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第16話 戦争イベント④ VSルゲーティアス公国

 ――VRMO『龍戦記ファンタジア』

 後年に実装された時限レアレイド『黒四こくし天龍てんりゅう戦』は、入る部屋と3体の天龍を倒す順番によって最後の1体の強さが変化する最難関レイドである。

 レイド発生条件は、ゲーム内で虚空と呼ばれる天候と、別レイドの黒龍を一定数討伐済みであること。かつ挑戦出来る時間帯すら限られており、この制限が判明した際には荒れに荒れたコンテンツである。

 発生条件の1つである討伐数は1ヶ月ごとにリセットされるため、当時のプレイヤーはひたすら虚空天候が来ることを祈った。それを揶揄した蔑称は「祈祷オンライン」。

 ただし、某プレイヤーが引き起こした黒四天龍戦全滅事件以降は、「レーテ君レイド」「黒死天」と呼ばれた――



 早速、『黒四天龍戦』を調べた観戦組が、雑草に身を隠し、屈み込んだ状態で固まる参加組もそっちのけにしてボイスチャットでワイワイと話す。


『リアル時間縛られるのも苦痛だし、嫌なレイドだなぁ』

『古くさくて草。いつの時代の仕様だよ!』

『特に知らなくても良かった他ゲーの闇を知った』

『リュー戦、実は結構面倒くさい化石ゲームだったんですね……?』

『これはサービス終了もやむなしだったんじゃ』

『いやいや、黒四天龍戦はエンドコンテンツだったから! 極めた奴だけが遊ぶエンドだったの!! なのに何故か準廃やライト達が参加したせいで揉め事が起こったってだけ!』

『そうだよっ。舟Pは要望があったからトップ層のためのやりこみコンテンツを用意しただけなのに!』

『リュー戦のプロデューサー愛されてるなぁ。それに比べてプラネは』

『愛には色んな形があるだけです』

『俺はルビーちゃん愛してるけど、正木は愛してないよ』

『でもそこにやれるコンテンツがあったら、とりあえず参加する。するよね?』

『……舟Pには悪いけど、今は「そんなにリュー戦って良かったか?」って疑問。ぶっちゃけ他人と話すのを強制される仕様が嫌いだったんで、プラネに来てホッとしてる。野良PTで喋らなくても誰も気にしないし……ってか、喋る暇あったらスキル使って倒せ! さっさとクリアして解散! って野良高速PTが意外と多いよな。自分はこのイベントで久しぶりに喋ってる』

『しかし震えろ。正木のこだわりはPKとヒーラーだけじゃない。恐怖のRPもなんだぜ!』

『正直ロールプレイは勘弁して下さい』

『まぁ、関わらなくても普通に遊べてるんでその辺は気にしてない』

『でもネクロは暗殺ギルドがあるせいで、他国に比べてロールプレイヤー多いらしいな』

『見てる分には良い』

『そりゃ、自主的に触ったことないけど、ロールプレイに特化したシステムと環境があるもん。自分はNPCと普通に接してたら、なんだかんだで自キャラのキャラが出来上がってた』

『グランドスルトの酒場の女主人NPCに、「アンタはそんなこと言う坊やじゃないよ」って言われた時はキュンッとしました』

『女主人って響き素晴らしいが、酒場ってあの横に太い肝っ玉なおばちゃんじゃねぇか』



 雑談のボイスチャットをバックに、ワラ人形が素早く地図の点を見て全員に状況を伝えた。


「既に警戒されてしまったなら慌てても仕方ない。情報のおさらいに時間を取ろう。

 ルゲーティアスの拠点中央に残っているのは約100人。

 中央に陣取るNPCは、防衛・支援型の伯爵令嬢。彼女はオリジナル職業〝大魔導士〟であるが、要はデバフと回復の全体バリア持ちの星魔法士である。遠距離キャスターでしかないのでな、物理攻撃には弱い。

