第19話 絢爛のルゲーティアス公国
街道が次第に大きな道幅になり、土をならした道から立派な石畳へと変わる。深い森の街道を抜けると、秀麗な石壁の関所が姿を現した。
《ルゲーティアス公国の「衛星信号機」が解放されました》とアナウンスがされる。
ここまでの戦闘は、予期しないロールプレイヤーとの特殊戦闘と、夜の時間経過までに村にたどり着けず、ノンアクティブだったイノシシのモンスターがアクティブになって襲ってきた戦闘だけ。イノシシはLV30と、ツカサと和泉にとっては高レベルのモンスターだったが、チョコのカワウソが上位スキルの攻撃で簡単に倒してくれた。
職業ギルドクエスト『村々の医療巡回』との経験値を合わせて神鳥獣使いのレベルが1つ上がっている。スキルは【治癒魔法】【癒やしの歌声】【祈り】【魔法速度】が1レベルずつ上がった。
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名前:ツカサ
種族:種人擬態人〈男性〉
所属:ネクロアイギス王国
傭兵団:ネクロアイギス王国「アイギスバード」団長(New)
称号:【影の立役者】【五万の奇跡を救世せし者】
フレンド閲覧可称号:【カフカの貴人】【ルビーの義兄】【ベナンダンティの門人】(New)【深海闇ロストダークネス教会のエセ信徒】
非公開称号:【神鳥獣使いの疑似見習い】【彫金師の見習い】(New)【死線を乗り越えし者】【幻樹ダンジョン踏破者】【ダンジョン探検家】【博学】
◆現職:「神鳥獣使い」(New)
職業:神鳥獣使い LV10(↑3)
階級:9級
HP:130(↑30)(+20)
MP:550(↑150)(+130)
VIT:13(↑3)(+2)
STR:6
DEX:14(↑4)
INT:14(↑5)
MND:55(↑15)(+3)
サブ職業:彫金師 LV7(↑6)(New)
スキル回路ポイント〈6〉(B6/C0/P0)
◆戦闘基板
・【基本戦闘基板】
∟【水泡魔法LV6】(↑1)【沈黙耐性LV4】【祈りLV11】(↑3)
【魔法速度LV4】(↑3)【魔法防御LV1】(New)
・【特殊戦闘基板〈白〉】
∟【治癒魔法LV7】(↑2)【癒やしの歌声LV5】(↑2)
【喚起の歌声LV5】(↑1)【鬨の声LV1】(New)
◇採集基板
◇生産基板
・【基本生産基板】
∟【色彩鑑定LV1】【外形鑑定LV3】(↑2)【硬度鑑定LV4】(↑3)
【化石目利き(生産)LV2】(↑1)【鉱石採集(生産)LV1】(New)
【金属知識LV3】(↑2)(New)【金属研磨LV4】(↑4)(New)
∟【古代鉱物解析LV1】【古代岩石解析LV1】
・【特殊生産基板〈銀〉】(New)
∟【測定切削技法LV4】(↑3)(New)【打ち出し技法LV2】(↑1)(New)【延ばし加工LV4】(↑3)(New)
【毛彫りLV1】(New)【丸毛彫りLV1】(New)
【宝石知識LV3】(↑2)(New)【宝石研磨LV1】(New)【石留め技法LV1】(New)
・【特殊生産基板〈白銀〉】
∟【造花装飾LV1】【金属装飾LV1】(New)
・【特殊生産基板〈透明〉】
所持金 677万9800G
装備品 見習いローブ(MND+1)、質素な革のベルト(VIT+2)、黒革のブーツ(MND+2)、古ファレノプシス杖(MP+100)、シーラカン製・深海懐中時計
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ステータスを久しぶりにきちんと見ていたら、ソフィアが隣でスキルについて解説してくれた。
「プラネってパッシブスキルとアクティブスキルの表記がないけど、基本的に敵への攻撃手段、敵の攻撃に対する防御手段、回復とバフデバフのものだけがアクティブスキルだって認識してれば大丈夫だよー。アクティブは自分で発動するって意味だよ☆」
「戦闘手段がアクティブスキル……」
「パッシブスキルは常時勝手に発動してくれるものだよ。生産スキルは全部これだよね」
「はい。レシピを選ぶだけで自動で作ってくれて助かってます」
「ふふっ。生産のキモは、ミニゲームクリアの方だしね♪」
ソフィアはその場でくるりと回り、ワンピースをふわっと浮かせて半歩ほど下がる。
「ソフィアはここまでなの。今日は一緒に遊んでくれてありがとうだよ!」
「こちらこそ。また遊んで下さい」
「うん、またね!」
ツカサ達に手を振ってソフィアは森の奥へと去って行った。
ツカサと和泉とチョコの3人は入国料1500Gを払って関所を通る。関所の衛兵が、ツカサとチョコに対しては、姿が見えなくなるまでこちらを凝視していたのが地味に怖い。
