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第17話 再びの新規同士の親睦

《正式版リリース記念コラボのお知らせ。

 VRMO「龍戦記ファンタジア」とハウジングコラボ実施中! 傭兵団販売店により、「龍戦記ファンタジア」で登場したアイテムのハウジング商品を販売しています!

 それに伴い、三国ハウジングエリアの空き地の土地販売を再開しました!》



《システム表示修正のお知らせ。

 スキル回路ポイントが細かく(B(戦闘)/C(採集)/P(生産))と、どの職業で入ったポイントかひと目で分かるようになりました》



 ネクロアイギス王国の中央広場にツカサがログインすると、お知らせのブラウザが立て続けに目の前に表示された。どんな風に変わったのかを確認してみる。



□――――――――――――――――――□


スキル回路ポイント〈9〉(B0/C0/P9)


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(えっと、生産が右端……。とりあえず、ポイントを使っておこう)



《【特殊生産基板〈銀〉】の【丸毛彫りLV1】【石留め技法LV1】を取得しました》


《【特殊生産基板〈白銀〉】の【金属装飾LV1】を取得しました》



 【石留め技法】は宝石のアクセサリーを作るのに必須のスキルらしいので、これでようやくアクセサリーが作れる。


(和泉さんのおかげで彫金師のレベルが上がったから、そのお礼にアクセサリーを作ってプレゼントしたいな)


 レシピを開くと、戦闘用アクセサリーは彫金師のレベルと同じレベルの物が出来るそうだ。きりよくLV10の物を作りたいが、まだツカサの彫金師レベルは7である。


 『彫金秘伝書』を思い出し、所持品から出して開いてみる。レシピが10種類ほど増え、新しいカテゴリーも追加された。

 ツカサが作りたかった神鳥獣しんちょうじゅうのリング装備と、白魔樹しろまじゅ使いの錫杖につけるリング装備のカテゴリー。そして宝珠導ほうじゅどう使いの宝石手装備と頭装備アクセサリーというカテゴリーのティアラ・カチューシャ・ヘッドティカである。これは宝珠導使いのみが装備出来るアクセサリーらしい。

 説明を読むと、男性キャラクターでも宝珠導使いなら装備出来るとある。逆に言うと、宝珠導使いでないと宝石をあしらったティアラやカチューシャを装着出来ないのだ。

 宝珠導使いは女性キャラクターのプレイヤーに人気がありそうだと思った。


 レシピにひと通り目を通す。彫金師は様々な金属を扱ってアクセサリーを作る職業ではなく、基本的に銀を扱ってアクセサリーを作る職業のようだ。



 ふと顔を上げれば、遠方に緑色の肌の砂人男性プレイヤーの姿を見かけ、慌てて立ち上がった。昨日鋼の棒を売ってくれた人だ。


「こ、こんばんは!」


 なんとか彼の後に追いついて、緊張しながら声をかける。声をかけるのにバクバクと鼓動が鳴った。しかし、彼はスタスタと先を歩いて行く。


「えっ、えんどう豆さん……!」

「へ!?」


 えんどう豆は名前を呼ばれ、ビクリと身体を震わせて足を止めた。恐る恐る辺りを見渡す。えんどう豆を見上げるツカサを見つけて、「あっ」と声を漏らした。

 お互い、ぎこちなく頭を下げ合う。


「こ、こんばんは……ツカサさん」

「こんばんは。すみません、突然声をかけてしまって……。ネクロアイギスで見かけたのでつい」

「あ、あ……。あれからメインを進めたんだ。ダッシュで三国巡り終わらせてさ。倉庫もゲットした」


 頭を掻きながら、えんどう豆は話す。

 ツカサは和泉が倉庫をいっぱいにしていたのを思い出して、えんどう豆も直ぐに自室の倉庫だけでは物足りなくなるのではないかと思った。


「えんどう豆さん。僕、あれから傭兵団作ったんです。他の人達も基本ソロ活動をする感じの集まりです。良かったら、えんどう豆さんも入りませんか?」


 ツカサの申し出に、えんどう豆は「う、うーん……」と唸りながら目を泳がせた。


「ツカサさんってさ……あの、総合掲示板で有名な――」

「雨月さんですか……?」

「そ、そう……、覇王ってあだ名付けられてるPKと仲良いんだろ? いや、ですよね? そのPKが傭兵団にいるんじゃないですか?」

「います……」

「だ、だよねー……ちょ、ちょっとそれなぁ」


 断り文句を探して言葉を濁すえんどう豆の心中を察し、ツカサは諦めた。


「すみません。無理な誘いをしてしまって」

「いや! ツカサさんのせいじゃないから! 元々俺はソロ傭兵団作る気だったんで!」

「ソロ傭兵団を」


 えんどう豆は深く頷き、尻尾をピシッと上げて空を見上げた。


「俺、ログイン時間を他人に把握されたくないんです」


 えんどう豆の力強い断言に、ツカサは目を丸くする。


「嫌、なものですか?」

「嫌だよ……! クランの連中を窺って好きな時間にログインログアウト出来ないのは! しかも『いつもこの時間にログインしてるけど』って世間話振りながらリアル探られるのマジで勘弁して欲しい……!! あと挨拶を強要されんのも苦痛で! そういう面倒がモロモロ嫌なんだ……! もっと気楽にログインさせてくれ……!!」


