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閑話1 鈴と強斎 中編っぽい

まさかの中編ww

 高校生になってから初めての夏休み。


 この少女――羽田鈴はとある問題を抱えていた。


(また、胸が大きくなっちゃったのかな……?)


 下着のサイズである。


(澪に今度の日曜日ついて行ってもらおっと)


 思い立ったが吉日、鈴は澪に電話した。




『もしもし?』


「あ、澪。今ちょっといい?」


『うん、大丈夫だよ』


「今週の日曜日、予定空いてる?」


『あー……ごめんね、その日はちょっと……』


「あ、そっか。なら仕方ないね」


『うん……ごめん』


「いいのいいの!それじゃ!」


『ほんっとにごめんね……』


「もう、いいって言ってるじゃない。それじゃぁ、切るね」


『うん、ありがと』




 そうして、会話を終了した。


(友達は出来たけど、澪ほどの友達はできてないからな……。はぁ、どうせ日曜日一人で行くなら、今から行こっと。もうすぐ夕飯だけど、外食でいっか)


 鈴は親に一言入れ、下着を買いに行った。


………

……


(はぁ……やっぱり大きくなってた……)


 下着を買い終わった鈴は、夜道をトボトボ歩いていた。


 人通りが無いと気がつかずに。



(考えても無駄だなぁ、もう諦めてどこか食べるところを――)


 その時、鈴は誰かにぶつかってしまった。


「きゃっ!」


「っと!あぶねぇ……な……」


「す、すみません」


「……ほう」


 ぶつかった男が鈴を見て目の色を変える。


「君さ、謝って済むと思ってる?」


「え?」


「だからさ、さっき君がぶつかったせいで、この服、汚れちゃったんだよね。ジュースこぼしてさ」


「あ、あの……」


「これじゃあ、洗っても、シミ取れないなぁ……。ってことで、50万」


「え!?」


「50万円払えって言ってんの。買い換えるから」


「そ、そんなお金……」


「へー!持ってないんだ。だったらさ、君の体で許してあげるよ」


 そう言って、男は鈴の腕を取った。


「や、やめて下さい!」


「大声あげても無駄だよ。この辺は人通りが悪いからね。さぁ、こっちに来るんだ!」


「いやっ!」


 鈴は必死に抵抗するが、男と女。力負けをして、ズルズルと連れて行かれる。


(なんで……。なんでこんなことに……)


 何とか抵抗するもの、全く歯が立たなかった。


 声をあげようとも、直ぐに口を押さえられてた。


「んー!んー!」


「ひっひっひ……これから楽しみ……だ……」


 男はいきなり脱力し、膝をついた。


 鈴はその隙を逃さず、一気に離れた。

 そして、周りを見渡すと、男の後ろに一人の男が立っていた。



「はい、強制わいせつ未遂っと……」


「な……なんだ……?」


「おっさんさ、手口が古すぎるんだよ。一応一連の動きを録音さしてもらったから」


「き、きさま!」


 そう言って、男はその男に襲いかかった。


「馬鹿だろ、お前」


 そして、また脱力する男。


「何で、自分が脱力した理由がわかんないわけ?全身にビリビリってきただろ」


 そう言って、男は鈴を襲った男を蹴る。


 その一撃で、鈴を襲った男は気絶してしまった。


「しかも、弱っ。っと、そんなことより大丈夫か?」


 その男は鈴の方へ向かってきた。


 鈴はさっきの事件から、男に対してかなりの恐怖心があったが、向かってきた男の顔が月明かりに照らされた時、鈴は警戒心を解いた。


「小鳥遊……君?」


「ん?お前は……羽田鈴か?」


 鈴を助けた男は小鳥遊強斎だった。


………

……


「お、万札はっけーん、1枚持ってこ」


「た、小鳥遊君……そんな人からお金を巻き上げるのは……」


「あ?お前、あんな目にあったのに、よくそんなこと言えるな」


「それとこれとは……」


「1枚ぐらいいいだろ、どうせこいつを警察に突き出すしな」


「そう言えば、何でこの人はいきなり脱力したの?」


「俺がやった」


「どうやって?」


「スタンガンで」


「スタンガン!?なんでそんなもの持ってるの!?」


「ちょっとした趣味でな」


「趣味って……。じゃあ、あの録音ってのも……」


「それは嘘だ」


「え?」


 強斎は男の荷物を確認して、1万円と免許を奪い取った。


「そんなことより、羽田鈴」


「は、はい!」


「お前、強制わいせつされそうになったこと、誰かに知られたいか?」


 鈴は首を横に振った。


「そうか。あ、すみません警察ですか?実は――」


………

……


「ありがとう、小鳥遊君」


「別に俺は収入が入ったからいいがな」


「でも、小鳥遊君が助けてくれなかったら私、何されてたかわかんないし……今度、改めてお礼をさせて……ね?」


 そこで、鈴は強斎の目線に気がついたら。


「ど、どうしたの?」


 あまりにも堂々と全体を見られているので、ちょっと引き気味になっていた。


 強斎は鈴を見終わると、「よし」と声を出して、鈴に説明した。


「お礼なら、今すぐしてもらおうか」


「……え?」


「あ、荷物大丈夫か?一旦帰るか?」


「大丈夫だけど……」


「よし、なら付いて来い」


 強斎はくるっと後ろを振り向き、歩き出した。


 その時、強斎がなんだか厭らしい笑みを浮かべていたことを、鈴は見逃さなかった。


(小鳥遊君もそんな人なのかな……?あ、でも小鳥遊君なら……いいか……な?他の男子と何か違うし……ちょっと……かっこいいし……)


