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第6話 メインクエスト・ネクロアイギス王国編『影の興国』開始と、ショッキングな初パーティー

 はっと意識を引き戻す。驚愕のフレンド情報に一時絶句して硬直したが、何とか和泉にフレンド申請をする。

 フレンド申請を待ってそわそわしていた和泉は、「ありがとう、ツカサ君!」と瞳に涙をにじませるほど喜んでツカサの申請を受けた。



名前:和泉

人種:砂人擬態人〈女性〉

所属:ネクロアイギス王国

称号:【深層の迷い子】【騎士の疑似見習い】

フレンド閲覧可称号:無し

非公開称号:無し

職業:騎士 LV1



「騎士?」

「う、うん。ツカサ君、青い鳥を連れているから神鳥獣使いってヒーラーかなって思って。その……ネクロアイギスのタンクにしてみた。別の国の守護騎士ってタンクとの違いがわからなくて、ちょっと混乱したけど」

「タンクで良かったんですか……?」

「前に出て怖そうな役割みたいだけど、頑張る。あ、あのね。ツカサ君のこと抜きにしても、私、もう少し積極的になれるようにどこかで特訓したいって思ってたんだ。本当にあがり症と人見知り激し過ぎて色々ダメで……。だからタンクで自分から前に出て、度胸をつけたいというか……慣れたいなって」

「和泉さん、僕もです」

「え……?」

「僕も知らない人と頑張って話そうと思って、このゲームを始めたんです」


 和泉とツカサは互いに顔を見合わせて、ふにゃりと笑みを零し合った。


「じゃあ、一緒にメインクエスト進めていきますか?」

「うん!」

「パーティー組んだ方が……あ! 和泉さん、初心者教本もらったなら読んだ方がいいです」

「これ……? わっ、スキル出た! そうだ、もらった装備品を装備して……。ご、ごめんね、待たせちゃう」

「全然平気です。僕もゆっくり準備しました」


 和泉とツカサはのんびりと準備をしてパーティーを組んだ。それから2人でメインクエストが始まる広場の中央噴水へと近寄った。


 噴水の縁に女の子が寝転んでいる。具合が悪そうなだけでなく、頬がこけた女の子は薄汚れてボロボロのワンピースを着ていた。息も切れ切れに彼女は告げる。


「お……なか、すい……た」



《メインクエスト、ネクロアイギス王国編『影の興国』――序幕『天涯孤独の少女を救え』が受注されました。彼女に食べ物をあげよう!》

《推奨レベル1 達成目標:食べ物を所持して彼女に再び話しかける0/1》



 和泉とツカサは2人して目を丸くする。


「食べ物を探すクエスト?」

「む、向こうの……マルシェっぽい屋台が並んでいる場所へ行けばいいのかな」


 ぐったりとしている少女は、ゲームキャラクターとわかっていても衰弱している様子がリアルで、離れて本当に大丈夫なのか心配になるほどだ。でもゲームキャラクターなので大丈夫なのだろう。

 後ろ髪を引かれながらも、東へ直線に道が伸びる通りへと向かった。そこは道の両端に白い天幕を張った屋台がズラリと並び、活気がある。バザーという看板を掲げて剣や鎧を並べているプレイヤーも混じっていた。


「屋台のご飯、何がいいんだろう」

「そ、それもだけど、どうすればいいんだろうね。私達、食べ物を買うお金なんてないし……」

「え? ……あっ」


 和泉の言葉に、はっとさせられる。ツカサは50万Gというお金を持っているが、これはたまたまもらえた称号の特典だ。和泉は一文無しなのである。むしろ、現時点で大金を所持しているツカサがおかしいのだ。

 すると、野菜を並べている屋台の中年の女性が和泉に声をかけた。


「アンタ達、突っ立ってどうしたんだい。買わないのかい?」

「わっ、私達一文無しで……!」

「……すみません。僕は一応お金持ってます……」

「へ!?」


 ツカサの言葉に和泉が素っ頓狂な声を出して驚いた。


「ああ、そうなのかい。じゃあ、娘さんの方は小遣い稼ぎに近隣の果樹林へ行くと良いよ。あそこは国有林だけど、民の出入りも収穫も自由でね。ただ、1人が持ち出せる果物や薬草の量が決まっているんさね。ほら、むこうに黄色の天幕があるだろう? あそこが買い取りの店さ」



《メイン派生クエスト『初めて近隣の果樹林へ』が受注されました》

《推奨レベル1 達成目標:木苺0/5、ハーブ0/5を採取して引換所で渡す》



「そっちの子は日銭に困ってないなら、一攫千金のローゼンコフィンの薔薇を探してみるのもいいだろうね。噂によると、近隣の果樹林に生えているのを見た奴がいるそうだよ」



《限定特殊クエスト『王の薔薇の住処』が発生しました》

《推奨レベル変動 達成目標:珍しい薔薇を採取して好事家へ渡す0/1》



(限定特殊クエスト!?)


