第14話 傭兵団「アイギスバード」結成
メニューの《クエスト一覧》にあったハウジング解放クエスト『傭兵団と坂の上の住宅街』をするために和泉と合流した。このサブクエストは前に屋台のところで自然と受注していたものだ。
「も、もうそろそろ深夜帯……。ツカサ君、そろそろログアウトする時間だよね。無理せず明日でも……」
「大丈夫です。今日倉庫があると、明日和泉さんが遊びやすいですし」
「うう……ごめんね。あ、ありがとうぅ……!」
《推奨レベル1 達成目標:所属ギルドの受付で傭兵団について尋ねる0/1》
クエスト内容を確認した後、まずは和泉と共に騎士ギルドへ。初めてツカサが足を運んだ騎士ギルドは、灰色レンガ造りの四角い建物だった。壁に掛けられてた剣や盾が格好良くて魅入る。
その間に、和泉が受付の男性におずおずと話しかけていた。
「あ、あのぅ……〝傭兵団〟のことを聞きたいんですが」
「傭兵団ですね。傭兵団は、国や1つの組織に固執せず、志を同じくする方々が作るコミュニティです。4人以上の人数で、正式な傭兵団として公的なギルドで認められます。得られるものは信用でしょうか。それにより拠点として家を持つことが許可されます」
「な、なるほど」
「一点注意を。傭兵団にも所属国がございます。団長となる方の所属ギルドに傭兵団結成の書類を提出致しますと、その国の傭兵団となります。家もその所属国内の土地にしか建てられません」
「う、えっと所属によっては不利有利とか、出来ないことがあったりします……?」
「ございません。ただ、傭兵団のみへの販売品は、所属国の販売店でしか利用出来ませんので、その点で不便を感じる他国所属の団員の方はいるかもしれませんね」
「傭兵団結成の署名用の書類ってここでもらえるもの……?」
受付の男性は一旦じっと和泉を、それからツカサにも視線を向けて、首を横に振った。
「いいえ。和泉様とお連れの方は、まだルゲーティアス公国の見識や経験が不足しているため、書類をお作りすることは出来ません」
「へ?! あ、はい……」
「傭兵団がネクロアイギス王国の所属になりますと、裕福層の庶民街の坂の上が傭兵団の居住区となりますので、そこへの階段の傍に傭兵団の販売店がございますよ」
「あ、前に行ったところ……。わかりました」
《ハウジング解放クエスト『傭兵団と坂の上の住宅街』を達成しました!》
《達成報酬:通貨100Gを獲得しました》
「パーティーを組んでる僕も達成出来ました」
「おおっ! それじゃ神鳥獣使いギルドは行かなくていいんだ」
「はい。でも傭兵団の書類を作るのには条件があったんですね。三国のテレポート解放か、国に入るのが条件でしょうか」
「あの口ぶりだと、多分そうだね。ルゲーティアスだけまだだし……」
「ソフィアさん、僕達の進行度を知っていたから気を回してくれたんですね」
ソフィアから届いた傭兵団結成の書類を見つめた。ツカサの署名と、和泉の署名をしている。
これから雨月が署名のため、ネクロアイギスに来てくれるという。中央広場の端にある石の椅子の傍で、和泉と一緒に待った。
どこか遠くから絹を裂くような悲鳴が聞こえた気がすると、雨月が歩いてこちらにやって来る姿が目に入る。
「雨月さん、ありがとうございます。すみません、イベント中だったのに」
「構わない。ちょうどネクロアイギスに用もあったんだ」
「あの、傭兵団なんですが、雨月さんが所属していることに負担を感じるなら、いつでも抜けて下さい」
「ああ。……ありがとう」
雨月は署名をし、ツカサと和泉に軽く手を挙げて身を翻すと、テレポートして去っていった。
雨月を見送ると、和泉が意気込む。
「つ、ツカサ君! もう1人の募集なんだけど、私が《パーティー募集板》で募集してもいいかな!? 私が発端だし、そのくらいは私が……!」
「じゃあ和泉さん、お願いします」
和泉は「へへ」と照れ笑いを浮かべる。
ツカサは自分が掲示板で怖がられていたのを知っているので、ツカサの募集では人が来ないかもしれないとは思っていて、この提案は和泉なりの気遣いだと思った。
「条件……どうしようか!?」
「こちらからは特に無いですけど……。あ、でも僕達が新規だってことと、常に一緒に行動したりはしない傭兵団だってことは書いておいた方がいいと思います。あとは神鳥獣使いが苦手でない方なら」
「うわ、そうだね! 相手にとってデメリットかもって点を募集に書かなきゃ……。うーんと、『【急募】傭兵団設立の団員もしくは協力者募集。中心メンバー2人初心者。採集と生産もしててソロ活動中心。神鳥獣使いが』――いや、ここはもうちょっとぼやかして『鳥が好きな方』で! 『署名だけで抜けてもOK』と。これで募集してみるね」
