4. イシカ市異質観測所
長らく待たせて申し訳ありません
観測所の内部は、ほとんどが大気中の異質体を観測するための機械で埋まっており、人が暮らすための空間が足りているように見受けられなかった。
2階建ての構造に、どの部屋を覗いても、中にあるのは雑然と積まれたコンピュータの小都市。
小綺麗に掃除された無機質な空間に、老夫はずっと住んでいるらしかった。
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異質探査の仕事はこれで二度目になる。一度目は廃墟のような街の探査をしていた。
職場環境はよくも悪くもなかった。仕事を始めてから二年、今から数か月ほど前に、その異質観測所は濃厚な異質霧に覆われて物理的に消失してしまったが。
珍しく宗教団体の異質観測所だったと覚えている。
その宗教団体と対立する派閥の差し金と命をやりとりすることもあったが、傭兵稼業ほどまどろっこしいことも無かった。
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ナルサギ......侮れない男だった。そもそも、こんな街にあんな老人一人が住んでいること自体が異常なのだ。老いぼれではなく、生き残り。
初回の面談が終わると、仕事は明日からだからと、俺は解放された。
今日一日は自由にしていいらしいが、あの外気はなるべく吸いたくは無かった。
どこにも行く場所はないが、寝床を拝んでおこう。
先ほど案内された自室へ向かう。
研究所はその外見に対して異様に狭く、部屋が少ない。俺の自室は階段の下だった。
たった今明かりをつけた部屋は綺麗に整頓されていた。わざわざ掃除したのだろうか。あの男の気遣いを感じさせる。
ベッドが一台、クローゼットが一つ。そしてデスクと、その上にコンピュータが一台載っている。タワー型のコンピュータで、モニターはなく、映像出力用の端子が前面に存在した。視神経へ直接映像を出力するための端子だ。
それにしても、この建物には窓がない。
妙なもの悲しさがあった。
観測所に窓がないのは一般的なようだが。
壁を伝う露が、この建造物が、鬱屈として涙を流す知らない誰かの存在を、悲痛に証明しているように思えてならなかった。