54話 勇志VSベルクっぽい
「お前らか? 俺に用があるってのは」
勇志達はアルノに言われた通り、受付嬢にギルドマスターに用があると伝えた。
少し経つと二人は部屋に案内され、座っていた男にそう言われたのだ。
「実はお聞きしたいことがありまして――」
「却下だ」
勇志の言葉を問答無用で却下した男にヴェレスは怒りを感じ、少々強い視線を送る。
そして、口を開いた。
「少しぐらい耳を傾けてもいいと思いますが? ベルクさん」
そんなヴェレスを見て、ベルクと呼ばれた男は小さく笑う。
「まさか、あのドレット王の次女からそんな言葉が聞けるとはな」
「っ!?」
自分の身分を見破られたヴェレスは少しだけ動揺してしまった。
そんな動揺を見て、ベルクは小さくため息をする。
「まさか、見破られないとでも思っていたのか? ヴェレス・ドレット」
「い、いえ……いつかは見破られる覚悟でした……変装もなにもしてませんし……」
「言い訳をしないあたり好感はもてる……が、これでわかっただろ?」
何がとまで言わなくても、ヴェレスはわかっていた。
しかし……。
「あなた方がドレット王国をよく思っていないのは承知しております……ですが、少しでいいですからお話を――」
「さっきも言ったが、却下だ」
「ど、どうして……」
「お前らドレットの名を持つ奴らは、大抵同じ話をしにくる。『ドレット側につかないか?』ってな」
今度はベルクがヴェレスを睨んだ。
スキルも何も使っていないのだが、少し睨まれただけでヴェレスは尻込みしてしまう。
しかし、尻込みしたのも数秒で、ヴェレスは負けじと睨み返しながら口を開く。
「……確かに、ドレット家としてここに来たとしたらそうかもしれません……ですが」
ヴェレスは少し溜めてから、意を決したように言った。
「私は、今はドレットの名を捨てております」
「ほう……」
この意味がベルクにはわかったようだ。
「と、言うことは国としてではなく、個人的に来たということだな?」
「はい」
そのことがわかった途端、ベルクから力が抜けるのがわかった。
「ひとまずは信じるとしよう。こちらが警戒しすぎていたようだ」
そう言うと、今まで黙っていた勇志にベルクは話しかける。
「君は私の密偵に気がついたか?」
「……アルノ、ですね?」
「ほう、さすがはドレット王国の勇者だ」
ヴェレスは二つの意味で驚いていた。
一つはアルノがベルクの密偵だということ。
もう一つは勇志が勇者だとバレていることだ。
しかし、勇志は特に驚くことなくベルクに答える。
「少し考えればわかることです。この国に来て間もないという冒険者の名前を出しただけで、ギルドマスターに直接会えるなんて普通はありえませんから」
「では、俺がお前をドレット王国の勇者だと見破ったことに対しては?」
「それも大したことありません。だって、あなたはヴェレスがドレットの名を捨てたことを知っていたのですから」
「ゆ、ユウシさん!? それってどういう……」
ヴェレスの慌てっぷりとは対照的に、勇志は落ち着いて答える。
「いくらなんでも簡単に信じすぎなんだよ。王族の血統が名字を捨てたなんて普通は信じるもんじゃない。それをこの人は簡単に鵜呑みにした……騙されやすい人だったらわかるけど、この人は冒険者のトップ……そんな事ありえないよ。そして、ヴェレスがドレットの名を捨てたことがわかっているなら、僕たちの存在を知っていてもおかしくない……そういうことさ」
そこまで言ったところでベルクに問う。
「どうしてこんな真似したんですか?」