 そんなことを思いながら、鈴は強斎の後に付いて行った。


………

……


「着いたぜ……!」


 その言葉にバッと顔を上げる鈴。


 そこは――。


「レストラン?」


「ああ、そうだ」


(そう言えば、夕飯食べてなかったな……。でも、なんで小鳥遊君はここに連れてきたんだろ?)


 そんなことを考えていると、強斎は鈴の手を取った。


「!!?た、小鳥遊君!?」


(な、な、なんで手を!?心の準備が……って、そうじゃなくて!)


「よし、行くぞ。とりあえず、少し我慢してくれ」


「~~!!」


 少し心を許した男性に迫られると、弱い鈴であった。








「いらっしゃいませ。……カップルでございますか?」


「え!?小鳥遊く――」

「ああ、そうだ」


(ええぇぇぇぇ!!!??ど、ど、ど、どうして!!?)


「かしこまりました……。ですが、そちらの女性。少し戸惑っているような――」


『鈴、すまん!』

『え!?』


 耳元で囁かれたのもビックリしたのだが、その次の行動によってもっとビックリする羽目になった。


「よっと。……これでどうだ?」



 ――――お姫様抱っこである。


「え……?」


 鈴は少しの間放心状態だった。


「ふふっ、かしこまりました。では、こちらをどうぞ」


 そう言って、店員はとあるカードを強斎に渡す。


「ああ、済まないな」


「では、ごゆっくりどうぞ」


 こうして、強斎は放心状態の鈴を下ろして、席に向かおうとするが……。


「鈴?」


 鈴がボーっとしていたのだ。


 おかしいと思った強斎が、鈴の肩にポンっと手を置いたとき――。



 プシュー……。


 と聞こえる程顔を赤くしてしまった。


「うおっ!?大丈夫か!?」


 流石に不審に思い、強斎が鈴の額に自分の額を当てた時。


 鈴は状態異常になってしまった。


「だ、大丈夫!大丈夫だからぁ!!」


 ぱっと離れて、鈴はそそくさと席に向かった。


(どうしよう……!どうしようどうしよう!ほんっとにどうしよう!ドキドキが……ドキドキが全然止まんないよぉ……!そういえば、小鳥遊君は私をカップルって?あー!うー!!考えられない!冷静な判断ができないよぉ……)


 それでも、鈴は空いている席を見つけて、そこに座った。


 少ししてから、強斎が追いついてきた。


「ったく、いきなり止まったり走ったりと大変な奴だな」


 そう言って、強斎も鈴と同じ席に座る。


「あ……うん、ごめんなさい」


 俯きながらゴニョゴニョ言う鈴。


(直視できない……。恥ずかしくて直視できない……!)


 そんなことを考えていると、店員が来た。


「ご注文はお決まりでしょうか?」


「ああ、そうだな。鈴、注文決まってるか?」


「は、はひぃ!」


「じゃぁ、俺はこれで。鈴は?」


「わ、私も同じで!」


「かしこまりました。以上でよろしいですか?」


「あと一つ」


 強斎は先ほど店員に貰ったカードを見せて……。



「――カップル限定パフェを頼む」




………

……


 強斎達が頼んだ食べ物を食べ終わると、デカイパフェが運ばれてきた。

 ついでに言うと、鈴はずっと無言である。


「きたきたー!これこれ!」


 そう言って、強斎はありとあらゆる果物が乗った巨大パフェを手にかけた。


 そこで、鈴が口を開いた。


「あのさ……小鳥遊君」


「んあ?小鳥遊って言いにくいだろ、強斎でいい」


(名前OK!?強斎って言う方が言いにくいと思うけど!なんか嬉しい!)


「じゃ、じゃあ……強斎は……さ」


(強斎は私のこと、どう思ってるんだろう……?)


 それを訊きたかったのだが……。


「こ、今週の日曜日って空いてる?」


(ちっがーう!!私の馬鹿!へたれーーー!って、よくよく考えたらこれって、デートに誘ってない?私、強斎をデートに誘ってない!?)


 と、考えているうちに、強斎が口を開いた。


「ん?ああー……すまんな、日曜は図書館で友達と勉強をする予定だ」


「そ、そっか……」


(そんな都合のいい展開――)


「よかったらお前も来るか?」


(きたーーーー!都合のいい展開来たよ!)


