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6. 疑似体験
画面中央、『ジャスパー7』のロゴが表示されて消える。
背景だった均一なマトリクスが、徐々に乱れて、それは偏り、いつしか形となった。
眩しい。
ここは、心象風景。
晴れ渡る空。荒廃したビル群。街。
「やあ」
振り返ると、そこにいたのはいないはずの彼。
「......久しぶりだな」
「知らないんだろ? 教えてやるよ」
彼はそう言って、唇を震わせる。
ある呪文――。
「■■■■■■■」
「ありがとう」
私は彼に礼を言う。
呪文とは偽装市民の寿命コード。
「半年分か」
「そうだな」
我々、偽装市民は統治局から指示を受ける度に生きながらえる。任務と引き換えに、生存を認めてもらうのだ。
麗しく青い目をして、彼は言う。
「任務だ。テレスの街、エテ社の本社近郊に出向いてもらいたい。同様の任務が他の者に追って伝えられる予定だ。そこで新たな指示を待て、潜伏先の住所は■■■-■■■ ■■■■■■■■。こちらは、すでに手配されているだろう。」
彼の口調ではない。はっと現実に引き戻される。
「――とかいうやつだな。じゃあな」
震える声で私は言う。
「ああ、またな」
不思議な気分になる。死んだはずのアイツが、データの中で確かに存続している。
そんなはずは無いのに、そう思えてしまう。
終わりのようだ。
鮮明な風景は崩壊し、均一なマトリクスへと還元されていった。