「本当に……流石だ」
「ですから、少し考えればわかると――」
「確かにお前も中々の名推理だが、俺が言っているのはお前じゃない」
「え……?」
「まぁ、お前には関係ないことだ。俺がこんな真似をしたのはとある奴に頼まれた。ただそれだけだ」
「頼まれた……? ギルドマスターであるあなたに? 一体誰が……」
「お前には関係ないと言っているだろう。で、なんの用だ?」
今までは話終わる前に拒否してきたベルクだったが、今度は聞く耳をもっているようだった。
――――――内容を聞くまでは。
「えっと、実は『ショクオウ』と接触したいのです。ですから、『ショクオウ』の居場所を教えてもらいに来ました」
勇志はベルクの返事を待っていたが、明らかに雰囲気が変わったので聞き返そうとする。
「えっと、ベルクさん?」
「……結局は王の命令か」
「え?」
勇志に聞き取れない程小さく呟いたベルクは、すっと立ち上がって威圧気味に勇志を睨んだ。
「あいつの事を教えて欲しかったら、俺と手合わせをして勝ってみせろ」
「え? え?」
何がなんだかわからない勇志は、ここで初めての焦りを見せた。
そんな勇志を無視して、ベルクは話を続ける。
「今、調整中の訓練場がある。もう調整は終わっているがまだ開放していない。そこで俺と剣を交えろ」
「えっと、話が見えないのですが……」
「いいからついてこい」
こうして、半ば強引に勇志達は誰もいない訓練場に連れて行かれた。
………
……
…
「もう一度訊きます、戦う以外で『ショクオウ』を知ることはできないのですか?」
「愚問だな」
ようやくスイッチの入った勇志は、あくまでも冷静にベルクを観察する。
#
ベルク・ローダン
LV276
HP 16850/16850
MP 17300/17300
STR 1486
DEX 1501
VIT 1479
INT 1583
AGI 1495
MND 1532
LUK 80
スキル
剣術LV27
体術LV24
竜の威圧波動LV14
隠蔽LV12
状態異常耐性LV20
危機察知LV26
火属性LV18
土属性LV20
光属性LV15
HP自動回復速度上昇LV16
MP自動回復速度上昇LV12
属性
火・土・光
#
(ベルクさんのステータスはLUKを除いたら僕の1.5倍近く差がある……。普通に戦ったら僕の負けは確定かな……でも)
「わかりました、なんとしても勝ってみせます」
「せいぜい楽しませてみろ、ドレット王国勇者」
勇志とベルクは戦闘体勢をとった。
そんな様子をヴェレスは安全な場所から見ていた。
(ユウシさん……ベルクさんのステータスはユウシさんを上回っています。『限界突破』を使ったらステータスでは勝てますが……)
ヴェレスはベルクを見て歯を食い縛る。
(悔しいですが、ベルクさんの実力は本物……。ステータスで勝っても勝負に勝てるとは限らないでしょう……)
ヴェレスは祈ることしか出来ない自分に怒りを感じながら、この戦いを見届ける事を誓った。
「お前から来いよ」
ベルクは勇志に初手の攻撃を許した。
勇志も余裕がないので、それに甘えることにする。
「じゃあ行きますよ……『限界突破』!!」
そう叫んでから一瞬でベルクの懐に潜り込み、切り上げる。
ベルクはそれを軽く右に避けて、勇志を蹴り飛ばした。
「くっ……!」
勇志は直ぐに態勢を立て直し、無詠唱で数個のかまいたちを作り攻撃を仕掛けた。
続いて勇志もベルクに向かうが、かまいたちは全て弾かれ、いつの間にか現れた岩を高速でぶつけられた。
