第1話 和泉の合流
ツカサと和泉は、一緒に∞わんデンの元へと向かった。
∞わんデンを前にして、和泉はかなり緊張した様子で身体を縮こまらせる。
ツカサは和泉を気遣いながら、∞わんデンに紹介した。
「この人が、副団長の和泉さんです」
「初めまして、和泉さん。約10年ぐらいゲーム配信してる実況者の無限わんデンです。ツカサ君とはリア友です。よろしくね」
「い、いい和泉です……こんにちは……」
震えながら発せられた和泉のハスキーな声に、∞わんデンが一瞬黙り込み、少しの間を置いて、チラリと上目遣いで和泉の頭上を見た。プレイヤー名を確認したのだと思う。
再び視線を和泉の顔へと戻すと、半笑いのひきつった笑顔で尋ねる。
「ひょっとして、爽やか系一般人の皮を被ったヤバいサラリーマンのお兄さんいない?」
「そ、その……はい」
「あー……」
∞わんデンは遠い目をした。
そういえば和泉の話によると、∞わんデンは和泉だけでなく、和泉の兄と話したことがあるのだったとツカサは思い当たる。
「えーと、まぁあれだね。しばらく雲隠れも、悪くないと思うよ。俺も失踪はしてたし……お互い災難だったよね。色々とあって」
∞わんデンが苦笑いしながらそう言うと、和泉はフッと肩の力を抜いた。
「マギシさんを倒した大会の試合……見ました」
「ハハ。アレで存外スッキリしたよ。アイツとはあの仕返しで本当に縁切り。そうだ、良かったらお兄さんにまたTRPGしようって言っといて。闇医者クロストはお兄さんのキャラってことでずっと空けてるしさ」
「はい……」
ほっと胸を撫で下ろした和泉に、ツカサも安心する。
それから3人でパーティーを組んだ。和泉は騎士LV10、∞わんデンも弓術士LV10だ。
∞わんデンのレベルがもうツカサ達に追いついていた。ツカサに合わせるため、急いでレベルを上げてくれたのだろう。
ツカサの神鳥獣使いはLV11である。
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名前:ツカサ
種族:種人擬態人〈男性〉
所属:ネクロアイギス王国
傭兵団:ネクロアイギス王国「アイギスバード」団長
称号:【影の立役者】【五万の奇跡を救世せし者】
フレンド閲覧可称号:【カフカの貴人】【ルビーの義兄】【ベナンダンティの門人】【パライソの知人】(New)【深海闇ロストダークネス教会のエセ信徒】
非公開称号:【神鳥獣使いの疑似見習い】【彫金師の見習い】【死線を乗り越えし者】【幻樹ダンジョン踏破者】【ダンジョン探検家】【博学】【密かなる脱獄者】(New)
◆現職:「神鳥獣使い」
職業:神鳥獣使い LV11(↑1)
階級:9級
HP:140(↑10)(+40)
MP:600(↑50)(+130)
VIT:14(↑1)(+4)
STR:6
DEX:15(↑1)
INT:16(↑2)(+3)
MND:60(↑5)(+3)
サブ職業:彫金師 LV11(↑4)
スキル回路ポイント〈7〉(B4/C0/P3)
◆戦闘基板
・【基本戦闘基板】
∟【水泡魔法LV6】【沈黙耐性LV4】【祈りLV12】(↑1)
【魔法速度LV4】【魔法防御LV1】
・【特殊戦闘基板〈白〉】
∟【治癒魔法LV7】【癒やしの歌声LV6】(↑1)
【喚起の歌声LV5】【鬨の声LV1】【復活魔法LV2】(↑1)(New)
◇採集基板
・【基本採集基板】
∟【釣り人LV1】(New)
◇生産基板
・【基本生産基板】
∟【色彩鑑定LV3】(↑2)【外形鑑定LV4】(↑1)【硬度鑑定LV5】(↑1)
【化石目利き(生産)LV2】【鉱石採集(生産)LV2】(↑1)
【金属知識LV6】(↑3)【金属研磨LV6】(↑2)
∟【古代鉱物解析LV1】【古代岩石解析LV1】
・【特殊生産基板〈銀〉】
∟【測定切削技法LV6】(↑2)【打ち出し技法LV2】【延ばし加工LV5】(↑1)
【毛彫りLV1】【丸毛彫りLV1】【片切りLV1】(New)【蹴り彫りLV1】(New)
【宝石知識LV4】(↑1)【宝石研磨LV3】(↑2)【石留め技法LV3】(↑2)
・【特殊生産基板〈白銀〉】
∟【造花装飾LV1】【金属装飾LV1】
・【特殊生産基板〈透明〉】
所持金 684万8254G
装備品 見習いローブ(MND+1)、質素な革のベルト(VIT+2)、黒革のブーツ(MND+2)、古ファレノプシス杖(MP+100)、シーラカン製・深海懐中時計、LV7デボンの木の指輪(VIT+2、INT+3)
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ステータスを確認していると、チョコから個別フレンドチャットが来た。
チョコ:団長さん! 副団長さんがインしてます!
