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1話 光に包まれたっぽい

ちょっとやってみた。

 皆さんは異世界転移を信じるか?


 転移、転生はファンタジーでありがちな事であろう。


 そして、召喚されたからには大抵、何らかの力を持っている。


 多人数で転移され、巻き込まれて、勇者でも無いのに勇者より強くなる……なんて事もあるであろう。



 そしてここに一人、そんな転移に巻き込まれる人物がいた……。



*



 この男の名前は小鳥遊たかなし強斎きょうさい


 中々レベルの高い高校の2年生。彼女無し。童貞。帰宅部。友達は普通にいる。


 身長は約170cm、体重は60kgちょっと。

 髪の色は黒色で、短くもなく長くもない。

 少し筋肉質で、顔立ちも俗に言うイケメンだ。

 勉強もできる方で、どちらかと言うと上位に入っている。

 運動も中々できていて「帰宅部なのは勿体無い」と言われるほど。


 なのに何故、彼女ができないのか?


 理由を挙げるとするなら、彼は想像豊かで性格がひねくれているのだ。

 そして口下手。


 だが、彼は普通にモテている。


 告白もされていた。


 しかし、彼は変な言い回し方で理由を訊いてしまうため、断られたと勘違いする人が多いのだ。


 彼だって恋人は欲しいのだが、どうせ恋人にするなら結婚までいきたいと思っている。


 そこがひねくれているといっていいだろう。


………

……


 キーンコーンカーンコーン――――――。


「よっしゃぁぁぁ! 昼飯だぁぁぁぁ!!」


 チャイムが鳴った瞬間に、異様なテンションで強斎は騒ぎ出す。

 そんな強斎に続いて、ほかの生徒も騒ぎ始める。


「おい、強斎。まだ挨拶が残ってるぞ」

「へいへい」


 これが日常茶飯事なので、先生もこれ以上強く言うことはない。

 冷たい目線は変わらないが。


 挨拶が終わり、机の横にある鞄をまさぐる強斎。

 だが、いくらまさぐってもお目当ての物が見つからない。


 若干焦りながら、かばんの中を覗き込んだ。


「……!?」


 そして、その事実に直面した。

 昼食用に買ってあった自分のお気に入りの焼きそばパンがないことに……。


(これは購買で何か買うしかないか? でも、遠いしな……。ああー……瞬間移動とか使えたらどんなに楽か……)