「ユウシさん!」
ヴェレスは勇志を心配して声をかけるが、勇志は大丈夫だと言わんばかりに手を振る。
「『限界突破』をしてなければ今のでやられてましたよ」
「そうは言っているが、あまりダメージはなさそうだな」
「そんなことはない……ですっ!」
勇志はまたベルクの懐に潜り込んで切り上げた。
「何度やっても同じだ」
ベルクは先ほどと同じように右に避けて、勇志を蹴る。
だが、勇志にその蹴りが当たることはなかった。
「なっ……」
「何度も同じことは繰り返しませんよ」
勇志はベルクの背後にいたのだ。
そのまま、勇志は剣を横に薙ぎ払う。
どうして勇志が、何のためらいもなく人を斬ろうとしているかというと、理由はこの訓練場にあった。
この訓練場で受けたダメージは外部の損傷ではなく、精神へ行く。
痛みは受けるが、傷は全くつかないのだ。
実はこのシステムを作ったのはつい最近……4ヶ月前にとある男が作ったのだ。
ベルクは薙ぎ払われた剣を間一髪のところで自分の持っている剣で受け止めた。
そして、その反動を利用し勇志から離れる。
「あの態勢からよく受け止められましたね」
「ああ、自分でも驚きだ」
ベルクは小さく笑って、剣を構えなおす。
「やっぱり、お前は似ているよ……あの男……『ショクオウ』に」
「……そうですか」
「ああ、だから……俺も本気を出してやる」
ベルクは威圧波動を勇志に向けて放つ。
ステータスは勇志が勝っているが、それでも一瞬怯んでしまった。
「俺は魔術剣士だ。だから剣で戦う!」
ベルクはそう言って、勇志の背後に回って薙ぎ払った。
………
……
…
「はぁ……はぁ……くっ!」
勇志は膝をついて息を切らせていた。
「ドレット王国の勇者ってのは、こんなに軟弱なのか?」
ベルクはそんな勇志を見下ろしながらそう言った。
勇志は歯を食いしばって、なんとか立ち上がる。
「いい加減諦めろ。お前は俺には勝てない」
「そんなの、最後まで闘わないとわからない……!」
あくまでも反抗する勇志にベルクは小さく鼻を鳴らして答えた。
「既にわかりきっているはずだ。『限界突破』まで使ったんだろ? それでもこの差だ。お前は俺には勝てない」
「はぁ……はぁ……なら、もう一度『限界突破』を使うまでだ! 『限界突破』!!」
「本当に馬鹿な男だ。1日で2回使うのすら辛いはずの限界突破を1回の戦闘で2回使うとは……。何故、そこまでショクオウの事が知りたい」
『限界突破』を使ったことにより、落ち着きを取り戻した勇志は静かに口を開いた。
「なんでだろうね。具体的な理由は特にないかな」
「国王に命令されたから……とは言わないのだな」
間違ってはいないので勇志は否定はしなかった。
「強いて言うなら、会わないといけない……そう僕の中で直感しているんだ」
そう言って、勇志は剣を構える。
「直感……ねぇ。だが、やはり教えるわけにはいかないな。教えて欲しければ――――――」
「あなたを倒す事……だったよね? 覚悟してね、さっきのようにはいかないから」
「ふん、2回目の『限界突破』状態の奴がよく言うぜ」
そうベルクが言った途端、勇志は動き出した。
しかし……。
「遅いっ!」
勇志が行動らしい行動をする前に、ベルクが勇志を斬る。
「くっ……! これでも……くらえ!」
勇志は土魔術と風魔術で濃い土煙を出した。
「ふんっ、こんな目くらましで勝てるとでも思っているのか?」
ベルクは集中をして、土煙から勇志が出てくるのを待つ。
しかし――――。
(ん? 何故だ? 全く動いていないのか?)
