30話 迷宮を作成してる途中っぽい
「主人、少し訊きたいのだけど」
「なんだ?」
ゼロはミーシャからもらった服を着て、強斎に尋ねた。
今、ゼロと強斎は迷宮の階層を増やしている。
冒険者達に気がつかれないためだ。
他の奴隷達は上の階層を迷宮らしくしている。
ついでにルナのレベル上げだ。
よって、今は二人っきりである。
「主人は記憶喪失なんかじゃないよね?」
「……」
「肯定と受け取るわ」
「何も言ってないぞ?」
「わかり易過ぎるのよ。他の子も薄々……いや、もう気が付いてるのでしょうね」
「……」
「後、これは私の勝手な予想だけど……」
ゼロは地面に手を置き、その数メートル下目掛けて魔術を使う。
すると、大きな音が聞こえた。
新しい階層ができた証だ。
そして、ゼロは立ち上がってから強斎の目をしっかり見てこう言った。
「主人ってこの世界の住人じゃないよね?」
「…………は?」
強斎は内心動揺するもの、いつものポーカーフェイスでやり過ごす。
「全く表情を変えないなんてね……。これは私の予想が外れたかしら?」
「なぜそう思った?」
「ん? なんとなくよ。普通、主人みたいな人がのうのうと放浪してるわけないでしょ?」
「目的はあるんだがな……一応」
「へー……どんな?」
「魔界に行くことだ」
「なに? 魔神になるつもり? まぁ、主人だったら神々の討伐もできるでしょうね」
ゼロも強斎の扱いに慣れてきた。
その言葉に、強斎は苦笑いを浮かべる。
(神々の討伐って……ん? 神様討伐したら、元の世界に帰れるのか?)
そのことに疑問を持ったので、早速ゼロに訊く。
「なぁ、神を討伐したらどうなるんだ?」
「え? ほんとに討伐しちゃうの?」
「するわけねーだろ。まぁ、敵対してきたらその限りじゃないけどな」
「ふーん……。まぁいいわ。神を倒したら、その神の持ついくつかの権限が手に入るわね」
「権限?」
「そ。例えば……主人は竜を倒したことある?」
「ああ、あるな」
「そしたらさ、竜の威圧波動ってスキル手に入ったでしょ? それと一緒」
「ほう、そうだったのか……」
ゼロと強斎は先ほど造った部屋に行き、瓦礫等を回収する作業に入った。
…………一瞬で終わるのだが。
「話が戻るけど、主人は魔界に行って何する気? まさか、本当に魔神になるつもり?」
「いや、ないから。てか魔神なんてそう簡単になれんだろ」
「私の主人になった時点で魔神を名乗れば魔神よ……歴代最強のね」
「歴代最強って……流石にそれは言い過ぎじゃないか?」
「何言ってるのよ。私、4代目の魔神だけど、初代から3代の魔神を一瞬で消したのよ?」
「へ、へー……って、初代と2代目がいるのに、3代目がいたのか?」
「基本そういう奴らって寿命で死なないからね。強さを認められれば魔神を名乗れるのよ」
「魔神って人気の職業なんだな」
「少なくとも、私はなろうと思ってなったわけじゃないけどね」
「魔神魔神って言ってるから、好きでなったと思ってたけどな」
「魔神って言ったほうが上下関係が保てるでしょ?」
「このぼっちが」
「ぼっち?」
「なんでもない。とにかく、俺は魔神になるつもりはない。魔界には情報収集しに行くだけだ」
「情報収集だけに魔界に行くって……どこの調査隊よ」
「別に、俺たちだったらそこまで危険じゃないだろ?」
「そうね、ルナ以外だったら全く危険じゃないと思うわ。私の知ってる魔界だったらね」
ちらりとゼロを見ると、ジト目で睨んでいることに気がついた。
「な、なんだよ……」
「いや、ミーシャとレイアって主人が強化したんでしょ? あそこまで強い奴隷なんて普通いないから」
「まぁ、そうなんだが……」
「じゃあ、何でルナも強化しないの?」
「だから、色々あって……」
「色々って何よ、色々って」
そう、強斎は眷属ステータス分配について、とある可能性を考えていた。
それは――。
「あ、まさか……えっちしたか、どうか……とか?」
「うぐっ……」
流石の強斎もポーカーフェイスを保っていられなかった。
そう、強斎はこの可能性もあると考えたが、直ぐに捨てたのだ。
理由は一つ。
同性だった場合、実行が困難な為である。
「あら? 図星?」
「いや、それは一つの可能性であって……」
「だったら、試すしかないわね」
「は? お前何を言って――」
そこまで言った時、強斎はゼロの唇で唇を塞がれた。
「!?」
数秒後に、ゆっくりと唇を離すゼロ。
「ふふっ……主人の唇って……甘い」
トロッとした目で強斎を見る。
すると、ゼロは着ている物を脱ぎだした。
完璧以上に完璧な肌が、顕になる。
「お前……正気なのか?」
「至って正気よ? 実際に試さないとわからないでしょ? それに、私は主人のことが好きなのよ? 嫌がるどころか、喜んで処女をあげるわ」
