47話 解読不可能の本っぽい
「ここを……乗っ取るだと?」
「そうだ、ここを乗っ取る」
キャルビスはその言葉の意味を少し考えるが、諦めてその意味を強斎に訊いた。
「それは魔王になるのとは違うのか?」
「ああ、違うな。お前の魔王の地位はそのままだが、俺の指示は出来るだけ聞いてもらう」
「絶対服従とは違うのか?」
「ああ、違う。お前も俺に意見を言っていいし反論もいい」
「結局は魔王と変わらんではないか」
「さっきも言っただろ?魔王なんて面倒だ」
そう言って強斎は一拍置いてから、とある方向を見て声を上げる。
「おい、そこにいる魔族。出てこい」
強斎がそう言うと、物陰から魔族が出てきた。
その魔族は、ルナが部屋に入って来る前に入ってきた魔族だった。
「さっきの話は聞いてたな?」
「え、いや……あの……」
魔族は恐怖を感じているのか、強斎と目を合わそうとしない。
「随分内気な性格だな……魔族ってイメージじゃねぇぞ」
「いや、お前に恐怖するなんて当たり前だから」
「なんにもしてないけどな」
「嘘をつけ」
キャルビスが早々とツッコミを入れる。
「そんなことより、さっきの話は聞いていたな?」
「は、はいっ!」
強斎が睨むように言うと、魔族は背筋を伸ばし、しっかりと答えた。
「俺はこいつとこの国を支配する。その事を上手く国民に知らせろ。まぁ、同盟を組んだとでも言っておけ」
強斎は一回演技をしたのがいけなかったのか、テンションが高い。
「キョウサイ様、話は終わりましたか?」
強斎が魔族に指示をした後に、ミーシャ達が強斎の方へ寄ってきた。
「まぁ、一応な。おい、キャルビス」
キャルビスはどこか疲れた顔で強斎に応答する。
「……なんだ」
「こいつらも俺と同じ待遇をしろ、いいな」
「……ああ」
キャルビスは気力なく答えた。
「ご主人、どこかおかしくないか?」
「レイア、これも全てゼロのせいよ」
「ミーシャよ、私は何もやっていないわ」
「でも、前科がありますよね?」
「ルナ、もうやめて、反省してるんだから……」
………
……
…
「はぁ、この国ももう終わったかな……」
強斎たちに部屋を与えた後、キャルビスはそう呟いていた。
「魔王様……あれは本当に人間なのでしょうか?」
先ほどの魔族がキャルビスの呟きに答える。
「わからん。だが、あのキョウサイと言う男とゼロという女。あいつらだけには逆らってはいけない。絶対にな」
「まさか、魔王様……見たのですか?」
「ああ、数秒だけな。だが、やはり数秒でもきついものだ」
「それはお疲れ様です。それで、いくつだったのですか?」
魔族は興味ありげに魔王に訊いた。
この様に図々しく魔王に質問できることから、かなり地位の高い魔族だとわかる。
「まず、あの兎族だが……ランク4000以上だ」
「なっ!?4000!?神獣の最上級レベルの10倍!?」
魔族の男は顔を真っ青にしていた。
「私のランクが70ちょっと……私レベルが100人……いや、200人いても勝つのは難しいだろう」
「そんな……通りで幹部達が次々と……」
「呆れるのはまだ早い。あの兎族が言ったように、兎族自身はあの中で最弱だった」
「このレベルで最弱と……?」
「ああ、次にあの狼族と狐族……。あいつらは、二人共ランク6000を超えていた……」
「6000!?」
「その通りだ」
キャルビスは目元に手を当て、必死に状況の整理をしている。
「しかし、魔王様の『特殊能力』……計り知れないですね」
「ああ、私もここまで測れるとは思っていなかったよ。……だが、やはり限界があったな」
「絶対に逆らってはいけないと言う程の二人……ですか?」
「ああ、その通りだ。そうだな……お前はどれだけの数を言える?」
魔族の男は少し戸惑ったが、やがて答えた。
「京……ですかね」
「そうか、確か京は億の次だったか?」
「億の次は兆ですよ」
「…………まぁ、私には億が限界だ。それで、お前はこの文字を見たことがあるか?」
キャルビスは壁に『E+』という文字を書いた。
「いーぷらす……ですか?」
「なんて読むのかは知らん。だが、あの二人にはこれが見えた」
「……どのように見えたのですか?」
「あのゼロという女は3.5E+28と見えたな」
「……あまり高そうに見えませんが」
「私もそう思ったさ。だがな、その後に続いて見えるものを見たら、そんな事言えなくなったな」
「い、一体何が……」
魔族の男はゴクリと喉を鳴らし、キャルビスの言葉を待つ。
「数値オーバー……桁数が多すぎて表示しきれていないらしい。初めて見たな、あんな説明」
「桁数が多過ぎる……と?」
「ああ、そうらしい」
「それで、あの男の方は……?」
「3E+60……はっきり言って、どっちが大きいのかわからんが、恐らくこの男の方だろう」
キャルビスは盛大にため息をして、上を見た。
「……この国も終わったな」
そして、同じことを呟いたのである。
………
……
…
「ここが、この国の図書館か……」
強斎はキャルビスに案内され、この魔国……キャルビス王国の王城地下図書館に来ていた。
少し薄暗いが、確かに図書館であった。
「ああ。お前には、ここにある最も厳重な警備が施されているフロアにいてもらう。今、お前が動けるのはこのフロアと与えた個室だ。しばらくしたら、自由に動けるようになると思うから待ってろ」
「ああ、了承した」
「よし、一通りこのフロアを案内する」
そう言って、キャルビスはパチンと指を鳴らす。
すると、フロア全体が明るくなった。
「魔族なのに、光属性が使えるのか?」
勿論、強斎はキャルビスが光属性を持っていないことを知っている。
怪しまれないように先ほどのように訊いたのだ。
「いや、光属性は使えない。火属性を変換しているだけ……らしい」
「らしいって……」
「私が詳しく知るわけないだろう」
そう言って、キャルビスは歩き始める。
「このフロアにある、とある場所に置いてある書物は、何代もの魔王が解読できていないらしい。勿論、私も何を書いてあるのかさっぱりだ」
暫く歩き、少し目立った柱の前で止まった。
「ここからお前たちの部屋に繋がる簡易転移装置を作る。いいな?」
「ん?ああ、頼む」
「何か考え事をしていたのか?」
「まぁ、ちょっとな」
「そうか。私はもう戻るが、お前はこのフロアにいるんだろう?」
「ああ。それと、ミーシャ達を連れてきてくれ」
「……?まぁ、いいが……」
そう言ってキャルビスは去っていった。
強斎は暫く去っていった方を見ていたが、向きを向き直り、小さく呟いた。
「解読できない本……か」
そして、強斎はその解読できない本がある場所に向かう。
強斎はその中から一冊取り出して、微笑んだ。
そして――――――。
「『通常スキル一覧表』……か」
強斎は解読できない本をあっさりと読み上げてしまったのである。
さて、強斎は何故こうもあっさりと読み上げてしまったのか?
スキルの言葉使いのおかげか?
属性のおかげか?
それとも魔術?
それとも……
次回もお楽しみに!
えっと、感想の返信ですが、活動報告を使って返信をやってみたいと思います。
できるだけ直接返信しますが、保険としてです。