 そんな非現実的なことを考えながら、どうするかも考える。


 結局は購買しかないので椅子から立ち上がり、教室を出ようとするが……。


「昼食忘れたの?」

「!?」


 背後から声をかけられ、強斎は素早く振り向いて距離を取る。


「そんなに距離を取らなくてもいいじゃない……」


 強斎に距離を取られて、どこかしょんぼりする女性。



 彼女の名前は、洞爺とうやみお。強斎の小学校からの幼馴染だ。


 身長は160cm程度、体重は50kg無いってところ。

 スタイルは良く、出ているところは出ていて引き締まるべきであるところは引き締まっている。

 髪の色は強斎と同じ黒で、長めの髪はポニーテールになって綺麗な仕上がりだ。

 彼女がこの髪型なのは理由があるが、それは置いておこう。


 顔立ちは圧倒的に上位。

 綺麗とでも言えるし、可愛いとも言える。

 成績も常にトップ争いに入っており、性格もよく誰に対しても優しい。

 運動はできるが茶華道部であり、これにも理由があるが以下略。


 そんな彼女を嫌う人は、特殊な性癖を持つ人ぐらいだろうとまで言われている。


 校内彼女にしたいランキング前回王者は伊達じゃない。


………

……



「って、澪か……。何の用だ?」


 普通はここまでの美少女に声をかけられたら言葉に詰まるのが多数だ。しかし、それはあまり親しくない場合。

 強斎は、澪とは小学校からの仲なので普通に会話をすることができる。


 だからといって、澪を女として見ていないわけでもないが。


「何の用って……強斎、昼食忘れたみたいだから……」


 強斎の顔を直視せず、顔を少し赤くして俯いてしまう。

 そのせいで、段々と声が小さくなってしまった。


 完全に意識をしている態度だ。


「ああ、忘れた」


 すっかり警戒を解いた強斎は、至って平然としている。


「じゃ、じゃあ……その……作り過ぎちゃったから……ちょっと、わけてあげようか?」


 指を小さく絡ませながら恐る恐る尋ねるが……。


「断る」

「ええっ!?」



 澪の料理は不味くない。

 逆に美味いぐらいだ。


 それが不味かったとしても、普通の男子だったら大喜びで食べるであろう。

 そんなお誘いを無慈悲に断る強斎に、男女問わず怒りの視線を向ける


 それ以外にも「なんで断る」とか「わかって言っているのかあいつ」とか言われているが、強斎の耳には入ってこない程度の声量だ。



「あまり借りは作りたくない」


 振り向き立ち去ろうとする強斎を、慌てて止める。

 無意識に腕を掴んでいるが、それどころではない。


「そ、そんな……! 借りなんていらないよ……」

「俺が嫌なんだ」


 澪の手をそっとどけて、そのまま言葉を続ける。


「俺が、お前に借りを作るのが嫌なんだ」


 かっこよく言っているつもりだが、捉え方によっては完全に誤解を招く言い方だ。


「そ、そんな……」


 数歩後ずさる澪は、変な捉え方をしてしまったようだ。


 そして、周りからの怒声。

 流石にこれは聞こえたが、強斎はそれらを無視する


 しかし、強斎だって空気を読むことぐらいはする。


「まぁ、お前の料理は美味いからな……いつか朝飯を作ってくれよ。学校じゃ借りを返せないから、今度裏通りにある店に二人・・でいこうか」



 強斎は知らないが、澪は知っている。

 友達に何度も聞かされたからだ。


 裏通りには、ピンク色なホテルがある事を。


「ふぇ!? 二人で!?」


 いきなりの不意打ちに澪の様子が少しおかしい。

 まさに目が回っているといった感じだ。


「うおぉぉぉぉぉぉおおおお!!」


 そして、澪にその事を教えた本人登場だ。


「とおぅ!」

「ふっ」


 真横からドロップキックを、強斎は『大きく』避けた。


 強斎が妄想豊かなのは、様々なゲームをやり込んでいるのも理由の一つ。

 そのおかげで、動体視力や反射神経は少々高い方なのだ。


 元々の能力が高い理由もあるが。


「避けるなっ!」

「水色と白のしましまか。悪くない」


 ドロップキックしてきたのは女子生徒。

 そして、強斎にドロップキックを避けられてしまった為に寝そべっている形になっている。

