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53話 馬鹿な少年の奢りっぽい

はい、お久しぶりです。

キリのいいところで終わらしてしまったため短いです


「解析持ち……?」


「そうだ」


 戸惑い気味の勇志の言葉に、アルノは小さく頷いた。


『ユウシさん、『解析』は『超解析』の劣化版です』


『あ、ああ』


 となりに座っているヴェレスが、勇志に耳打ちする。


 だが、勇志が戸惑っていたのは『解析』の意味がわからなかったことではない。

 そもそも、『解析』が『超解析』の劣化版だということは聞いてすぐわかったことなので、別に教えてもらう必要などなかった。


 では、なぜ勇志は戸惑い気味だったのか。


 それは――――――。


「ね、ねぇ。ちょっといいかな?」


「どうした?」


「どうして……。どうして、初対面の僕たちに自分のスキルを明かしたんだい?」


 そう、勇志が戸惑っていた理由はこれだ。


 全くの初対面のはずの人に自分のステータスを、一部とはいえ明かすのは少々おかしい。

 その事に戸惑っていたのだ。


 そして、アルノは小さく鼻を鳴らして答えた。


「俺はな……馬鹿なんだよ」


 アルノの目は勇志ではなく、どこか遠くを見ているような感じだ。


「俺がお前にスキルを明かしたのは、ある男に似ていたから。ただそれだけだ」


「似ていた?」


 勇志は少しだけ考えた。



 ――――自分のどこが似ているのか?



 しかし、これだけではあまりにも範囲が広すぎるので、勇志はアルノの言葉を待つ。


「ああ、なんていうかな……お前とぶつかった時、なぜかあの男が出てきたんだ。雰囲気……いや、匂い……かな?」


 匂いと言った瞬間ヴェレスの眉がピクリと動いたが、勇志はその事に気がつかずにアルノに訊く。


「……その男のこと、詳しく聞いてもいいかな?」


 勇志の目は真剣そのものだった。


 その真剣さがアルノには伝わっているのかどうかはわからないが、アルノは小さく笑って答えた。


「別にいいが……お前、冒険者ギルドに用があったんじゃないのか?」


 そう言われ、勇志とヴェレスは思わず「あっ」と声を出してしまう。


「そうだった……僕たちはギルドマスターに用があって……」


「あーギルマスは今は無理だぞ。俺もギルマスに用があったんだが、少し後にしてくれって追い返された」


「そ、そうだったの?」


「ああ」


 勇志とヴェレスは、互いに顔を見合わせて苦笑いした。

 そして、一息ついてから勇志は改めて訊く。


「じゃあ、その男の事聞かせて」


「んー、そうだな……」



 勇志はとある可能性を感じていた。


 勇志は地球にいた頃、とある事を言われたことがあった。



『勇志君と強斎君ってさ、何か似てるよねー」


『僕と強斎が?』


『うん、なんていうかな? 雰囲気? いや、匂い? そこがなんとなーくだけど似てる気がする』


『ふーん』



 そう、勇志が感じている可能性。それは――――――。





 ――――――――強斎が生きている可能性。





 勇志はアルノの話をしっかりと聞きながら可能性を探っていた。



 その男は奴隷を二人持っていて、その二人共女性だということ。


 アルノは自分に自信を持ちすぎていたために、その男のことを見下していたこと。

 そして、そのまま眠ってしまったこと。


 それから3ヶ月後、ここにたどり着いたこと。

 しかし、着いた瞬間その男の奴隷にボコボコにされたこと。


 その時服に刺さったナイフを見て、コツコツ頑張ると決めたこと。

 そのナイフはかなりの高レベル武器で、自分の適性ランク以上の魔物も倒せたこと。

 そして、そのままレベルアップをドンドンしていき仲間も増え、ここまでたどり着いたこと。



 そんな話をアルノは楽しそうに話していた。


 そんなアルノを見て、可能性を探っていた勇志は少しだけ罪悪感を感じた。


(これだけじゃわからないな……でも)


 この話だけでは、アルノのいう男が強斎だとは思えない。


 しかし、新たな可能性が出てきた。


 ヴェレスも気がついたようで、勇志の目をじっと見ている。


 勇志は軽く頷いた。


(恐らく、その男こそ『ショクオウ』なんだろう……。そして、『ショクオウ』に会えば全てがわかる気がする……)


 勇志は『ショクオウ』と接触することを心に決めたのであった。


………

……


「っと、そろそろだな」


 話が一通り終わりお互い住んでいる王国の話をしていたとき、アルノは急にそう言って立ち上がった。


「そろそろギルマスにあってもいい頃合だろ、行ってこいよ」


「君も行くんじゃないのか?」


 アルノもギルマスに用があったはずなのだが、先に行ってこいと言うアルノに勇志は疑問を抱く。


 そんな勇志の質問にアルノは小さく鼻を鳴らして答えた。


「いくら俺が馬鹿だからといっても、イチャイチャカップルを長々と待たせる程落ちぶれていねぇよ」


 そう言われた二人は、ちょっぴり顔が赤かった。

 そんな二人を見て、アルノはニヤニヤしながら言葉を続ける。


「俺の用事はそんなに急ぐものでもないしな。ここは俺の奢りだからさっさと行け」


 そう言ってアルノは二人の背中を押す。

 二人はそんな力に逆らえないまま店を追い出された。


「適当な受付嬢にギルマスに用事があると言えば大体は通れるだろう。まぁ、通れなかったら俺の名前を出せ、わかったな?」


「……何から何まですまないね……アルノ」


「ふっ、……言ったろ? 俺は馬鹿なんだよ。まぁ、またいつか会うことになるだろう。そんときは奢ってくれよ? ……ユウシ」


「……本当に君は馬鹿だね。でも、僕はそういう馬鹿は嫌いじゃない」


「そうかい、褒め言葉として受け取っておくよ」


 そう言って、アルノは店に入っていった。


「……ありがとう」


 勇志もそう呟いて、ヴェレスと共にその場を去った。




「…………」


 アルノは勇志達が去ったのを確認し、席に座り直した。


 そして、ニヤリと笑いながら小さく呟いた。


「『コウチャ』ねぇ……」


 アルノは周りを見て「ふぅ……」と一息ついた。


(あいつの言う通り、こいつを飲ませたらかなり驚いていたな)


 目の前の紅茶に視線を落とし、考えを続ける。


(この店が繁盛しているのは、別にこいつがあるからってわけじゃない。そもそも、こいつはもうずっと前からこの国にある)


 アルノは紅茶を一気に飲みほす。


(流石にドレット王国にこいつがない事は驚いたが……まぁ、結果として上手くいったわけだ。4ヶ月前に広まったのはまた別のものなんだよな)


 そして、アルノは立ち上がり紅茶代を払う。


(さて、こっからはお前の仕事だぜ? ベルク)


 自分に指示を下した人物の無事を祈るアルノだった。



アルノ


LV38


HP 172/172

MP 150/150

STR 63

DEX 59

VIT 60

INT 58

AGI 61

MND 38

LUK 25


スキル

剣術LV3

短剣LV4

体術LV3

解析LV3

状態異常耐性LV2

水魔術LV2

自動HP回復速度上昇LV2


属性



アルノが知的?いえ、違います。

落ち着いただけです。

アルノが持っている武器は、ミーシャの使い捨て短剣です。


今回で勇者視点を終わらせるつもりでしたが…

ちょっと長くなるのでカットしました。

次はなるべく早く更新します!


次回もお楽しみに!

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