 ツカサがアナウンスにびっくりしていると、通りすがりの通行人の会話が耳に入った。


「聞いたか? 西の路地裏の袋小路で人が消えるらしいって」

「聞いた聞いた。死んだ子供の幽霊が徘徊しているそうじゃないか」



《入門ギルドクエスト『暗殺組織ギルド「ネクロラトリーガーディアン」への勧誘』が発生しました》

《推奨レベル1~ 完全ロールプレイヤー向けエンドコンテンツ。プレイヤー有志による悪質プレイヤーの取り締まりを主に活動する公認PKKギルド。詳しくは公式サイトを参照》



 突然クエストが増えて、ツカサと和泉は互いにぎょっとする。しかもそこで終わらず、雑踏の声が耳に届くたびに、次々とクエストが目の前に列挙された。



《サブクエスト『肉が足りない!』を受注しました》

《サブクエスト『近隣果樹林の害獣退治』を受注しました》

《サブクエスト『うちの子知りませんか?』を受注しました》

《サブクエスト『閃け! 新商品』を受注しました》

《サブクエスト『畑の泥棒』を受注しました》

《サブクエスト『下水道の不気味な噂』を受注しました》

《ハウジング解放クエスト『傭兵団と坂の上の住宅街』を受注しました》

《サブクエスト『屋根裏の怪物』を受注しました》

《サブクエスト『墓地の悪臭』を受注しました》

《入門ギルドクエスト『山の民「採集猟師」への勧誘』が発生しました》

《入門ギルドクエスト『木材加工屋「木工師」への勧誘』が発生しました》

《入門ギルドクエスト『洋服屋「裁縫師」への勧誘』が発生しました》

《入門ギルドクエスト『レザー防具屋「革細工師」への勧誘』が発生しました》――……



(ちょ、ちょっと待って!? 多い……!!)


 《クエスト一覧》にズラリと並ぶクエストの数に2人は途方に暮れた。一気に抱え込んだクエストの山に茫然となる。


「MMOって、ふっ、普通に人の会話が耳に入るだけで、やることこんなに増えるんだ……」

「あっ、でも和泉さん。《発生》って出たクエストは受けたことになってないみたいです。クエスト一覧に載ってないですよ」

「ホントだ! つまり、やらなくていい……?」

「多分、やるかやらないかを僕達が自由に決めていいクエストなんだと思います。暗殺組織ギルドに入るってクエスト名もありましたし、入りたい人は進めてクエストにしようってものなんじゃないでしょうか。受けられる場所のヒントは、通行人の人が話してくれてましたから」

「西の路地裏……袋小路」

「僕は、そのクエストはちょっとやめておこうかなって」

「わ、私も。採取や生産系もまだ触らなくても、だね。じゃあ、近隣の果樹り……あ! でもツカサ君は行かなくてもメインクエストクリアは出来そうなんだよね……? お金持ってるってさっき――……」

「僕も果樹林に行きます。果樹林に行くのが通常の流れだと思うし、限定特殊クエストのアナウンスも気になって」

「そんなのあったんだ!」


 和泉には限定特殊クエストのアナウンス自体が無かったらしく、薔薇の話をしたらとても驚いていた。屋台の女性がツカサにしゃべっていた話は、ただの雑談だと思って聞いていたそうだ。

 遅れて解説が表示された。



《クエストについて解説します。

 メインクエストは「プラネット イントルーダー」の本編ストーリーです。

 初期所属国によって紡がれる物語は違いますが、最終的に全ての国の物語は1つに繋がります。この進み具合によって、他国への移動や所属の移籍、傭兵団機能、ハウジング機能、ダンジョン、レイドやエンドコンテンツなどのクエストが解放されます。

 自動でクエストは受注されますが、メインクエスト以外の、メイン派生クエスト・サブクエスト・限定特殊クエストなどは《クエスト一覧》から破棄が出来ます。自由に取捨選択して冒険して下さい》

《また、「発生」の場合はクエストが受注されていません。主にギルドの入門や、特殊な条件と場所を満たした時に正式なクエストとなるものです。クエストを受注出来る場所は発生情報の際にもたらされます。ぜひ探してみて下さい》