ツカサ:今、一緒にいます。
わんデンさんを紹介したところです
チョコ:Σ( ̄・ω・ ̄)
ツカサ:ネクロアイギスの広場にいます
チョコさんも来ますか?
チョコ:いきます!
直ぐにチョコが衛星信号機でテレポートしてきた。足早にこちらにやって来て、和泉を見上げるその顔は何も言わずとも嬉しそうだ。
「ちょ、チョコちゃん……ひさっ、久しぶり……」
「副団長さん、お久しぶりです」
∞わんデンは集まった全員を見渡し、片手を上げて話し始める。
「ところで確認。皆様方、期間限定戦争イベントの前哨戦とやらの、新大陸のPVPはやりたい感じ? というかやっている人いる?」
「いえ」
「あ、え? な、何それ……?」
チョコがブンブンと首を横に振る隣で、和泉は困惑していた。
ツカサは所持品から新聞を取り出し、トレードで和泉に渡した。
「和泉さんがいない間に、イベントが進んで三国会談というのがあったんです。新大陸で他国のプレイヤーを倒すと貢献度ポイントが貰えるようになりました」
新聞を渡した和泉からは銀鉱石5個のトレードがあった。「彫金師だと加工出来ないのは分かってるから粗品ってことで……」と和泉は付け足す。
ツカサは素直に受け取って「LV11ペリドットの銀の指輪HQ〈VIT+2、STR+7、【魔法攻撃反射】〉」をトレード返しすると、和泉が目を見開いた。
「ツカサ君!?」
「いつもお世話になっているお礼です。上手く出来たので受け取って下さい」
ツカサは照れ笑う。「で、でも!」と慌てふためく和泉へ、今度はチョコがトレードを差し込んだ。びっくりして固まる和泉に対して、チョコは太眉を凜々しく上げて、どやっと不敵な笑みをした。
「チョコちゃん!?」
「倉庫の木材で作った木の指輪なのです」
「あっ、チョコさんと指輪被っちゃいましたね」
「アクセ枠の取り合いは彫金と木工の宿命なのです。チョコと団長さんは終生のライバルなのです」
「しゅうせい……?」
「うーん、キミ達クラフト勢みたいな会話するねぇ。いや、そもそもそっち寄りのプレイスタイルなのかな」
∞わんデンの問いに、ツカサ達は揃って頷いた。
「ってことは戦闘ガチ勢は雨月君だけなのか。じゃあ、イベントはスルーになるか。特典はハウジングの優先購入権っぽいんだけど」
「あ! でも越権クエストならこなしてます」
「わた、私も防衛クエなら」
「え!? 2人ともワールドクエスト達成してるのか」
∞わんデンは感心する。チョコもツカサの発言に驚いていた。
「じゃあ2人が取ってるなら、わざわざポイント稼ぎしなくても良さそうだな。クエスト探すのも大変そうだし、PKとPVPのポイント稼ぎも1キル1ポイントで渋いらしいから俺もパス。イベント当日まで普通にやりたいことやって過ごそう」
「わんデンさんは三国巡りしましたか?」
「あとグランドスルトだけ残ってる」
「一緒に行きましょう。僕も彫金師ギルドに行きたいです」
「つ、ついでに村巡りのギルド階級クエも、やれるよね」
和泉から積極的な言葉が出て、ツカサは嬉しくなった。
4人パーティーでネクロアイギス王国を旅立ち、のんびりと徒歩でグランドスルト開拓都市の街道を歩く。この道中で、いつもゲームのことに関して尋ねる立場だったツカサが、∞わんデンに尋ねられて答える立場になったのがとても新鮮だった。
ソフィアと一緒だった時に遭遇した、盗賊ロールプレイのプレイヤーとのエンカウント戦闘の話を∞わんデンにすると、∞わんデンは自分の頭上の名前『【RP】∞わんデン』をチラリと見る。
「俺もロールプレイだから遭遇してしまう?」
「紫色ネームのプレイヤーだけだって言ってました。青色ネームなら遭遇しないはずです」
「ほーん。なら大丈夫か」
そんな話をしていた後に、街道の傍にある休憩場所のような一角で切り株に腰を下ろして休憩していたら、突然見知った顔のプレイヤーに声をかけられ、ツカサ達は心底驚いた。
「やあ、偽物さん。奇遇だね」
∞わんデンは、自分そっくりな容姿の青色ネーム『【RP】無限わんデン』の登場に、面倒くさそうに片肘をついて腰を上げなかった。
「反応して!?」
「いや、フレと一緒なんで……」