Scene1-4 妹宣言、即撤回
「へぇ、来舞くんってスポーツ得意なんだねぇ! かっこいいじゃん!」
「はい、お姉さんからかっこいいいただきましたー! あざーす!」
璃玖たちはゲームセンターにて、バスケットボールのゲームで遊んでいた。規定のゴール数を決めると次のレベルに進めるのだが、璃玖がセカンドステージを失敗したのに対し、来舞は最終ステージまで難なくクリアしていた。レミが満面の笑みでそれを讃えると、来舞は調子に乗ってテンションを爆上げする。
「次! 次はお姉さんとソラくんでやってみません?」
「いいよぉ、私はパス。球技って苦手なんだよねぇ。それより銃のやつやろーよ、ゾンビのやつ」
「いーですねー! 一緒にやります?」
「おっけぇ♪」
何故だか昔からの知人である璃玖よりも、来舞の方がレミと楽しんでいるのだった。
璃玖とソラは苦笑しながら二人の後をついていく。璃玖としては来舞に対して嫉妬心が芽生えるものの、内心ではどこかホッとしていた。レミと距離を置いた状態でソラと話ができるからだ。
「センパイってゲームセンターとか苦手ですよね?」
「そうだな。うるさい空間っていうのがちょっとダメだ」
「へへ、ぼくもです」
生粋のアウトドア好きである二人にとっては、息苦しい空間で電子音のシャワーを浴びるこの環境がどうしても肌に合わないのだ。友達に付き合って少し嗜む程度なら良いが、完全な蚊帳の外状態で待機するのはかなり辛いものがある。
「レミ先輩たちが満足するまで表の椅子のところで待つか」
「ですね」
璃玖が休憩スペースに移動する旨をガンシューティングで遊戯中の二人に伝えると、レミは“もう少しで終わるから”と、璃玖たちをその場で待機させた。仕方なしに筐体の外で待っていると、わざと負けたのか、案外にもすぐにゲームを終了してレミたちが出てきた。
「ね、スタバ行こ、スターバリスタ」
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──
こうして全員で有名コーヒーチェーン店へ移動し、恐ろしく長い待機列の後端に並んだ。
レミ以外の面々はこの店に不慣れであり、メニューと睨めっこしながらあーだこーだと悩み続けた。結局、注文が決まったのはレジ前まで着いてからのこと。それも店員に色々とアドバイスを貰いながら、なんとか確定させたという顛末だった。
「ま、こーゆーのは慣れだからねぇ。ほら、うちの大学内にもあったりするし」
「レミ先輩はなんていうか、昔と比べて垢抜けすぎなんですよ」
「んー? そうかなぁ」
レミはそう言いながらキャラメルマキアートのストローに口を付けた。ほんの少し喉を動かすと、彼女は幸せそうな表情を浮かべる。
璃玖は思う。昔のレミはコーヒーならブラック、紅茶ならストレート、甘い混ぜ物が得意ではなかったはずだ。彼女と一緒にいる中で同じ飲み物を意識して飲むようにしていたからか、今では璃玖もブラック&ストレート派である。しかし今の彼女は甘苦い飲み物をさも美味しそうに飲み下す。変わってしまったレミに何処かもの寂しさを感じつつも、璃玖はレミに勧められて選んだフラペチーノを口へ運んだ。そして思った。こういうのも悪くない、と。
「璃玖くんも随分大人になったよねぇ。すごく落ち着いて見えるよ」
「そうですか? ……まあ来舞に比べるとしっかりしてるという自覚はありますが」
「くッ……俺は昔から弟気質なんだよ。本当は姉ちゃんより十分くらい早く産まれたのに、いつのまにか弟ってことになってるし」
「えっ、本当は茉莉先輩の方が妹なんですか!?」
来舞と茉莉の衝撃の事実に一同は笑った。どう考えても茉莉に妹感はないし、来舞には弟感しかないからだ。
「璃玖センパイはお兄ちゃん、って感じがしますよね。本当のきょうだいはいないけど」
「それはきっと、あんたがいたからじゃないかなぁ。璃玖くんはソラという弟の世話焼きしてるから」
「……今は妹だし。──って、わあああ、妹ですらないよ! ただの先輩後輩だよ!」
レミの一言に誘導されて妹宣言してしまったソラだったが、気恥ずかしさから間髪入れずに訂正にかかった。ワンピース姿でわたわた動くソラは本当の女の子のよう。
そんなソラの慌てっぷりをレミも来舞もニコニコ顔で見ている。ただ一人、璃玖だけは片眉を上げて口を尖らせたなんとも言えない複雑な表情だ。“ただの先輩後輩”というところに僅かな引っ掛かり、あるいはちょっとした悔しさのようなものを覚えたのだ。そんなに薄っぺらい関係だったかと彼が思案していると、レミが口を開いた。
「そんなこと言ってるけどぉ、もしかしたらそのうち兄妹を通り越して恋人になってたりして♡」
「「んなッ!?」」
璃玖とソラは同時に全く同じ反応を見せた。とんでもないことを言い出すレミに即座に反応したはいいものの、反論などが一切できずに言葉を詰まらせてしまう。もしかしたら恋人になる──その可能性がゼロではないことを二人とも自覚してしまっているから。
「や、やだなあ先輩。俺たちは友達なんですよ? なあソラ」
「う、うん。ぼくら、仲良しの友達だよー」
引き攣った笑顔で、若干棒読み気味に答える璃玖とソラ。すると璃玖の隣で肘をついてコーヒーを啜っていた来舞が、何気なしにぼそりと呟いた。
「……俺はお似合いだと思ってるんだけどなー」
「「!?」」
今度こそ何も言えなくなる二人なのだった。