?」
「鈴は大魔術が使えるから余裕だよね……」
「最強の冒険者様に自慢できるかわからないけどね。それに、本当の大魔術は澪とヴェレスがいないとできないわけだし」
「個人で王級魔術使える時点で、自慢以前に恐れられますけどね」
「ヴェレスも痛いところつくわね……」
数日前、ベルクから強斎生存報告を受けた勇志は、早速全員にその事を告げた。
その時の賑わいっぷりは、それはもう凄かった。
特に、澪は飲んだことのない酒を倒れるまで飲んでいたのだから。
(あの日……強斎が死んだと思った日から私たちは変わってしまった……勿論、悪い方向に。だけど、今は違う……。強斎が生きていると知っただけで確実に良い方に変わり始めている)
鈴はそう考えると思わず笑ってしまった。
「リンさん? どうしたんですか?」
「やっぱり強斎は凄いなぁって思って」
鈴がそう言うと、ヴェレスは少し口ごもってしまった。
「どうしたの?」
「あ、いえ……。前々から訊こうと思ってたことなんですが……」
「前から?」
「はい、ですが私の不注意故に起きた災害でしたから中々伺えなくて……」
「あー、強斎のこと?」
「……はい」
ヴェレスはやはり申し訳なさそうにしていた。
生きていると報告されてから少しは肩の荷が降りたはずだが、やはりどこか罪悪感があるようだ。
「よければ、皆さんの第一印象から教えてもらえませんか?」
「第一印象って……まぁいいけど」
そう言われ強斎と出会った時を思い出す鈴。
「他の男とは違う男?」
「鈴は男の子苦手だったもんねー」
「澪だって強斎以外の男とはあまり遊ばなかったじゃない」
「あまりじゃなくて、一度も遊んだことないよ?」
「それもそれで怖いわ……」
その時、ふと大地と目があった。
「そう言えば、私が大地と出会ったのも強斎のおかげだけど……大地は? 強斎の第一印象ってどんな感じに取れたの?」
「そうだな……一言で表すなら――――」
大地は似合わない苦笑いを浮かべ、はっきりととんでもないことを言った。
「――――化物……だな」
「化物って……澪に怒られるよ?」
鈴は澪の異常なまでの強斎愛を知っている。
半分冗談抜きで冷や汗を流しながら澪を確認した。
しかし、澪は怒るどころか……。
「……うん、確かにそうかも」
肯定してしまったのである。
「あー、確かにそうかもね。うん。強斎は化物だったよ」
「私も澪ちゃん達と同感。強斎君は本物の化物……所謂チートってやつ?」
勇志と緋凪も強斎のことを化物呼ばわりしていた。
「え? え? ちょっと待って。強斎が化物? どういうこと?」
「そのままの意味だよ。多分、この世界に来て強斎だけが弱くなったと思う」
「澪……それって……」
「うん。強斎は喧嘩に関しては化物レベル……ううん。本来ならありえないレベルで強かったの」
「ありえないって……流石に言い過ぎじゃない?」
「いや、そんなことはない」
「大地まで……」
「鈴は、俺の家系が総合格闘技を教えている事は知っているよな?」
鈴は無言で頷く。
「総合格闘技って言うのは、ありとあらゆる格闘技をマスターしなければならない。故に、総合格闘技を極めた者こそ最強と言っても過言ではないんだ。そして、親父は世界レベルで強かった……だが」
「……」
「親父や、俺の兄弟含む門下生はたった30分で全滅したよ……強斎の手によってね」
「!? ど、どういうこと!?」
「そのままの意味さ。強斎は世界レベルの親父だけではなく、総合格闘技を習っている者数十人を相手に戦い……いや、ワンサイドゲームをしたんだ」
「強斎は武器を使ったの?」
大地は無言で首を振る。
「いや、強斎は使っていない。むしろ、門下生達が武器を使ったんだ」
「さっきから話を聞いてると、大地は参加しなかったように聞こえるけど……」
「ああ、俺は参加しなかったよ……と言うより」
大地はその時を思い出しながらポツリと呟いた。
「強斎が参加したと言ったほうがいいな」
澪、鈴、ヴェレスの合体技の名前を募集しています
攻撃特化の火属性です!
次回から地球に戻ります!