「え?いいの?」


「ああ、大丈夫だ」


「あ、でも……その友達って……男の子?」


 強斎には異常な程に心を開いている鈴だが、他の男は変わらずなのだ。


「いや、女子だが?」


「そ、そう……なら、行ってもいいかな?」


(なんだろう……強斎が女子と勉強するって分かった途端……心が……少し痛い……)


「ああ、いいと思うぞ。っとそれより、このパフェ食べてみるか?結構うまいぞ」


「あ、じゃあ。もらおっかな」


 そして、鈴は強斎に食べさせて貰って気がついた。



 ――間接キスだということを。



「あ……ああ……!」


「ん?どうした?」


 そのまま食べる強斎。


「はぅ……」


「うお!?またか!?」



 こうして、なんだかんだ強斎達は楽しい時を過ごした。






「ありがとうございましたー」


 レストランを後にし、鈴を家に送る強斎。



「私がお礼するはずだったのに……おごってもらっちゃった……」


「ん?お礼ならちゃんと貰ったぞ?」


「え?私なんにもしてないよ?」


「何言ってんだ?今日1日、俺の恋人役になってくれたじゃねぇか」


「え!?そ、それが……お礼?そんな……たった1日の恋人で……?助けてもらったお礼?」


「ああ、しっかりとした対価だったぞ」


「そ、そっか……」


(たった1日……たった1日の恋人で、そこまでの対価があると思ってくれるなんて……)


 その時、鈴の胸は一段と大きく高鳴る。


(だ、ダメ!聴こえちゃう!強斎に聴こえちゃう!止まって!止まって!)



 その後、何も喋らずに鈴の家に着いた。



「ここか?」


「……うん」


(もう、ついちゃった……)


「んじゃ、また日曜日な」


「うん、図書館で……」


「ああ、おやすみ」


「おやすみなさい……」


 そうして、強斎は暗闇に消えてしまった。



「……行っちゃった」


 鈴は自分の唇に手を当て、間接キスをした時を思い出し、一気に胸が高鳴り始めた。


(……強斎)


 こうして、鈴は家に戻った。



 その日、鈴は初めて異性を思いながら自慰行為をした。


(強斎……!強斎!!)


「んっ!んっっっ~~~!!!」


 一通り終えた鈴はぐったりとする。


「はぁ、はぁ……。ん……」


 鈴はもう一度唇に手を当て考えた。


(私……恋しちゃったのかな……)



 こうして、1日が終わった。


………

……


 日曜日……。


 鈴は服装に張り切っていた。


(聞いたところ、強斎の女友達になるという事は物凄くレベルが高いらしい……今日、強斎が勉強を一緒にする女子はかなり親しい女子のはず……。負けない!)


 よくわからない意気込みをして、鈴は服装を選んだ。



 白色のワンピースに決まった。



………

……


 鈴は支度をし終わったあと、時間を確認して、集合の少し前に着くように家を出た。



 そして、図書館に向かう途中……。


 鈴は歩道橋に強斎がいる事を確認した。



「きょ、強斎!」


 強斎は鈴に気がついたのか、しっかりと鈴の方を見た。


 鈴は待ちきれずに、走って歩道橋の階段を登る。


 そして、最後の段を踏もうとした時。



 ――――足を踏み外してしまった。



「え……」


 鈴は何もかもがスローモーションに見えた。


 後ろに倒れる自分。


 色々と諦めた時。



 ――――温もりを感じた。


(強斎!?)


 強斎が、鈴を抱えて一緒に落ちたのである。




 数秒の時が流れた。




 鈴は恐る恐る目を開けた。

 どこも痛いところは無かった。

 しかし――――。



「強斎……?」


 強斎が目を開けないのである。


 鈴は強斎の腕から抜け出し、もう一度強斎を見る。


 ――――やはり目を開けない。


「強斎……強斎……」



 いくら揺すっても、起きる様子がない。



 鈴は不意に強斎の頭に触れてしまった。



 ピチャ……。



 手が濡れた感覚がした。



 恐る恐る自分の手を見る鈴。



 ――――血が付着していた。



 もう一度、血が付着したところを確認する鈴。



 やはり、強斎の頭部だった。



 そして、鈴は頭の中で整理をする。



 そして、現実を見た。



(いや……)



 ポタポタと瞳から涙が落ちる。



(嫌だ嫌だ嫌だ!!)



 どれだけ心の中で叫んでも、ピクリともしない強斎。



「起きてよ!お願いだから……!起きてよ!ねぇ!!強斎!起きてよ!……ねぇ!お願い……お願いだから…………」



 しかし、強斎は動かなかった。



 そして、鈴はそこでヘタリ込み、人前にも関わらず泣いてしまった。

なんと、鈴の初恋は強斎でしたね。


さて、これからどうなってしまうんでしょうか?

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