38話 重い空気っぽい
沢山の感想ありがとうございました!
様々な方から様々なご意見を頂いて、本当に嬉しかったです!
これからも頑張ります!
「はぁ……」
誰かがため息を出す。
ここはドレット王国の食堂。
そこに8人の勇者とヴェレスが朝食をしていた。
「リンさん、食事中にため息はお行儀が悪いですよ?」
ヴェレスが先ほどため息をした鈴を注意する。
ついでに、ヴェレスが仲間に加わってから、呼び方が『様』から『さん』に変わっている。
「あー……ごめん……」
「まぁ、ため息を出す気持ちもわかりますが」
ヴェレスと鈴はそう短く会話をして、また無言になる。
この重い空気の中、澪がポツリと呟いた。
「……私、ルナさんの言う『主様』って人……悪い人じゃないと思う」
そう、この重い空気は昨日のルナと関係している。
昨日、ルナを仲間に加えようとし、失敗した。
そこで話に挙がったのが『主様』の存在だ。
転移門付近の森からドレット王国に転移した時、琴音が『主様』について考えを述べた結果でもある。
――――ルナさんの『主様』に対する信仰が異常。
その言葉に誰も否定出来なかった。
そして、琴音は続けてこう言った。
『ルナさんってもしかしたら、その『主様』って人に、『命令』であんな風にされてるんじゃないかしら?』
勇者達は奴隷について様々な事を聞かされている。
悪い部分だらけだったので、奴隷持ちは勇者達の中で『外道』と認識されている。
だから、このような発言が出てきても誰も否定しなかったのだ。
しかし、今日の朝食で、『主様』が外道ではないと言う発言が出た。
「ミオさん?どういうことですか?」
ヴェレスが澪の発言に対して疑問を感じた。
ヴェレスも勇者達の同じように、奴隷制度に強く反対している。
しかし、自分と同じように反対している人から、奴隷持ちは悪人では無いと聞かされれば疑問を持つだろう。
「えっとね……特に根拠はないんだけど……何か、ルナさんの『主様』って…………いや、なんでもない。ごめん、忘れて」
澪はルナの『主様』に何か感じるところがあったみたいだ。
澪の不明な発言が終わり、少しすると食堂の扉が開いた。
「あっ……お父様!」
ヴェレスがいち早く反応する。
扉を開けたのはドレット王国の国王、ホルスだった。
「食事中すまないが、少しいいだろうか?」
ホルスは9人を見て、そう言った。
皆、一斉に頷く。
「実は、以前から勇者様方に加えさせようとしていた人物がいてな……」
そこで、ホルスは若干暗い顔をする。
「その人物に接触する前に、魔物に襲われ、接触に失敗した。そこで、悪いのだが、勇者様方直々に接触を試みて欲しい」
「……急ですね」
ヴェレスがそう問いかけた。
1回接触に失敗したからといって、勇者達に頼むというのは少しおかしいと思ったのだ。
「少しでも早くその人物を引き抜いて欲しいのだ」
「何か、理由があるんですね?」
ヴェレスがホルスの目をしっかりと見て言う。
「ああ」
ヴェレスはホルスを少し見てから、勇志を見る。
この中で行動の決定権は勇志にあるのだ。
「僕はいいですよ」
あっさりと了承した。
「すまないな……。ではその人物について説明をする。その前に朝食を済ませてくれ」
………
……
…
朝食を済ませた勇者一同は、先ほどの食堂でホルスの話を聞いていた。
「まず、その人物の名前は『ショクオウ』、性別は男で金と銀の女と3人パーティーを組んでいる。そして、実力は……」
ホルスはスっと目を細め、言葉を続けた。
「対人戦、魔物戦、共に最強の冒険者と言われる程だ」
――――最強の冒険者。
これだけで、勇者達の顔は引きつった。
勇者達は人族の中では最強である。
しかし、それはあくまでも人族限定であって、亜人等は含まれない。
冒険者の中には勿論、亜人も含まれる。
その中で最強と言われているのだ。
どんな人物か気になるであろう。