 そのせいでスカートがめくれ上がり、パンツが見えてしまっていたのだ。


「なっ……この変態っ!!」


 咄嗟にスカートで隠し、ドロップキックの生徒は女の子座りになった。



 彼女の名前は羽田はねだりん


 身長は150cmちょっとと低め、体重は45kg前半。部活は澪と同じ茶華道部。

 髪は少し茶色が入っている程度の黒で、腕まである少し長めのツインテールだ。

 別に太っているわけではないが、澪と体重が変わらないのには訳がある。

 強斎が大きく避けた理由がこれだ。


 胸が半端なく大きい。


 所謂いわゆる、ロリ巨乳。高校生でもここまでの巨乳はそうそういないであろう。既に爆乳の域だ。


 それが彼女だ。

 そして、彼女……鈴は澪の親友でありながら、今回の、彼女にしたいランキング今期王者なのだ。


 顔立ちは澪とは少し違ってかわいい系。


 成績は良くもなく悪くもない一般的で、強斎より少し悪い。

 しかし、面倒見がよく自分から手伝うと言う事も多々ある。

 それに、気軽に話しやすい性格をしていて、誰からも慕われている。


 だが、最初からそうだったわけではない。


 彼女は、自分の胸に嫌気がさしていた。


 中学の時、女子からは胸の事でいじめられ、男子からはいやらしい目で見られていたと言う。

 不登校にもなりかけたが、必死に耐えてこの高校に入ったらしい。


 だが、やはりこの高校でもその美貌の末注目の的になってしまった。


 しかし、その注目が自分だけに向けられたとは思っていなかった。

 自分の近くにいる女性にも、向けられていたのだ。


 それが澪である。


 鈴はわからなかった。


 視線を向けられても何故、平然としていられるのか?

 最初は変態かと思っていたけど違った。


 鈴は意を決して、澪に話しかけた。


『なんで、そんなにも堂々としていられるの?』


 そして、澪はこう答えた。


『守ってくれる人がいるから』


 少しだけにやけながらそう答えたのだ。

 だが、鈴にはそれでもわからなかった。


 自分を守ってくれると言いながら、変な目で見るのでは? と思っていた。

 その事を口にすると、澪は笑いながら。


『いつかわかるよ。そうだね……じゃあ、わかるその時まで私があなたを守ってあげる。私の名前は洞爺澪。あなたの名前は?』


『羽田……鈴』


『じゃあ、よろしくね。鈴』

『あ……うん、よろしく。澪』


 これが、鈴と澪の出会いである。


 それからしばらくして、鈴を守ってくれる人は出てくるのだが……それが――。



「おいおい、真面目に自分が変態かとか考えるなよ?」

「よう、大地。このロリ巨乳をどうにかしてくれ」


 大地と呼ばれた男は鈴より少し遅れて現れた。

 その強斎の返答に若干苦笑いで返していたが。


「なっ……!」


 鈴は強斎を睨みつける。理由は明白だ。


「まぁまぁ、落ち着いて、な?」

「……まぁ、大地がそう言うなら」


 少し照れながらも鈴は立ち上がる。


 この鈴を落ち着かせた男性。そして、鈴を守る人。

 彼の名前は、鷹見たかみ大地だいち


 身長は180cm以上体重は70kg後半。

 顔立ちはこちらもかなり良い。


 誰に対しても優しく、正義感が強い。

 そのくせ運動も勉強も出来て、体に余分な脂肪がない。


 彼氏にしたいランキングは常に上位だ。


 しかし、帰宅部。

 これは強斎が関わっているのだが、それは以下略


 女性からのアプローチが凄いのだが、高校になってから告白されたことはない。

 鈴という強敵がいるからだ。


 だが、本人曰くまだ付き合っていないらしい。


 大地自身は鈴の事が好きなんだが、鈴はどう思っているかわからないから困っていると強斎に愚痴っていた。


 強斎は、鈴が大地の事を好きな事ぐらいわかるだろ。と呆れ半分で思っていたが、それは完全にブーメランだ。




「強斎も、澪のありがたみを受け取れよ?」

(コクコク)

(ジー)


 順番に大地、鈴、澪である。


 ここは教室前の廊下。

 意外にも目立っていることを理解した強斎は、諦め半分で答えを出す。


「……はぁ、わかった。じゃあ、澪。貰ってもいいか?」

「うん!」


(なんでそこまで嬉しがるかねぇ?)


