第14話 メインクエスト『影の興国』第1幕2場――侯爵邸宅1週間②
『【メイン派生クエスト『学びの書斎』】
※※検索バーは罠です!! 時間を余分に消費するので絶対使わないように!!※※
メイン派生の生産系読書クエストは、戦闘と生産を両立したい人には最重要クエストです。スキル回路ポイントを使わず、生産スキルをゲットするチャンス!
クエストを失敗させても、裏ゲージの「習得」に時間をかけましょう。「習得」は読破してから%が増え始めます。
クエストは失敗したところでメインストーリーに影響がありません。経験値がもらえないだけです。
検索バーを使わずに直接本を探し回るのは大変ですが、ゲーム内の制限時間が消費されません。
ちなみに本の位置は完全にランダムです。規則性無し。プレイヤーによって本の位置は違います。
バーは出来るだけ成功させるように。苦手な人でも最低「30%」は欲しいです。それならクエストクリア&スキル2つは確定でゲット出来ます!
必ず1冊ごとに読破→「習得」を。まとめてやろうとしたら「習得」時間が取れなかったなんて失敗をする人が意外と多いです。
料理の生産技量上昇バフは、この「習得」にも影響を与えています。しっかりと食事は取りましょう』
ツカサはブログ記事を読みながら頭の片隅で、なんだかゲーム内で読み物を読んでばかりだ、と苦笑いした。
そして彫金師についての部分を読む。
『~彫金師に関連するスキル本~
『鉱物大図鑑』……*【鉱物目利き(生産)】
『岩石大図鑑』……*【岩石目利き(生産)】
『太古の呼び声』……*【化石目利き(生産)】
『絵本・いちじくとくまむし』……*【色彩鑑定】
『火山と地質』……*【外形鑑定】
『加工入門』……*【硬度鑑定】
『宝飾の歴史』……*【金属装飾】
『時計の仕組み』……【精密装飾】
『川辺採集の学び』……【石採集(生産)】
*他職(鍛冶・甲冑・裁縫・陶芸・民芸・錬金)と共有するスキル。
全部は取れません。ここで逃しても、ギルド販売のスキルブックで覚えられます。その場合、スキル回路ポイントを消費して覚えなければなりません』
(わっ、いっぱいある)
検索バーで『彫金』を検索した時には出てこなかったタイトルばかりだった。読破した『鉱物図鑑体系』が入っていないのは残念だが、『鉱物大図鑑』とはどう違うのか内容が気になるし、色々な本を開けることにもワクワクする。
胸を高鳴らせながら、日にちを進めた。
――《2日目/朝 ~建国祭まであと5日~》――
今日は朝から書斎で過ごすことになった。朝食と夕食の料理にはバフ効果が無いことに気付く。どうやら昼食のみのようだ。
書斎を歩き回り、本のタイトルをチェックしていく。『鉱物大図鑑』と『岩石大図鑑』を早速見つけられた。大図鑑はシリーズらしく、他にも『草花大図鑑』、『果物大図鑑』、『魔物大図鑑』、『古城大図鑑』など並んでいて、とても心惹かれた。しかし手に取っている時間はない。後々どこかで購入出来るならしようと思った。
そこで、ひょっとしたら同じ図鑑が『ネクロアイギス古書店主の地下書棚』ブログの古書店で売っているかもしれないと考え、そのうちまた勇気を出して店に入ってみようと心に決める。
『鉱物大図鑑』を開けば、バーの表示と共にポロンと音がして、直ぐにト音記号とト音記号が重なる瞬間だった。ツカサの手は、それを目にしたと同時に動いていてタップしていた。《80%》と表示され、ふうっと嘆息する。
(危ない……。本を開いた瞬間に始まったりもするんだ。かなりびっくりした)
次も《80%》を出し《■自然科学(1冊) 書斎の本を1冊読破しました!》とアナウンスされる。これで3冊目だ。
習得中は、じっくり本に目が通せる時間でもある。読み始めると、『鉱物図鑑体系』との違いがわかった。
(『鉱物大図鑑』の方が一般的だ。鉱物の説明で専門的な記号みたいなのが使われてなくて、普通に読める。それに種類も多い)
学術的に鉱物判定のされていない、疑惑のものも記載されていた。むしろそちらのページが読み応えがあって面白い。どうみても機械のICチップだったり、ロボットの燃料タンクを〝海人由来の鉱物〟と紹介していた。
思い立って、昨日の本棚へと行き『鉱物図鑑体系』を持ってくる。『鉱物大図鑑』の隣に並べて見比べながら読んだ。
(ああ、『鉱物図鑑体系』の翻訳されない謎文字はこの世界の元素記号と、こっちは鉱物の化学組成……え!? そんなものをオリジナルで作ってるの!? 確かに文字だってオリジナルだけど)
本の文章は日本語で書かれてはいない。象形文字風の謎の言語だ。ただ、本の文字の下に日本語の字幕が浮かんでいるから読める。
ドッドン! と太鼓の音が鳴り響いた。
――《2日目/昼 ~建国祭まであと5日~》――
(お昼までに習得出来なかった)
執事が用意してくれた昼食を食べて再度挑む。しかしその後も、全く習得出来ずに太鼓の音を聞くはめになった。
――《2日目/夜 ~建国祭まであと5日~》――
(今日は駄目だったや……)
ツカサがタイムリミットに肩を落とした瞬間、シャン! と鈴の音が鳴る。
「やった! 覚え――」
《『鉱物大図鑑』『鉱物図鑑体系』――習得率100%達成》
《『鉱物大図鑑』『鉱物図鑑体系』の解析が完了しました。【古代鉱物解析LV1】を取得しました》
「!?」
喜んだところで硬直した。
(こ……【鉱物目利き】は……?)