チョコが理由を教えてくれた。
「チョコと団長さんが種人だからです。種人はネクロアイギスにしかいないのです。ルゲーティアスはネクロアイギスを離反した種人以外の貴族の国なので、種人は潜在的に敵扱いで警戒されます」
「こ、細かい設定があるんだねぇ」
「じゃあ、種人を選んだプレイヤーには居心地が悪い国なんですね」
「種人でも、赤色ネームなら警戒が解かれて親切になります」
「そうなんですか」
「なんで!?」
和泉の疑問に、チョコはポツリと呟く。
「ラスボスさん……」
「ラスボス?」
「プレイヤーの最大の強敵に設定されているのがこの国です」
「国が敵……」
「宇宙戦争なのです」
太眉を上げてキリッとした顔のチョコに、「宇宙要素どこ……?」と和泉がつっこみを入れた。
チョコは眉間に皺を寄せて腕を組み、口を閉じてしまう。頭上のカワウソがずるりとズレた。ネタバレ配慮なのだろう。それ以上は答えてくれないようだ。
街道をもう少しだけ歩けば、まるで城のような造りの大きな城門が見えてきた。石壁全体に絵画の絵が彫り込まれている。華やかな意匠に、和泉とツカサは足を止めて見惚れた。
見慣れていて手持ち無沙汰なチョコは、カワウソの鼻をちょこちょこと触っている。カワウソはこそばゆそうに鼻をヒクヒクと動かしてヒゲを揺らした。
城門には甲冑姿で顔を隠した門番の衛兵がいて、ここでも先ほどの関所同様ツカサとチョコに視線が突き刺さる。
――《ルゲーティアス公国》――
と文字が浮かび、城門の中に入った瞬間、和泉とチョコの姿が消えた。
街の中から来た豪奢な馬車が城門を通る。ツカサの隣で止まり、馬車の御者が衛兵に通行の手続きを始めた。
ツカサが馬車を見上げると、馬車の中の貴族然とした青年と窓ガラス越しに目が合う。
ニヒルな青年は、赤い波の刺繍が入った黒い詰め襟の軍装で白いマントを羽織っている。青みのかかった銀色の長い髪を緩くひとまとめにし、肩に垂らしていた。
馬車の窓が開かれる。黒い瞳だけを動かして青年はツカサに薄らと微笑んだ。
「やあ、『種人のツカサ』」
その嫌な台詞に、ビクッとツカサは身体を強張らせた。
馬車が走り出す。消えていた雑踏の音が再び戻ってきた。
隣に和泉とチョコがいる。
《称号【パライソの知人】を獲得しました》
ツカサと和泉は茫然としながら、馬車が去った方向を見つめていた。
息を詰めていたツカサはようやく声を出す。
「今のが、ルゲーティアスの称号に関わるキャラクター……」
「あれがパッチノート動画のために越権されたNPC……」
「え?」
和泉の呟きにツカサは目を瞬かせた。どうやら和泉とツカサは、パライソに別々の印象を持って茫然としていたらしい。
ツカサは怖いと思ったのだが、続けて「キャラ崩壊、お気の毒に……」とこぼす和泉の顔は、とても残念なものを見たような渋い顔だった。
ルゲーティアス公国は、ヨーロッパ風だが建物はとても近代的で、ネクロアイギス王国と違って古めかしさがまるで無かった。カフェテラスなんてオシャレなものまである。
そしてツカサを何より驚かせたのは、行き交うプレイヤーの人数だった。
(都会だ)
今まで訪れたどの国よりもプレイヤーが多い。道をたくさんのプレイヤーが行き交う光景に、ツカサは感動した。
(凄い……。えんどう豆さんが言ってた、人がいる空気感ってきっとこれだ。ゲームだけど、ゲームじゃない。みんな現実のどこかにいる人達で、この世界で集まって一緒に色々なことをして遊んでる)
感動しているところに、怒濤のサブクエスト受注のログが流れて水を差され、ツカサは苦笑した。
「団長さん、副団長さん。これからどうしますです? チョコはルゲーティアスの市場で買い物するぐらいしか予定はないです」
「そ、そうだね。とりあえずテレポ出来るようになったし……私はちょっと、ルゲーティアス周辺だと何が採集出来るのか気になるなぁって」
「解散しましょうか。僕はそろそろログアウトします」
「あっ、徒歩移動だったし、今回は結構時間かかったもんね」
「はい。今日はありがとうございました」
「へへっ、こちらこそ。お、おやすみなさい!」
「楽しかったです。おやすみです」
「和泉さん、チョコさん、おやすみなさい」
パーティーから抜けて、ツカサはログアウトした。
明日やりたいことを色々と布団の中で考えながら、征司は就寝する。
きっと明日はもっと出来ることが増えて、もっと楽しくなるのだと、とても幸せな気持ちで眠りについた。
【04 正式版『プラネットイントルーダー・オリジン』リリース編〈終〉】
05はちょっぴりシリアス予定です。
シリアスか……(´・ω・`)と、苦手に思われる方はここまでにしておいて下さい。