20話 3ヶ月後っぽい
必殺!
~後!
「あれ?ショクオウさん?クエストじゃないのですか?」
冒険者ギルドの犬耳受付嬢が、いつもの違う強斎を見て、少し不思議に思った。
「ああ、今日からクエストは受けない」
「え……」
強斎の突然の告白により、少々戸惑っている。
「ちょっとギルマスに通してくれるか?」
「は、はい!」
こうして、受付嬢はパタパタと奥に入っていった。
(食王……か……)
このあだ名を付けられたのは、いつ頃からだろうと思う強斎。
今では『キョウサイ』というより、『ショクオウ』として呼ばれている。
(もう、3ヶ月か……)
強斎がこの城下町に着いてから3ヶ月は経っていた。
(初めは1週間のつもりだったんだが……ここの街の食べ物、美味すぎたんだよな……)
こんな理由で3ヶ月も居座っていたのである。
そのような事を考えていると、受付嬢が戻ってきた。
「大丈夫だそうです。というより、ギルドマスターは基本的に暇なので、わかっていましたが」
少し呆れた顔で説明する受付嬢。
「そうだったな、あいつは基本的に暇だもんな」
「ええ、早く仕事を終わらせすぎなんですよ」
「いいことじゃないか」
そう言って、奥の部屋に向かう強斎。
「ショクオウさん」
それを、受付嬢が止めた。
「どうした?」
「……」
「?」
「いえ、なんでもありません。すみません、止めてしまって……」
「……そうか」
この受付嬢はわかっていた。
今日で、強斎がこの街から出て行くという事を。
何故か、わかってしまっていたのだ。
「じゃあ、行ってくる」
「……はい」
受付嬢は何も言えずに立ったままだった。
「よう、何の用だ?暴食にして最強の冒険者」
「やめい、長ったらしい。……それに、わかってるんだろ?」
そう言って、強斎は椅子に座る。
座った後、少しの間を置いて、男が口を開いた。
「……考えを改めないか?」
真剣な顔つきになる30代後半の男。
このシッカ王国城下町でのギルドマスターにして、元シッカ王国最強の冒険者。ベルクだ。
このベルク。実はエルフである。
「ああ、俺はこの街を出て行く。やることがあるしな」
「お前の目的は、何かわからんことを調べることだろ?この王国じゃダメなのか?」
「ああ、ダメだ」
「お前の目的は何だ?それさえわかれば俺だって――――」
「いや、これは俺の問題だ」
「……」
「それに、俺はこの街が好きだ。でもな、それでも出て行かなくちゃならない」
「……お前程の奴を動かす、その理由は何だ?」
「さぁな……俺にもわからん」
そう言って、強斎は天井を見る。
「なぁ、ベルク。俺たちが初めて会った時のこと覚えているか?」
「どうしたんだ、いきなり」
強斎は目線をベルクに戻し、「ふっ」っと笑った。
「俺は、お前に会って良かったと思ってるぜ」
「ふん、俺は久しぶりに恐怖を感じたね。下級とはいえ竜。その大群を一瞬でひれ伏せさせるなんて、竜王かと思ったな」
「……そんなこと思っていたのか」
「まぁ、そのおかげで助かったのも事実だ。俺も、この街も」
「そのせいで、ランクは急激に上がって英雄扱い。まぁ、金には困らなくなったからいいんだが」
そうして、強斎は約2ヶ月前を思い出す。
………
……
…
「ここの飯、超うめぇー……」
「まだ食べられるのですか?」
「ホント、ご主人様は物凄く食べますね」
「いや、だって美味いもん」
「でも、この料理……」
「ご主人様が作った方が美味しくなりますよね?」
「言ってやるな。まぁ、レシピ覚えたから、ここより上手く作れるかもな」
そう言ったところで、どこからか声が聞こえた。
『この街にいる冒険者に告ぐ!今すぐ大広場に集合してくれ!』
「何かあるのか?」
「どうします、キョウサイ様?」
「んー……とりあえず、お前たちは新しい宿探してきてくれ」
「「わかりました」」
(さて、じゃあ行ってみるか)
強斎が大広場に着くと、そこは冒険者で埋め尽くされていた。
(うわー……人がゴミのようだ……)
実際に強斎が力を振るえば、ゴミのように蹴散らされるが。
ふと、強斎が上を見ると何かが降ってきた。
(あれはー……紙か?)