 バリアは、敵の魔法威力の低下と【幻想仮想コア】のHP半回復。使用は拠点内で1度のみ。このイベントでPKは得点にならないが、【幻影仮想コア】を持つのは彼女。倒さねばならない」


 生い茂る草の中、草原にいるには場違いな真紅のローブ・ヴォラントのドレス姿の貴族の少女。フリルがふんだんについた傘を差し、そこから覗く柔らかなカールのブレイデッド・シニョンの髪型の黒い髪と、吸い込まれそうな輝きを持つ金色の瞳。16歳でありながら童顔で背丈も低く、幼い容姿をしていた。

 草に肩から下がかなり隠れている。種人よりは大きいが、平均的な同年代の平人よりも明らかに小さい。

 それがルゲーティアス公国のNPCブラヴァレナ・シストバグル伯爵令嬢である。


「防衛人数100!? ルゲーティアスの残りの4481人の参加者はどこに消えたの!?」

「パライソでほぼ全滅したのかな?」

「殲滅量エグ過ぎッ!」

「いやいや、さすがに全滅まではしとらんはずじゃ。生き残りは他国の攻撃に行っとるんじゃろ。しかし令嬢のキャスター殺し性能よ……うちの召魔術士と神鳥獣使いは潰されておるな」

「最初は防衛にももっと人数割いてたんじゃないかなぁ。即死のせいで攻撃部隊が半壊して、当初の配置予定より人が分散して拠点から離れたんじゃないかと」

「あれ? デバフバリアの魔法威力の低下って回復魔法も……?」

「そりゃそうだよ」

「バリアの外側に居れば大丈夫」

「ファーストアタックゥッ!! レーテ君先制で俺達弓術士の不意打ちファーストアタック特攻消えた!? やっぱり消えた!?」


 パニック気味に悲愴な叫びをする弓術士は無視して、ワラ人形はルビーへと声をかける。


「どうやら動転していたようで、陛下への確認を怠っておりました。陛下の攻撃型――失礼、戦い方は敵拠点での中規模即死攻撃を1度のみ扱えると聞き及んでおりますが、ご職業は?」

「召魔術士だ。城で手習いとして教わった」


 笑顔で答えるルビーに、ワラ人形を含めて皆が目を丸くする。「えっ、キャスター?」「脳筋って言ってた奴は出て来なさい」「プレイヤーの召魔に、即死魔法スキル実装されてないんだけど……」とざわついた。