夕食を済ませてから調べると、【古代鉱物解析】は【鉱物目利き】の上位版スキルだった。【鉱物目利き】のレベルを上げれば【古代鉱物解析】になるそうだ。
(これってもう1つの【岩石目利き】スキルも同じように図鑑を読めば上位版が取れるってことだよね。
――でもそれを読めば、スキルはあと1つか2つぐらいしか取れないかも……。上位スキルだったから習得に時間がかかったのかもしれないんだし)
むしろ、ブログに書かれた下位版スキルならたくさん取れるだろう。そして使っていけばそのうち上位スキルになるのだから、その方が効率が良いスキル取得の道である。
しかしツカサは、スキルをたくさん取得した後のことが気になった。
(生産のスキル上げにさける時間が、ログイン時間が限られてる僕にあるのかな……。彫金はやりたいけど、作るのに上位スキルが必要で、そのスキル上げ自体に時間が凄くかかるなら難しいかもしれない。和泉さん達とも遊びたいし……)
そこで、ツカサは決めた。
(もう1つの上位スキルを取ろう……!!)
「兄上?」
傍でルビーがツカサを心配げに見上げていた。
「どうかしたの……?」
「ううん、何でも。ただ、今後のことを考えていて」
「今後……」
ルビーは暗い顔になる。それからツカサの顔を窺いながら、ぎこちなく口を開いた。
「おにい……兄上の家には、待っている人が――いるんだもんね……」
(プレイヤーは1人、かな。家族がいないような)
「えっと、いない――? ……かな」
ツカサの答えに、ルビーはほっとしたようだった。そして俯き、ポツリと呟く。
「私も……家を見つけてもそこに、誰かいるのか、わからない……」
「ルビー」
「嵐の海のね、波の間にお母さん達が――」
それきりルビーは口をつぐんだ。
――家なんて本当はもうどこにもない。誰もその場所には帰ってこない。
そんな彼女の悲痛な本音が聞こえた。
(ルビーは空元気じゃなくて、一時的にでも居場所が出来たことに安心して喜んでいたんだ)
ルビーが嫌々仕事を引き受けてはいなかったことに安心した。今の状況は、一方的に大人達に連れてこられて、ルビーの気持ちを無視して決められてしまったようにしか思えなかったからだ。
「ルビー。家を探すのが怖いなら、この仕事が終わってもしばらくこの国にいる?」
「兄上も一緒……?」
「うん」
「良かったっ……!」
ルビーがようやく顔を上げて笑った。
2人で廊下を歩いていると、何やら玄関口が騒がしい。ルビーも気になったようで、こっそりとエントランスへ近付いた。
マシェルロフとこの屋敷の執事や侍女が総出で、客人の一団を出迎えているようだ。
「……私が滞在したアリバイが必要ではないか。後々、似た子供を屋敷で見たと証言する者が出てくれば、マシェルロフ侯爵に無用な嫌疑がかかろう」
「しかし警護の問題が――」
一団の中心には、ルビーにそっくりの少年がいた。
かの人物は、廊下から身を隠して覗き込むツカサ達に気付く。手振りひとつで人垣をわり、悠然とした態度でこちらへと歩いて来た。とても堂々として様になっている。
「やあ、小さな同胞よ。私はスピネル・ローゼンコフィン・ネクロアイギス。ローゼンコフィン14世とも呼ばれている者だ。此度は建国祭の席で世話になる」
微笑んだネクロアイギスの現国王に、ツカサとルビーは圧倒されて言葉もなく立ち尽くした。