 そう思っていても、幼馴染の笑顔は嫌いではないので強斎は何も言わなかった。


「よし、じゃあ『あいつ』を迎えにいこうか」


 強斎と澪の問題がひと段落したところで、大地が話を切り出す。


「そうね。私と大地が迎えに行ってくるから……澪。強斎といつもの場所とっといて」

「……え?」


 突然場所取りを任命された澪は唖然とする


「じゃあ、よろしくね。いこっ! 大地!」

「あ、ああ。じゃあ頼む」


 有無を言わせないとはこういうことだろう。

 二人は逃げるようにこの場を去ってしまった。


「えっと……強斎?」

「ん?」


 誰かが『あいつ』を迎えに行くのはいつものことなので、強斎も澪もそれについては何も言わない。


 しかし、澪は『いつものこと』ではないなにかを思っているのか、若干様子が変だった。


「……いこっか」

「? ああ、そうだな」


 澪の変化に強斎は少々疑問に思ったが、気にするほどではないと割り切った。


………

……



 校舎から出て、人気のない大きな木の下についた強斎と澪。

 強斎はそこでふと思い出したかのように口にした。


「借りは返す」

「まだ言うの……? そんなのいいのに」


「いや、ダメだ」


 これ以上はらちがあかないと思ったのか、少し考えてから口を開いた。


「だったら……」

「ん?」


 条件を出してくれそうな雰囲気だったので、強斎は割りと真面目に耳を傾けた。


 しかし、澪は口ごもる。

 ブツブツと何かを言ってから再度口を開く。


「わ、私と……」

「澪と?」


「つきあっ――――」

「おーい! 澪ー!」


 澪が言葉にした瞬間、鈴の声が邪魔をする。

 そして、鈴を含めた三人は強斎たちの場所に着いた。


「やぁ、強斎、澪」


 鈴と大地が連れてきたであろう男が、小さく手を振って挨拶をする。


「おう、あんまり遅いから女子に押しつぶされて倒れてるんじゃないかと思ったぜ」

「ひどいなぁ……あ、ところでこの前貸したゲームなんだけど――」

「ああ、2周目まではクリアした。3周目は流石に初見では無理だったな」


 そんな強斎の発言に、男は驚愕してから苦笑いをする。


「あの無理ゲーを初見で2周クリアしたこと自体すごいよ……僕は未だに1週目止まりなのに」



 強斎にいきなりゲームの話を吹っかけたこの男性。


 完璧超人の鈴木すずき勇志ゆうし


 身長、体重は大地と殆ど変わらないが、顔立ちは郡を抜いて整っている。

 勉強、運動も常にトップで、既に色々なところからスポンサーが来ているという噂だ。


 その上、性格も文句なしで滅茶苦茶モテている。

 さらに生徒会にも入っていて、来年には生徒会長になることを勧められているのだという。


 ファンクラブもあり、中々大変だと強斎に愚痴っていた。


 強斎以外には愚痴ったことがないらしいが。


 しかし、この完璧超人だが……。


 ゲーム好きなのに関わらず、意外に下手なのだ。

 ここまでは完璧で無い様子。


 だから時々強斎にゲームを貸して、攻略を訊いてたりする。



「ゲームの話する前に、さっさといただきますしちゃいましょ!」


 鈴がしびれを切らしたのか、勇志と強斎に入ってきた。

 澪は何故か俯いて暗い雰囲気だったが、鈴がそう言った途端に元に戻る。


「そうだね。じゃあ、いただこうか」


 勇志の一言で各自準備をする。

 それから、準備が終わったところで食事を開始した。


「澪、いただくぞ?」


 強斎は再度許可を取って、予備の割り箸を割る。


「あ、うん。こっちに作りすぎたのがあるから……あ、でも、あり合わせだから、そんなに――」

「澪が作ったんだろ?」


「そ、そうだけど……」

「なら問題ない」


 そして適当なおかずを口に入れる。


「はぅ……」


 実はこの澪だが、今日は何故か多く作った方がいいと思ったらしい……。

 それは必然か、それとも偶然か。

 多く作った事によって、この男。



 ――小鳥遊強斎は4人の勇者に巻き込まれることになった。



「ん?」


 大地は手を止めて、周りを見る。


「どうしたの? 大地?」


 そんな大地に鈴は何気なく訊いた。


「いや……なにか……!?」


 大地が気がついた違和感。

 その数瞬後には5人は光に包まれていた。


「な、なにこれ!?」

「みんな! 逃げるぞ!」


 勇志がそう叫んだ瞬間、5人はこの世界から消えてしまった。

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