「生き残っている輩は即死耐性持ちだろうし厄介な……。失礼ながら、召喚獣は連れておられませんが」

「召喚獣なら最初からここにいる」


 ルビーが足下の影に手をつけると、ルビーの影が動いて地面から剥がれ、細長い紐のように姿を変えた。そしてルビーの周りをぐるぐると回る。

 ルビーはニコニコと誇らしげな笑顔だったが、ワラ人形を含めたベータからのプレイヤー一同は顔を引きつらせる。


「い、嫌な予感が」

「やめろぉ! 確定するまで口にするんじゃない!」

「ネタバレ注意って先行組に対して言ってたんかいっ」

『特攻してる神鳥獣使い、 弓術士を盾にして善戦してます!』

「えぇ……、レーテ君は善戦しないでくれ!?」

『雨降って視界悪いし、種人なんで雑草で相手に姿見えなくなるから、タゲが定期的に外れて粘れてる感じ』

「まだ生きてんの!? 時間! こっちの突撃時間が溶けていくぅ……!」

『ってかさ、ルゲーティアス民はなんで雨を取っちまったんだよ』


 観戦組の疑問に、ワラ人形は「配信でコアの位置がバレて無ければ、コアの場所の目くらましに視界を悪くする雨は悪くなかったんだがな」と同情的に呟いた。

 突然、ガバッと勢いよく弓術士のプレイヤーが立ち上がる。そしてルゲーティアス公国の拠点中央へと猛然と走り出す。


「うおおおぉぉぉ!!」

「こっちからも弓術士!」


 ルゲーティアス公国の怒声に、嶋乃達は草木に隠れ忍びながら仰天した。


「あの人どうした!?」


 思い詰めた表情で謙ケンと数人が立ち上がる。そして「うちの子達がすまないっ」と言い捨てて茂みから駆けだした。


「全員リュー戦民かー!?」

「すみませーんっ!!」


 降りしきる雨で、ルゲーティアス公国側は接近に気付くのが遅れた。

 ルゲーティアス公国は遠距離レンジャーが唯一いない国である。タンクの守護騎士と、近接アタッカーの剣術士と槍術士が突っ込んできた弓術士へと駆け寄る間に、弓術士の方は攻撃距離に到達した場所で強化スキルを使った渾身の矢を放った。

 星魔法士達の詠唱前にブラヴァレナへと一直線に飛んだ攻撃に、隠れる嶋乃達も固唾を呑んだ。


 ――これは当たった!


 と誰もが思った一撃は、ブラヴァレナの顔の傍を素通りして後方の神鳥獣使い――レーテレテへと当たり、金属音の弾かれるSEが響いた。ダメージは0である。

 あまりの訳のわからなさに、ブラヴァレナも、ルゲーティアス公国側のプレイヤーもポカンとする。


「は?」


 その隙に、ワラ人形が周りの顔を素早く見渡し「良い囮だ。全員隠れて進め。最初で最後かもしれないネクロアイギスの正念場だ。好きに動きたまえ!」と潜めた声で鼓舞する。「おー!」「はい」「うい」「やるぜ」「ほーい」と各々ゆるい返答をして、種人以外は屈んで雑草生い茂るルゲーティアス公国拠点へと侵入を開始した。


(遂に戦闘だ。雨、冷たい)


 ツカサは心臓の鼓動がドキドキしながら、和泉達と進む。

 隠れながら進むために屈んで移動を余儀なくされている和泉と∞わんデンと雨月は、泥でぬかるむ地面は大変そうだ。

 ただ、∞わんデンと雨月は濡れながらも涼しい顔をしていて、屈んでの移動もスマートである。その後ろをリアルな小ささのコウテイペンギンの雛が歩いていた。

 頻繁に足が滑り、両手を地面につけて四つん這いの形になってしまう和泉が、とても移動に苦労しているようだった。普通に歩いているツカサは楽をしているようで申し訳なくなる。太眉を八の字にしているチョコもそうなのだろう。

 ……と、チョコを見たら、ゆゆか、屈んで歩くバード協会9、古書店主の3名もついてきていた。皆、腕に神鳥獣を乗せ、胸元に寄せて抱えるようにしている。


(あ、あれ……? 神鳥獣使いがほぼ全員ここにいるけど良いのかな……?)


 レーテレテへの攻撃がはじかれた弓術士は、くしゃりと顔を歪めて悔しそうに口をへの字に引き結ぶ。彼に追いついた謙ケン達に「どうどう」となだめられると、弓術士はレーテレテがいる場所らしき草むらを指差して吠えた。


「アイツはっ、生きてちゃダメなんだあぁー!!」

「落ち着け! ここはフレンドリーファイアエリアじゃない!」

「うちの固定はアイツのせいで崩壊したんだ……! 許せるかよッ!!」

「固定の崩壊がなんだ! 俺なんてフレがやる気なくして引退したわい!!」

「えっ……――マジで?」

「マジマジ」

「黒死天のレーテ君事件の燃え尽き症候群の規模を舐めない方がいい」

「みんな……俺と同じ気持ちを抱えていたのか……!」

「ああ! みんな等しく被害者さ!」


 肩を並べて爽やかに笑い合う面々を、守護騎士と剣術士と槍術士がぐるりと囲う。そして無情にも彼らをタコ殴りにしてキルした。


(【復活魔法】が届かない距離……!)


