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8. 潜航
何年ぶりの投稿だろう
狂ったような叫びが聞こえる。薄暗い堂。木の匂いがする。
「奴らの祈祷はいつもうるさい」
彼女は叫びに負けない声で愚痴を言う。
俺たちは"潜って"いた。
彼女によれば現実に穴を開けて、その中を進んでいるらしい。
あとは何やらよくわからないことを言っていた。恐らくば、彼女の持つ技術は尋常のものではないのだろう。
前任の異質探査員を名乗る謎の少女の車椅子を押しながら、叫びの在り処に視線を向ける。
火で灯された狭い空間に僧が三人。胡座をかいて、肖像の前で絶叫している。
肖像は揺らめく炎に照らされていた。祈りの文句に馴染みはない、どこか異質だ。
「珍しいか。ミザの一派だ。秘密主義的な性質があって、儀式の一切を公開していない。クソうるさいのにな」
そう言って彼女は笑う。
酷く狭い堂のはずなのに、一向に抜ける気配がない。それどころか、ここが途轍もなく大きな空間であるかのように、風景はゆっくりとスクロールしている。
「なあ、いつ抜けるんだ?」
「御仁、今なんと言った?」
聞こえていないようだ。
「――あとどれだけ歩いたらここから出られるんだ?」
「ああ、あと少しだ。もう少し先に扉が見える」
「扉?」
行く先を見やると、小さな扉が見えた。いや、しかしここは?
「しかし、戸棚の上だな。今日は珍しく変なところに出た」
戸棚の上だった。右手には棚にいくつも重ねられた白い器が見える。
「戸棚の上だ。御仁と私は異質暗号に変換されて進んでいるが、物理的な制約から逃れられたわけではない。それが今の状態というわけだ」
「はあ」
潜航とはそういうものらしい。
扉は、少し品の良いものだった。
上質な木材が、ろうそくの炎を反射して、鈍く輝いている。
「開けた給えよ。私の家だ」
クトウは自慢げにそう言った。