「はい」
そうして募集を掲載して、他の《パーティー募集板》の募集を見ながら、和泉と雑談して待つ。
他にも傭兵団の設立を目的とした募集が載っていて、大体は『傭兵団設立の協力者募集。署名してくれる方に報酬1万G。設立後は傭兵団から脱退を』というものだった。これはソロ傭兵団ということだろうか。
「協力して下さる方に、お金を支払う方がいいんでしょうか……?」
「う、うーん。でも私達のところはその後もメンバーとして迎えるってものだから、お金を払うのも変……? というか失礼かも?」
2人で頭を悩ませているうちに、和泉にメールが来た。和泉のトカゲの尻尾がピンと上向きに立つ。「っ……き、緊張する……!」と身体を縮めて、和泉はメールを確認した。
「!! 2人来て……っ! ――る、けど……。えっと……」
和泉の言葉がしりすぼみになる。ツカサは首を傾げた。
「どうしたんですか?」
「掲示板に……その、書き込みしてる人、ばかりで」
「それは気にしません。けど、和泉さんは嫌ですか?」
「う、ううん。私も平気。でも、実質1人……? あっ、あのねメールくれたのは『ユキ姫』と『チョコ』って人なんだけど。こっ、個人的偏見で『ユキ姫』って人は入れたくないなぁって……」
「そう、ですか。じゃあ、ユキ姫さんには断りの返信をして、チョコさんに会ってもらいましょう」
「うん!」
チョコに了承のメールを送った。送った直後、ちょこちょことこちらに小さな女の子が走ってくる。どうやら既に近くまで来てくれていたようだ。彼女の姿には見覚えがあった。
(あ! ベータ最後の夜に、ここで一緒に写真を撮った人の1人だ)
120cmくらいの種人女性で、チョコレート色のショートボブの髪に太い眉と愛嬌のある丸い目。黒柴という犬種を連想させる可愛らしい容姿だ。多分、柴犬をモデルにキャラクターを作っているのだと思う。服装は薄いピンク色に白い花の模様が入ったダッフルコートのようなローブ服。
そして大きなサイズになっている小動物を腕の中に抱えている。小動物はチョコよりひと回り小さいぐらいで体格としてはそう変わらない巨大さだ。
チョコは和泉とツカサにペコリと頭を下げる。
「……
小さく不思議な声に、ツカサは目を丸くした。隣で和泉が「う、ウィスパーボイスっ」と驚きつつも感激している。
チョコは視線を下に向けて、抱えている巨大な可愛い小動物を、気持ちだけ前につきだした。
「この子は、ハムスター型の召喚獣です」
カワウソだ。
「初めまして、団長予定のツカサです。神鳥獣使いをメインに遊んでます。僕のことも好きに呼んで下さい。えっと、カワウソに見えるんですが、ハムスターなんですか?」
チョコとカワウソが、互いに顔を上下に見合わせる。
「これはカワウソ風フェイスです。フェイスは召喚獣の見た目をオシャレにします」
「おしゃれ……」
「あ、あのチョコちゃん。はじっ初めまして、和泉です。た、タタンク……じゃない! 騎士です! その、あがり症で人と話すのが得意じゃなくて――とにかく、よろしく……!」
和泉が顔を真っ赤にして、軽くテンパりながらチョコへと挨拶する。
チョコは物静かにペコリと頭を下げた。
「チョコも、いつもソロで遊んでます。アタッカーがいるならいつでも呼んで下さいです」
チョコは大人しい人みたいで、ほっとする。
「これから作る傭兵団は「アイギスバード」という名前です。特に決まりは無くて、僕も和泉さんも一緒に遊んだり、別々に採集や生産で遊んだり、日によって好きなように過ごしています。自分には合わないなと思ったら、いつでも抜けてくれてもいいです」
チョコがコクリと頷く。チョコの腕の中でカワウソの顔の肉がぶにっと盛り上がっていて、大丈夫なのかなと気になった。
「それと、もう1人の団員は雨月さんというPKをして遊んでいる人です。それでも大丈夫ですか?」
チョコがしっかりと頷いた。その拍子にまたカワウソの顔の段がぶにっと増える。カワウソ自身は平気そうな顔でヒゲをそよがせていた。
「それじゃあ、これからよろしくお願いします」
「よ、よろっよろしくね!」
「よろしくです」
互いにフレンド登録をした。それからチョコに署名をしてもらい、神鳥獣使いギルドに提出する。
《傭兵団「アイギスバード」がネクロアイギス王国にて結成されました!》
《傭兵団のハウジング、傭兵団の共有大倉庫、団員用個別倉庫、連絡ボード、傭兵団専用チャット、傭兵団販売店機能が解放されました》
少し忙しなくなってしまったが、ツカサは和泉とチョコに挨拶をして今日はログアウトした。