 ツカサが内心慌てていると顔に出ていたのか、ツカサの方に顔を向けた∞わんデンに首を横に振られた。そして人差し指で前に進むよう促される。ハッとしたツカサは、気を引き締めて頷いた。

 草をかき分けて進む音が、雨音以上の大きさにならないように慎重に歩く。剣術士の近くを気付かれないように通り過ぎる時は、バクバクと心臓が鼓動を打った。


(き、緊張する……)


 レーテレテ達も守護騎士に攻撃され続けて、遂に回復が間に合わなくなり倒された。

 とどめを刺したのは、同じヒーラーの白魔樹使い。相手の回復詠唱妨害合戦に勝利をした形である。その白魔樹使いはスカート丈が短い白ローブの平人女性で、雨に濡れた淡い輝きをまとった紫色の長髪を気怠げに杖で掻き上げ、背中へと払った。

 戦闘不能のレーテレテを青い瞳で見下ろしながら「完全後出しヒーラーが、真っ先に前に出て来るな。神鳥獣使いの特性殺しやがって」と言い放ち、苛立たしげに舌打ちする。


「大体なんだったんだ、あのクソ内輪もめ寸劇は!」


 他のルゲーティアス公国プレイヤーは顔を見合わせ、半笑いで肩をすくめた。


「さあ? まぁ、ゆるゆる劇場はネクロ民だからお家芸じゃないの。今更、ニキがイライラしてもしょうがないって」

「ライト勢の相手するの精神的に疲れるなぁ。おじさん、ノリについてけないよ~」

「いや、ズサーおっさんは十分ネクロ民の素質あるわ」

「面白いけど、遠くで眺めてたい連中なんだよなァ」

「正直、PVP中にやることかよ。真面目にやれ」

「ボロクソなの草」


 ルゲーティアス公国側は、ネクロアイギス王国にもの申したいようでブチブチと文句を言い合う。

 しかし、その間にもワラ人形達は身を隠しながら、着々とブラヴァレナへと距離を詰めていた。

 観戦組はルゲーティアス公国側に聞こえないのをいいことに遠慮無く喋る。


『リュー戦民のせいで、ネクロアイギスへの偏見が広まってる。悲しい』

『果たして偏見かな?』

『プレイヤーの変人率も3国内で1番高い気がするから真実なのでは?』

『義憤ニキのアバター、相変わらずお美しい』

『あの白魔樹使いのキラキラと陰影の加減で輝くツヤの髪色ってどうやったら作れるんですか? 綺麗で羨ましいです……』

『当のアリカニキですら配合を知らないのである』

『どういうこと!』

『ドラマ一挙見てる奴、まだ音量絞ってくれ。こっちに聞こえてる』

『ランダム生成で出てきたのを適当に起用してるんじゃなかったっけ? 自分もランダムは何度か押したけど、金髪アフロしかレアは出てこなかったなぁ』

『ランダム生成でレアな見た目を入れないで欲しいマジで。今の凡庸容姿にモヤっときてキャラデリしたくなるんだようっ』

『アリカニキ、足! 女アバターで男動作しないで! スリットあるミニスカで足上げるのやめて!』

『見え……?』

『プラネは見えるけど、見えない仕様だよ』

『哲学かな』

『ルゲーティアス民にロールプレイは無理』

『ふすまと姫ちゃん達がいるじゃん』

『ふすまは天然』

『実況者に夢見るのは止めたまえ。多少はキャラ作ってるよ』

『わんデン、わざと炎上作ってんの?』

「そうだよ」

『実況者に夢見るのは止めろ。アレは天然の炎上芸人だ』

『草』

『ああ、ご本人が肯定してるのに!』

『ここのボイスチャット、匿名性があるせいで言いたい放題になり始めたなぁ』

『わんデンさん、ステルスゲーで声出して大丈夫ですか?』

「この位置、小声なら聞こえてない。遠距離の射程に入ったよ。攻撃スキルがグレーから白になった。使える」


 ボソボソと小声で∞わんデンが返す。ボイスチャットの質問に答えたというよりは、先行した∞わんデンが後ろにいるツカサ達に伝える言葉だった。