 大体ツカサが予想した通りの説明だった。サブクエストの内容をよく確認すると、近隣の果樹林に関係するものが多いので、和泉と話して同時に少しずつ進めることになった。


 市場通りを突っ切れば東の城門にたどり着く。

 門番に衛兵はいたが、プレイヤーでもなければ特に声をかけられることもなく、軽く会釈して門を通った。

 東の城門から出れば、どこかへ続く真っ直ぐの街道とのどかな平原が広がっていた。ところどころに虫のモンスターらしき生き物も点在している。

 少し歩くと、林が見えてきた。意外と木々も深く、森といっても遜色がない果樹林だ。

 ツカサが果樹林へ足を踏み入れた瞬間、シャンシャンッ! と不思議な音色が鳴り響いた。



《限定特殊クエスト『王の薔薇の住処』を受注しました》

《推奨レベル変動 達成目標:珍しい薔薇を採取して好事家へ渡す0/1》



《これより「レベル変動制・LV1幻樹ダンジョン」へ突入出来ます。このダンジョン内では経験値が入らず、レベルが上がりません。受注者が外でレベルを上げた場合、現在のダンジョンは消失します》

《推奨人数1~4人。パーティー募集板の使用可。パーティー編成入れ替えでのダンジョン出入り可》



「ダンジョン!?」


 ツカサと和泉は驚いて顔を見合わせる。


「うわ、果樹林に入ろうとするとダンジョンに入るってなる……。和泉さんも限定特殊クエストの受注が出てダンジョンに入る形ですか?」

「う、ううん。私はえっと《パーティーメンバーが限定特殊クエストを発動しました。「近隣の果樹林」フィールドではなく、ともに「レベル変動制・LV1幻樹ダンジョン」に突入します》って……い、いきなりダンジョン、に……」

「巻き込んでしまっているんですね。じゃあこれ破棄した方が――」


 そこで和泉が慌ててツカサを止める。


「ま、待ってツカサ君! もっ、もったいないよ!! やってみよう!? LV1のダンジョンだから、きっと初心者でも……! そ、それに私がパーティーを抜けてもいいし……」

「和泉さんが抜けるなんてそんな……。あの、じゃあこのクエスト付き合ってもらっていいですか?」

「うっ、うん! もちろん!」


(最大4人。パーティー募集板可ってわざわざ条件に書かれているから、他の人に手伝ってもらう必要があるのかな……? ひょっとしてパーティー募集板を使う練習?)


「えっと、これからパーティー募集板で、2人手伝ってくれる人を募集してみようと思います。和泉さん、知らない人とのパーティーは大丈夫ですか?」

「ぐっ……。が、頑張ってみる……ううん、頑張るよ!」

「僕も、頑張ります」


 ツカサも心中でバクバクと鼓動を鳴らし、緊張しながらメニューの《パーティー募集板》に触った。

 どこまで、何を、どう記載して募集すべきかも分からなかったので、ひとまず『レベル変動制・LV1幻樹ダンジョン』、現在のパーティーメンバーはタンクとヒーラーだけを明記して出すと、即2名の枠が埋まり、パーティー欄に見知らぬ名前が表示された。

 そして目の前に黒い渦の円形のゲートが展開され、その中から2人の青年が現れる。


「こんちゃーっす」

「宜しく」

「よっ、よろしくお願いします!」

「初めまして。よろしくお願いします」


 2人の挨拶に合わせて、和泉とツカサも慌てて挨拶を返す。

 彼らは赤色ネームで平人男性の棒術士の『ルート』と、黄色ネームの森人男性の二刀流剣士の『Skyダーク』。ルートは明るく「どっちも近接かよー! 邪魔くせーの!」とケラケラ笑っていた。


「じゃあ、行きます」


 ツカサは意気込んでダンジョンへと足を踏み出した。

 すると、そこは白いモヤのような霧が立ちこめ、低い木と茨の壁に囲まれた籠の中のような場所となった。果樹林の面影はない。

 目の前には大きな蜂とテントウ虫のモンスターが徘徊している。


「さっさと行けよ」

「えっ」


 ツカサはビクリと肩を揺らした。自分に言われたと思った言葉に焦ったが、声を出したSkyダークは和泉を見ていた。


「タンク」

「えっ……あ、あの……えっと、わっ私が先頭に、ですよね……?」


 恐る恐る確認を取るように和泉が皆の顔を見渡す。

 ルートが「そっすよ」と笑って肯定した。


「じゃ、じゃあ……!」


 和泉が顔を上げ、及び腰ながらも1歩前へと踏み出す。



《「Skyダーク」が「レベル変動制・LV1幻樹ダンジョン」から離脱しました》



(ええ!?)




 唐突にSkyダークがパーティーから抜けた。


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