そして、完全に生まれたままの姿になったゼロは、強斎にふわりと抱きつく。
「主人も満更じゃないのね」
「うっさい」
「ふふっ、戦いでは完全に主導権を握られたけど、こっちでは私が勝ってみせるわ」
「……はぁ、ここじゃあいつらが帰った時に、気まずくなる。場所を変えるぞ」
そう言って、新しく部屋を造る強斎。
「あら、ヤる気満々じゃない……主人も男の子ね」
「うるさい。こっちでもワンサイドゲームにしてやるよ」
「それはどうかしらね?」
こうして、強斎とゼロのもう一つの戦いが始まった。
………
……
…
一方奴隷達は、強斎達が造った階層を迷宮らしくしていた。
「あ、魔石発見しました!」
そう言って瓦礫に混じっている綺麗な石を、ルナは拾い上げた。
魔石とは、テンプレ通り魔力がこもっている石である。
「キョウサイ様はこのような魔石を何に使うのでしょうか?」
ミーシャは手のひらに乗る程度の魔石を眺める。
魔石の使い道は様々で。魔術を入れてもよし、中にある魔力をMPに変換してもよし、売ってもよしの優れものである。
しかし、いくつかの欠点があった。
「ところどころ大きい魔石もありますが……どの魔石も強斎様の魔術に耐えられませんね……」
そう、魔石は大きさに比例して、込められる魔術の大きさが違うのだ。
「ご主人の魔術に耐えられる魔石なんて、この世に存在しないから」
「それもそうですね」
レイアの応答にあっさりと肯定して、魔石をアイテムボックスに入れる。
「さて、この階層はどのような感じにしましょうか?」
「さっきみたいな迷路じゃちょっとつまらないから、ボス部屋みたいなの作ったら?」
「そうね、そうしましょう。ちょうど、ここは15階ですし」
レイアの提案に頷いてから、土魔術で壁を造っていくミーシャ。
その作業が数分したところで、ルナが二人に疑問をぶつけた。
「そう言えば、ミーシャさんとレイアさんって、どうして奴隷になったのですか? お二人共ものすっごく強いですよね? それなのに、奴隷になってしまったのですか?」
その言葉に苦笑いする二人。
そして、最初に口を開いたのはレイアだった。
「私たちがここまで強いのは、ご主人のおかげだよ。なんか楽して力が手に入って、色々と罪悪感があるけど……。ご主人は『力に応じて渡しているから気にしなくていい』の一点張りでね」
「力に応じて?」
その疑問に答えたのはミーシャだった。
「そう、もっと与える事が出来るらしいけど……元の私たちが弱いから、これ以上は危ないんだって」
「そうだったのですか……主様って凄い人なんですね……! あ、じゃあ私も頑張ってレベルを上げたら……」
「ええ、ルナちゃんもキョウサイ様からもらえるでしょう」
すると、ルナの目の色が変わった。
「わかりました! 頑張ってレベル上げします!」
「その前に迷宮を造らないとな」
そうレイアからお叱りをもらったのであった。
………
……
…
「もう……ダメ……力…………全……然…………入んない……」
「こんなもんか?」
「はぅ……主人のいじわるです…………。頭の中が真っ白になるくらい気持ちよくさせられて、途中から主人のことしか考えられなくなってしまって……。でも、私気づいちゃいました」
ゼロの顔は真っ赤に火照り、目はトロンとして強斎しか視界に入っていない。
そして――――。
「主人っ!!」
「!?」
ゼロは強斎に思いっきり抱きついた。
本来だったら粉々だが、そこは強斎だから仕方がない。
「お前、一体――」
「私、やっとわかった」
強斎の言葉を遮るように囁く
「私は主人が好き。一人から助けてくれた主人が好き。名前をくれた主人が好き。その名前で呼んでくれる主人が好き。ちょっといじわるな主人が好き。えっちな主人が好き。一目見た時から好き。好き! 好き!! 大好き!!! 私は主人が大好き!!」
「ちょ、お前――――どうしちまったんだ!?」
「私……もう、壊れちゃった……」
ゼロは強斎に抱きつく力を弱めて、頬に口付けをする。
「主人を欲しいって気持ちが抑えられない……。私、主人がいなかったら正気を保てる自信がない」
「お前と出会ったのは最近のはずだが……」
「私は一目見た時から主人が好きだった。強い主人を見てもっと好きになった。一人から守るって言ってくれた時から、名前をくれた時から、優しくしてくれた時から、もっともっと好きになった。今までに無かった素晴らしいものを主人はくれた。だから好き」
火照った顔で微笑み、ゼロはもう一度強斎の唇を奪った。
色々な名前を募集しております
魔物名とか……
今回はゼロがチョロインに見えてしまいましたかね?
強斎と一線を越えて、自分の気持ちに気がついたって感じにしたかったのですが……
感想待ってます!