「雨月君、ワラ人形さん達は目標位置?」

「いえ、大回りをして距離が開いてます」

「どうやらまだ近接の七方出士達が攻撃範囲に届いていないから、攻撃は始まらないね。じゃあバリア前に神鳥獣使いで一斉攻撃しようか」

「え?」


 ツカサと和泉、チョコ、そしてバード協会9はびっくりして目を丸くする。

 しかし、ゆゆかと古書店主、雨月は頷いた。

 ∞わんデンは口角を上げてニヤリと笑う。


「ツカサ君の【郭公のさえずり】なら、バリア前に叩き込めるかも。敵のNPCだってレベル10制限だし、上位スキルなら押せるでしょ。上位スキルはリキャストタイムが長いはずだから――さすがにスキル再使用の時間短縮の効果はないよね? ……ってことで最初1番威力あるやつで、その後いけるなら別の攻撃魔法に変更して連射でよろしく」

「【郭公のさえずり】を使うんですか!?」

「動かなきゃいいんだよ。アレ、神鳥獣使いなら固定砲台をやれる。神鳥獣使いのスキル使った時の予備動作は楽譜と鳥が動くものだし、本人じゃないのがミソ。動かないから大丈夫。

 慣れ必須のお化けスキルだから、他職での運用は練習時間取れない今は無理です。スパッと諦めて頑張って」

「は、はいっ」


 ∞わんデンと和泉、チョコの3人が立ち位置を変更する。神鳥獣使いだけで集まって固まり、ツカサは初期の【水泡魔法】しか攻撃スキルをもっていないため、バフを全て受け持つことにした。バフは重複しないのでツカサだけが担当だ。

 【サークルエリア】で範囲を指定して【郭公のさえずり】を使った。肩に乗っていたオオルリが戦闘開始で飛び上がり、その姿が大きくなる。【不吉の予感】が付与された直後に選択した攻撃力アップのバフ【鬨の声】が、瞬時に全員にかかる。


(早い!)



《【鬨の声】がLV2に上がりました》



 しかし、ホトトギスの鳴き声がした時点で即座にブラヴァレナが反応し、その場でクルリと回る。一回転した瞬間、彼女の衣装はヒラヒラとした七色の美しいドレスに変貌し、その手には傘ではなく水晶の透明な杖を持っていた。

 一斉にブラヴァレナの周囲に五線譜が浮かんだ時には、ブラヴァレナはもう詠唱を終えている。


「【シークレットクラウンドーム】」


 先手で球体のバリアを展開され、∞わんデンが眉間に皺を寄せて「さえずりより早いのか」と苦い顔をした。「敵襲!」という叫び声をかき消して、まばゆい魔法攻撃の連射の閃光で一帯が白くなる。

 ツカサも眩しくて、思いがけずまぶたを閉じた。カキンッと何かを弾く音がする。この瞬間にも攻撃を受けたことに肝が冷えた。薄目でなんとか記録ログの文字を見る。



《「アリカ」の【斬魔法】

 →【郭公のさえずり】の完全回避効果。

 →「ツカサ」に0(150)ダメージ。

 →「雨月」に0(150)ダメージ。

 →「古書店主」に0(150)ダメージ。

 →「バード協会9」に0(150)ダメージ。

 →「ゆゆか」に0(150)ダメージ》



(ああ……!! 前に蘇生くれたアリカさん!)


 ツカサの現在のHPは130。まともに攻撃を受けていたら戦闘不能になっていたダメージだった。ツカサ達の場所が五線譜と鳥の声で相手側にバレている。


「こっ、こわ!」

「ひええッ」

「アリカ御用達のPK用、物理攻撃魔法だね。【斬魔法】を持ってるヒーラーをキャスター扱いしたくないと私的に思うよ」

「店主さん、結構余裕!?」


 ゆゆかとバード協会9が、わたわたしている。動く訳にもいかず、追撃が来ると顔色を白くしていたが、ワラ人形達も襲撃をかけたらしく、各場所で戦闘が始まったので、ツカサ達が集中して狙われる事態にはならなかった。