上から降る紙を1枚取り、そこに書いてある内容を読む。
(竜……ね。面白そうじゃん)
こうして、ワンサイドゲームが開幕した。
(さて、ここからはただスキルを奪うだけの単純作業だ)
強斎は人目につかなく、竜の大群がいる場所に移動し、単純作業を開始しようとしていた。
(あ、その前に殴られてみよう)
強斎は1匹の竜の前に出て、尻尾で殴られた。
だが、強斎はビクとも動いていない。
(STR5000ってこんなもんか……。全然痛くねぇ……お、こいつら竜の威圧波動持ってやがる)
一方的にスキルを奪う強斎。
奪ったら殺し、奪ったら殺しを続けた。
「まぁ、こんなもんだろ」
と、一息ついたところで、近くに大量の竜の気配があった。
「…………よし、試してみるか」
こうして、強斎はその大群にピクニック気分で向かった。
(おー……いるいる)
強斎は今までに無い竜の大群を見て、驚いていた。
(よし、ちょっくらやってみるか!)
強斎は一瞬で範囲を指定し魔術を使った。
(アースペネトレイター!)
地面から大量の槍が生えてきて次々と竜を串刺しにする。
(うわ……エグ……)
第一感想がこれだった。
そして、強斎はそそくさと立ち去ったのである。
(今日は異常に竜が多いな……)
強斎の前に立ち塞がる下級竜。
そして、何となく強斎は竜の威圧波動を使った。
(おー……全員がひれ伏してる)
そこで、強斎はふと竜以外の気配を感じた。
「誰だ」
「!!?」
少し離れたところに脚を怪我した男がいた。
「まさか、見たのか?」
「っ!」
そして、強斎は未だに威圧をかけていたことに気がつき、威圧を解除した。
「はぁ……はぁ……」
「今の……見たのか?」
「あ、ああ」
これが、強斎とベルクの出会いであった。
………
……
…
(あの後、色々と脅迫したっけなぁ……)
その事を思い出し、嫌な笑みを浮かべる強斎。
「で、ショクオウ。お前は何が言いたいんだ?」
「いや、最後に釘を刺そうと思ってな」
「いや、お前の規格外さはこの街では結構広まってるぞ?なんせ、この俺をボッコボコにしやがったからな」
「そうだっけか?」
「ああ、そうだ」
「そうか」
「……」
「……」
こうして、暫く沈黙が続いた。
そして、沈黙を破ったのは強斎が立ち上がった音だった。
「……もう、行くのか?」
「ああ」
「そうか……達者でな」
「ふっ、俺はお前みたいに長生きはできんぞ?」
「そう言えば人間だったな」
「何を今更」
「……また、いつでもいいから戻って来い。歓迎してやる」
「……ああ、楽しみにしておく」
こうして、強斎は部屋から出た。
「あ、ショクオウさん……」
強斎が部屋を出ると、先ほどの犬耳受付嬢がいた。
「よう」
「……」
「……俺は今日でこの街を出て行く。手続きを頼む」
「わ……私!」
「ん?」
受付嬢は一歩踏み出し、強斎に近づく。
「私!アイルと言います!」
急に名前を教えた受付嬢に強斎は驚く。
「どうしたんだ?このギルドは、基本的に名前を教えないんじゃないのか?」
「いいんです!今日だけは!」
そして、アイルは少し下がってから、ガバッっと頭を下げた。
「ショクオウさん!本当にありがとうございました!」
「は?」
強斎が呆気に取られたところ、アイルは素早く頭を上げ、強斎に近づいた。
――――――そして、強斎の頬にキスをした。
「なっ!?」
「で、では!ショクオウさん!また来てください!」
そう言ってサササッと逃げていった。
そして、強斎は思った。
何故、キスをされたのか?
そして――。
(手続きやってもらってねぇ……)
仕方なく、別の受付でやってもらうことにした。
………
……
…
「待たせたな二人共」
「女の匂いがします」
「ご主人様、何ヤってきたんですか」
「すげぇなお前ら!」
「「で、なにしてきたんですか?」」
「あ、いや……ちょっとキスされた……」
「レイア、この建物潰すのに何秒必要だと思う?」
「そうだな……5秒ぐらいで終わるんじゃないか?」
「何の相談だよ!?」
そして、必死に説明する強斎であった。
色々な名前募集しております
中二な名前だと比較的やりやすいです
今回はちょっとした伏線です
感想待ってます
あ、ツイッターやってます!やり方難しい!