 えんどう豆は熱く語り終えると、ツカサの存在を思い出してはっとし、ばつが悪そうに俯いた。


「そ、そういう訳なんで……俺、結構コミュ障をこじらせてるんで……ハハ……――すみません」

「いえ、そんな。あの、でもフレンドになりませんか? 折角こうやって知り合えたんですし」

「ふ、フレンドぉ!? あっ、それは……マジですか! でも俺とフレンドになっても特に何もないというか、メールもらっても返事もしない――まであるかもしれないですよ!?」

「気にしません」

「チャットされても無言か無視して」

「お手すきの時だけでいいですから」

「……!? そ、それじゃ……まぁ」


 こうして、えんどう豆とツカサはフレンド登録をした。だいぶ強引だったと、ツカサは胸中で反省する。ツカサの方も、いっぱいいっぱいでテンパっていたようだ。

 えんどう豆がぎこちなく手を振るエモートをして住宅街へと去って行く。

 ツカサも手を振り返した。傭兵団への勧誘は断られたが、えんどう豆とフレンドになれたのは嬉しい。


 そこで別れたと思ったが、えんどう豆が再びツカサの元へ早歩きで戻って来た。両手に鋼と銀の棒や細い板、金属の線を持って照れながらも、にへらっと少し悪そうな顔をわざと作って笑う。


「マケボ適正価格で売りますよ、彫金師のお客さん。どうですか?」

「もらいます」


 自然と笑い合いながら物のやり取りをした後には、お互い変な緊張と距離感はなくなっていた。そうしてツカサとえんどう豆は笑顔で別れたのだった。





 メニューに《傭兵団「アイギスバード」》の項目が増えている。その項目内に《傭兵団設定》、《連絡ボード》、《傭兵団専用チャット》があった。

 《連絡ボード》を開くと、目の前の空中にA4のホワイトボードが浮く。



・団長/ツカサ……ネクロアイギス王国王都西地区街路

  『連絡なし』

・団員/和泉 ……ネクロアイギス王国北東山中

  『鉱物・岩石・木材共有倉庫にあります。好きに持ってって下さいね!』

・団員/雨月 ……南東深海、海人防衛基地施設跡地

  『団長は団員の権限設定に規制を入れること』

・団員/チョコ……ネクロアイギス王国北東山中

  『回し車完成です!( ̄・ω・ ̄)』



 どうやら和泉とチョコは一緒に山の方に行っているようだ。和泉は採集猟師で素材を取り、チョコは木工師と言っていたので、その場で物を作っているのだと思う。

 雨月の『団長は団員の権限設定に規制を入れること』を見て、《傭兵団設定》を確認する。

 団長であるツカサが全権限を持っていて、団員の倉庫内の持ち出しやハウジングの設置などの権限も個別に許可したり規制したり出来るようになっていた。団員の入団退団も本来なら団長のみの権限なのだが、今は全て初期状態で、団員なら誰でも許可無く出入りさせられるようになっている。


(確かにしっかり設定しておかないと後々問題になりそう)


 まず、入団に関しては団長もしくは副団長の許可無く入団不可にチェックを入れた。退団に関しては自由。許可は要らない。

 ハウジング関連も知らないうちに家が建ってたりしても困るので許可必須に。

 傭兵団の共有大倉庫については、今のところ自由にしておいた。そして和泉を副団長に任命する。

 その途端、和泉から『こんばんはツカサ君!? 私、副団長!?』と慌てきったフレンドチャットが来た。



 ツカサ :副団長です。よろしくお願いします

 和泉  :Σ(゜д゜ノ;)ノ なんと!

 ソフィア:こんばんはー☆

      傭兵団順調そうだね、良かった~(*╹◡╹*)

      ソフィアね、ルゲーティアスに歩いて行きたいって思ってるの!

      ツカサと和泉も一緒に行こうよ♪

 ツカサ :こんばんは。傭兵団のことお世話になりました。

      ありがとうございます。

      ルゲーティアス、一緒に行きたいです

 和泉  :行きます! 傭兵団員のチョコって人も一緒に良いですか?

 ソフィア:良いよー(*╹▽╹*)

      その人が一番レベル高そうだね☆

      徒歩移動につき合わせちゃっていいのかな?

 和泉  :回し車が完成したので良いそうです!

 ソフィア:回し車……?(╹-╹)



 ネクロアイギス王国の正門前で4人は待ち合わせして集合した。

 和泉は、パーティーを組んだツカサ、ソフィア、チョコの3人の種人を見下ろして不意にぼそりと呟く。


「私、保育士さん……」

「えっ」


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