 あの眩しい光の中、∞わんデンとチョコも攻撃に参加したようで、続けて通常攻撃をアリカにしている様子が目に入る。

 ツカサ達に向かって放たれた星魔法士の【火魔法】の攻撃玉も、和泉が盾で弾いてくれた。【癒やしの歌声】で和泉の減ったHPにツカサは自動回復をつける。互いに目が合うと、照れ隠しに笑った。

 ∞わんデンが矢を放ちながら、別の意味で笑い出す。


「ふっ……ハハハハハ!」

「わんデンさん、その笑い邪悪です!」


 視聴者のゆゆかのツッコミに、悪い笑顔の∞わんデンも気安く答える。


「だって死んでる死んでる! ヒューッ」

「わんデンさん、本当こんな時はゲス笑いで楽しそうですよね! ツカサ君見てますよ! 自重の誓いはどうしたんですか!」

「いやぁ、【波動のさえずり】でバリア貫通してるんだよ。全防御貫通って魔法バリアも込みとは盲点だった! 予想外のことで棚ぼたするとテンション上がるわ」

「えっ」


 驚いてよくよく周りを見ると、ブラヴァレナの姿が戦場から消えていた。


「倒した……?」

「はいな! さすが選ばれし覇者の上位スキル。これは修正されるわぁ」


 実に楽しそうな∞わんデンの一言を聞きとがめたバード協会9は「そんないきなり修正されないで?! 今日初めて使ったのに!」と嘆く。

 こちらに一直線に向かってきていた守護騎士と剣術士の複数人が、再び放たれた青白い光によって倒れた。


「ええ!?」


 直線範囲に入らず、攻撃が当たらなかった1人はビビって逃走する。その背中に∞わんデンが矢を射続けた。

 放たれた光の正体は、2回目の【波動のさえずり】だ。唖然とする一同に、∞わんデンも笑みを引っ込めて雨月に尋ねる。


「……雨月君、リキャストの概念……」

「【波動のさえずり】なら2つ持っていたので」

「なんですと……」

「脱獄を2度した報酬です」

「まさかの神鳥獣使いで攻撃特化を目指してるのかい? そのこだわり、クールだねぇ」


 「なんで別のさえずり取らずに、同じのを取ってんの……?」とバード協会9は理解出来ない様子で、口をぽかんと開けていた。



『ヤバイヤバイーッ!! 早くルゲーティアスのコア拾って果樹林に逃げてーッ!!』

『グランドスルトの強襲部隊が来るぞおおおぉぉぉぉ!!』

『コアはルゲーティアス側も草が邪魔で見失ってるんだよ。途中うちに取られまいとサッカーした奴がいてさ。ワラ人形さん達もアリカニキの足止め戦闘やめる訳にもいかんしー!!』

『くぅちゃんさん! もと左左左!!』

『いや、もうちょい右上じゃね!? 雨で俯瞰映像も見にくいな……!』



 観戦組の情報に、∞わんデンが攻撃を急いでやめる。


「ツカサ君達、もう動ける?」

「まだ無理です。効果が切れるまであと15秒って表示が――」


 その時、ゴウウウッという風の轟音と「キュアアアアッ」と高音の、鳥のような鳴き声が耳をつんざく。ルゲーティアス公国の曇天と雨の空に、複数の鳥の羽を持った恐竜が飛んでいた。



『秘儀導士はテイムモンスター何体連れ込んでるんだよ!?』

『空飛べる手段あるのって卑怯じゃないのコレ!』

『さすがPVP闘技場に出禁の職業だなと、テイムモンスの数押しされると実感しますねー』



「うーわー……こりゃ、上空から位置丸見えだ」


 ∞わんデンは空を見上げて苦笑いした。そしてそっと身を屈める。


「……皆さん、ゆっくりこっそり果樹林へ後退しましょ」


 その提案に賛同して、ツカサ達は静かに動き出した。

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