物体が土煙の中で動けば、土煙に何らかの変化がある。
しかし、土煙はこれといった動きはなかった。
「こういう時、どうするか……僕は悩んでいたよ」
すると、どこからか勇志の声がした。
声の発生源をベルクは探る。
「僕のかつての友達だったらどうするか……そう考えていたら、とある事を言っていた事を思い出したよ」
「……そこか!」
ベルクは声のする方に一直線に向かった。
すると、土煙の向こうに勇志らしき人影が見えた。
そして、その人影に向けてベルクは剣を振り下ろす。
しかし、ベルクは物凄い力で弾き返されてしまった。
「――――
勇志の手にはステータスを1.5倍にする剣が握られていた。
「な、なんだその剣は!? どこから出した!?」
流石のベルクも驚きを隠せなかった。
「ベルクさんには関係ない!」
そう言って今までとは比にならない素早さと力で、ベルクを圧倒した。
………
……
…
「……俺の負けだ」
勇志があの剣を使ってからは一方的だった。
「ははは、僕もできればこの手段は使いたくなかったんだけどね……」
そう言いながら倒れているベルクに手を差し伸べる。
「でも、約束は約束。『ショクオウ』の事を教えてもらうよ?」
そんな事を言う勇志に苦笑いしたベルク。
そして、勇志の手を借りて立ち上がった。
「わかったよ。あいつについて教えてやる……だが、とりあえずは、あの嬢ちゃんのとこに行ってやりな」
そうベルクはヴェレスを顎で指す。
今度は勇志が苦笑いをする番であった。
「ユウシさん!」
勇志がヴェレスのそばに行くと、半泣きのヴェレスが勇志に抱きついてきた。
「心配かけたね」
勇志はヴェレスの頭をそっと撫でる。
「……本当に心配しました。そして、なんの力にもならなくてすみません……」
ヴェレスは勇志の服をギュッと握って悔しそうに言って、顔を上げた。
だが、そんなヴェレスに勇志は微笑みながら否定する。
「そんなことないよ。ヴェレスの作ってくれたアイテムボックスがなかったら、あの剣は取り出せなかった」
そう言って勇志は自分の左腰を軽く叩く。
そこには小さな袋があり、それをヴェレスの時空魔術でアイテムボックスにしたのだ。
「そう言っていただけると……嬉しいです」
そうニッコリと笑うヴェレスを勇志は直視出来なかった。
「さて、どっから話そうか……」
勇志達は訓練場から出て、最初の部屋にいた。
何を話そうか迷っているベルクに勇志から話し出す。
「別にプライベートまで話す必要はありません。『ショクオウ』の居場所さえ教えてもらえれば……」
「ぷらいべーとが何かはわからんが、あいつの居場所ははっきり言ってわからん」
「え……」
そう言われた途端、勇志はあの激戦の走馬灯が見えた。
「だが、大体の予想はつくな」
「ほ、ホントですか!?」
勇志は現実に戻ってきて、ヴェレスが答えた。
「ああ、ここから一番近い転移門はわかるか?」
勇志とヴェレスは同時に頷いた。
「あいつはそっち方面に行くとか言っていた。だが、あいつのことだ。寄り道でもしてどっかの国で飯でも食ってるだろうよ」
ベルクはそう言って笑い始めた。
そんなベルクを見て、勇志は立ち上がる。
「ありがとうございます。僕たちが聞きたかった事はこれだけなので……とりあえず、転移門付近の村や町を探してみます」
「おう、すまんな。これだけのことしか言えなくて」
「いえ、いい経験になりました……」
そう言って勇志はニッコリと笑う。
「ははっ、俺も久しぶりにマトモな人間に負けたよ」
「マトモじゃない人間がいるんですか?」
「ああ、自分は人間とか言っている怪物がな」
「是非あってみたいですね」
勇志は『ショクオウ』を人間だと思っていないらしい。
「ふっ、その怪物こそ『ショクオウ』だよ」
「……まさか、『ショクオウ』って人間なんですか?」
「人間かどうかは会ってから判断するんだな」
「そうします……」
そして、勇志たちはベルクにお礼を言い、部屋を出ようとする。
「あ、そうそう」
だが、出る前にベルクに呼び止められた。
「実はな、『ショクオウ』ってのは本名じゃないんだ」
「え? そうなんですか?」
「ああ、あいつの本名は――――――」
勇志はその名を聞いた瞬間、全身に鳥肌が立った。
恐怖や悪寒などではない。
悦びで鳥肌が立っているのだ。
その名前は長いあいだ求めてきた人物……。
今、最も再会したい人物……。
「そいつの本名は――――――キョウサイ・タカナシだ」
死んだと思っていた、かつての親友だ。
ついに、強斎生存報告が勇者に知れ渡った!
これから、強斎の生存を知らされた勇者達はどうするのか……?
しかし!勇者視点はここまで!
次回から主人公視点に戻ります!
次回もお楽しみに!
戦闘描写が難しかったです。
実はこれが初めてのマトモな戦闘だったりします。