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第12話 メインクエスト『影の興国』第1幕1場――貴族街

 馬車が止まった。

 窓も無い暗い馬車内で外の情報は何ひとつ入ってこない状況ではあったが、ツカサには視界の左上に小さく表示される地図によって場所がわかっていた。


(あれ、ここって――)


 キアンコーに促され、馬車から降りる。ルビーと共に地面に降りた時、ふと馬車を降りる際に使った階段の足場が、種人の体格に適した仕様だったことに気付いた。

 キアンコーは平人の男性だ。馬車の御者も動物の耳と尻尾があるので森人の男性である。どちらの体格にも合わない馬車だったのだ。


 ツカサの正面には貴族の邸宅。その敷地内には広い薔薇の庭園があり、沢山の不可思議な形の像がある。

 つい先日、ソフィアに連れて来てもらった場所――薔薇の好事家の敷地だった。

 キアンコーがノッカーを叩く。覗き窓から内側の人物がキアンコーを確認すると、扉が開かれた。扉を開けたのは見覚えのある執事だった。

 戸惑うルビーとツカサに、先に扉に入ったキアンコーが手招きする。


「さあ、どうぞお入りなさい。遠慮はいりません」


 おっかなびっくりに足を踏み入れた。大理石の床は綺麗でホコリ1つないように思える。

 するとエントランス中央の階段から、貴族らしき平人の男性がゆっくりと下りてきた。


「これはこれはキアンコー神父。……おや、そちらの御方は」


(薔薇の好事家の人だ)


 平人の男性――マシェルロフ侯爵は、ツカサを見て目を丸くした後、次いで傍にいるルビーの姿を見とがめて目を細めた。


「まさかこれほど早く――……キアンコー神父の忠節には畏敬の念を覚えますな」

「たまたまですよ。幸運が重なったのです」

「〝幸運〟……か。確かにきな臭い動きには間に合ったのかもしれませんが」


 マシェルロフは顎に手をあて少し思案すると、直ぐにツカサとルビーにニッコリと笑みを向けて頷いた。


「では引き受けよう。スウィフ」

「かしこまりました」


 スウィフという執事が「こちらへどうぞ」とツカサ達を屋敷の奥へと促した。キアンコーが、そっとツカサの背を押す。


「お2人はしばらくこちらで行儀見習いをして下さい」

「おしごと……?」

「いえ、仕事をしてもらう前に仕事での作法を学んでいただきたいのです」

「待って下さい。仕事って何ですか?」


 ツカサは詳しい話を一切しないキアンコーに問いかける。

 キアンコーはツカサを気遣う態度を取りながらも、ツカサの背後に半分隠れるルビーを見つめて答えた。


「特にルビーさんには、とある御方の侍従をしていただきたいのです。そのために最低限の作法をここで学んで欲しいと思っています」


(えっ、なんだか長くなりそうなんだけど……。でもそれじゃ、ルビーの家を探す話は?)


「それはいつまでのものなんでしょうか? ルビーはうちに帰りたいんです。長い期間はちょっと……」

「心配なさらずとも1日だけ。1週間後にある建国祭の日だけですよ。身分証の方も、それまでに手配しておきますから」

「だい、じょうぶっ」


 ルビーからツカサへ気負った返答があった。ルビーを心配しつつもそれ以上は口をはさめず、キアンコーとは玄関で別れ、大人しくスウィフの後について行くことになった。

 1階の客室に通される。1週間、ここでルビーは過ごすという。



《五国メインクエスト、ネクロアイギス王国編『影の興国』――第1幕、1場『司祭の裏世界への誘い』を達成しました》

《達成報酬: 経験値1000、「黒革のブーツ」を獲得しました》



《神鳥獣使いがLV5に上がりました》



「ツカサ殿は最低限の立ち居振る舞いだけわかっていただければ、後は自由にして下さって構いません」

「自由に?」



《メイン派生クエスト『1週間の自由』が発生しました》

《推奨レベル3 貴方の選択により、クエスト内容が変わります!


 ・「夜は1人で教会に戻る」を選択

  達成目標:変動クエスト『ルビーへのプレゼント』を開始する。


 ・「ルビーとはここで別れる」を選択

  達成目標:変動クエスト『孤独の渦中に』を開始する》



(やっぱりルビーとは引き離されるんだ。僕じゃなくて、重要なのはルビーだけだってことだよね。どっちの選択にしよう)


 頭を悩ませながらも、神鳥獣使いのレベルがちょうど上がったので、まず増えたスキル回路ポイント3でスキルを取ることにした。次こそ【鬨の声】のスキル取得を考えていたが、出現した【特殊生産基板〈白銀〉】に何もスキルが無いのも寂しい気がしていて、【造花装飾】を取ることにする。


(まだ何の生産職にもなっていないのに、生産スキル取っちゃった)


 変なスキル構成なのが、ちょっぴり楽しい。ソフィアが注意してくれたテンプレスキル構成からも外れ出たと思う。

 戦闘職スキル特化の人と、戦闘と生産の両スキル持ちの人では、多分前者の方が人数も多いのではないだろうか。戦闘も生産も特化の方が強いのだから、みんな極端に偏らせていると思う。



《メイン派生クエスト『1週間の自由』の選択肢が増えました》


 ・「ルビーと共に屋敷で過ごす」を選択

  達成目標:変動クエスト『学びの書斎』を開始する》



(選択肢が! 生産職スキルを取って出たってことは、生産職だけしたい人用かな。じゃあ、採集職用の選択肢もスキルがあれば出たのかも)


 ツカサ自身がルビーを1人にする選択の流れに抵抗もあって、生産職向けの選択肢を選ぶことにした。



《メイン派生クエスト『学びの書斎』が受注されました》

《推奨レベル3 達成目標:書斎の本を5冊以上読破する。読破済み0/5》



(あっ……ここでも勉強……)


 しょっぱい気持ちになってしまったツカサの傍で、ルビーがぴょんぴょんとジャンプして「お兄ちゃんといっしょ!」と笑顔全開で喜んでくれた。







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名前:ツカサ

種族:種人擬態人〈男性〉

所属:ネクロアイギス王国

称号:【影の迷い子】【五万の奇跡を救世せし者】


フレンド閲覧可称号:【カフカの貴人】【ルビーの義兄】【深海闇ロストダークネス教会のエセ信徒】

非公開称号:【神鳥獣使いの疑似見習い】【死線を乗り越えし者】【幻樹ダンジョン踏破者】【ダンジョン探検家】(New)


職業:神鳥獣使い LV5(↑1)

階級:9級(New)

 HP:80(↑10)(+20)

 MP:300(↑50)(+130)

 VIT:8(↑1)(+2)

 STR:6

 DEX:8(↑1)

 INT:11(↑2)

 MND:30(↑5)(+3)


スキル回路ポイント〈1〉


◆戦闘基板

・【基本戦闘基板】

 ∟【水泡魔法LV5】(↑2)【沈黙耐性LV4】(↑2)【祈りLV7】(↑6)

・【特殊戦闘基板〈白〉】

 ∟【治癒魔法LV4】(↑2)【癒やしの歌声LV2】【喚起の歌声LV3】(↑2)

◇採集基板

◇生産基板

・【特殊生産基板〈白銀〉】(New)

 ∟【造花装飾LV1】(New)


所持金 640万850G

装備品 見習いローブ(MND+1)、質素な革のベルト(VIT+2)、黒革のブーツ(MND+2)、古ファレノプシス杖(MP+100)、シーラカン製・深海懐中時計

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