「そんな人が仲間になるでしょうか?」
勇志が最もらしい事を訊く。
「……わからん。だが、なんとしても引き抜いて欲しい……」
ホルスが焦り気味に答える。
その行動にヴェレスは不思議に思った。
「お父様、何故そんなに焦るのです?確かに、そのような冒険者がいて下されば、魔神討伐も楽になりますが……。そもそも、その冒険者はどこにいるのですか?」
ヴェレスの問いにホルスは一瞬動揺する。
その動揺をヴェレスは見逃さなかった。
「……お父様?」
「……」
「お父様!」
ヴェレスはバンッと机を叩く。
国王にこのような態度をとれるのは、恐らく血族以外にはいないだろう。
家名を捨てても、このように振る舞える証拠だ。
「ヴェレス、落ち着くんだ」
「ゆ、ユウシさん……ですが……」
勇志がヴェレスを止めに入る。
そして、そのまま言葉を続けた。
「国王様、その冒険者が居る場所を教えていただけないと、向かおうにも無理があります」
そう勇志が言うと、ホルスに反応があった。
「……そうだな。その冒険者が居る場所、それは…………シッカ王国だ」
その言葉を聞いた瞬間、ヴェレスが勢いよく立ち上がる。
「……っ!!」
ヴェレスは物凄い勢いでホルスを睨む。
そして――――。
「……失礼します」
そう言って、ヴェレスは食堂を出て行った。
「ヴェレス!」
勇志がそう言って、ヴェレスの後を追う。
「あ、ちょっと!勇志!」
鈴が席を立って、勇志の後を追いかけようとするが……。
「待ってくれ」
ホルスがそれを止めた。
鈴は立ち止まり、ホルスを睨む。
「国王様さ、この状況をわざと作ったんでしょ?」
すると、ホルスはため息をした。
「流石、勇者様だ……。ヴェレスにはあまり聞いて欲しく無い話題だからな。ユウシ殿が出て行ったのは驚いたが……、まぁ、後で聞いてもらう」
鈴は席に戻り、その続きを聞くことにした。
「……もしかしたら来年……戦争になるかもしれん」
その場にいた全員は、固まってしまった。
………
……
…
「ヴェレス、待ってくれ!」
少し先を走るヴェレスに、勇志はすぐに追いつき手を取る。
手を掴まれたヴェレスは立ち止まった。
「ユウシ……さん」
「ヴェレス……まさか――」
勇志はヴェレスを止めたことを少し後悔してしまった。
ヴェレスの声を聞いて、とあることに気がついてしまったのだ。
そして、ヴェレスは勇志の顔を見る。
そう、ヴェレスは――――。
――――泣いていたのだ。
勇志は自然とヴェレスの手を離す。
しかし、ヴェレスは逃げなかった。
「……なんで、泣いているんだい?」
「あ……すみません……」
ヴェレスは急いで涙を拭う。
涙を拭い終わったヴェレスは、少し無言になり、勇志にこう言った。
「……場所を変えてお話しませんか?」
勇志は無言で頷くことしか出来なかった。
………
……
…
「――――と言うことだ。だから、ヴェレスには黙っておいて欲しい」
ホルスの話が終わった頃には、皆、疲れたような顔を見るしていた。
そして、鈴がポツリと呟いた。
「……どの世界も、人間ってのはこんなものよね」
「……すまないな、だが――」
「わかってる、国王として仕方ない事なんでしょ?私も国王様が悪い奴には思えないしね。だけど、協力する気もない。私たちは、強斎を生き返らせるためにいつも通りレベル上げをさせてもらうわ」
「今はそれで十分だ……」
「それと、ヴェレスの護衛は任せて。その辺は魔物だろうが人間だろうが関係ないから」
鈴がそう言って立ち上がる。
「もう、話はないわよね?」
「ああ、時間を取らせてすまなかったな」
「ならいいわ。……あ、そうだ」
鈴は立ち去ろうとするが、その行動を一時中断した。
「澪、緋凪、琴音。後で私の部屋に来なさい」
ニヤリと笑って鈴は立ち去っていった。
今回は少し無理矢理終わらせました。
前編だと思ってください。
感想待ってます!