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第2話 VRMMO『プラネット イントルーダー・ジ エンシェント』(製作者・正木洋介)のゲーム開始とキャラクター作成

□■□ 正木洋介マサキ・ヨウスケ □■□

 日本のインディーズゲームクリエーター。

 19歳で大手PCゲームストアにて、惑星開拓シミュレーション『プラネットダイアリー』の有料体験版を配信。この続きを作るためと称し、クラウドファンディングで支援金を募る。

 その翌々年、クラウドファンディングの資金によって製作した、独自のオンラインゲーム製作補助AIと運営用AIを公開。同時にVR『プラネット イントルーダー・オンライン(仮称)』を発表するが、「私達はこのゲームが遊びたいんじゃない。話が違う」と激怒した国内及び海外支援者達と揉め、物議を醸す。後日支援者達とは和解し、訴訟には発展していない。

 後に、名称を『プラネット イントルーダー・ジ エンシェント』に変更。有料オープンベータのダウンロード販売を開始。有料のため、長期2ヶ月のベータ期間を設けた。

 しかしベータ開始1ヶ月の後に、ゲーム内にて「*5.5ブラディス事件」が発生。この時のPKプレイヤーキル映像がSNSや動画配信サイトにて拡散。多くのユーザーが離れ、ベータ期間のままサービスが終了した。

□■□(オンライン百科事典より出典)□■□




 征司はオンライン百科事典の内容に唖然とした。

 ゲームをダウンロードしている合間に、内容を調べてみようと『プラネット イントルーダー』を検索したら、何故か出て来たのはこの製作者についての詳細が載った百科事典のページだったのである。

 

(さ、「サービスが終了した」って書かれてる!? でも今、ダウンロード出来てるよ!?)


 正規のゲームストアで販売されていた商品なのに意味が分からなくて混乱した。目を白黒とさせ、もう一度百科事典の内容を読み直し、ゲーム内で起こったPKの事件とやらに不安をつのらせる。

 「*5.5ブラディス事件」の文字のリンクを恐る恐るタッチした。




 □■□ 5.5ブラディス事件 □■□

 2xx0年5月5日にVRMMO『プラネット イントルーダー・ジ エンシェント』のオープンベータ期間にて発生した集団PK事件のこと。昨今の国産MMOでは珍しく、PK可能なゲームデザインであったため、起こるべくして起こった大規模殺戮事件。


 1人の戦闘職プレイヤーが、市場で最新武器装備の試し切りを生産職プレイヤー「ブラディス」で始めたことを発端とする。

 これにより、都市がセーフティエリアではなくPK可能エリアであることが知れ渡り、金目の物を落とす採集と生産職業プレイヤーを、戦闘職プレイヤー達が次々と狩る事態に発展。ほぼ全ての戦闘職プレイヤーがPKに手を染め、これにより得た金銭でハウジングを買い漁り、土地を占領した。


 この殺戮は1週間続き、採集と生産職業プレイヤーがログインしなくなると、標的がヒーラーへと移り、度重なる都市内抗争に多くの引退者を出した。

 また、PKされたプレイヤーがPK側に回ってPKを仕返し、更に仕返されたPKの者がPKを仕返すという泥沼化をも見せる。「自分以外のプレイヤーは、出会った瞬間殺さなければ安全が確保出来ない」とまでプレイヤーに言わしめる世情にまで発展した。


 事件発生から10日後、プレイヤーのみで解決が不可能だと遅い判断を下した運営AIにより、一時的に全プレイヤーを強制的に監獄へと投獄する処置がなされる。

 その間に都市内をPK行為不可のセーフティエリアに改修。デスペナルティを緩和。

 特に採集と生産職業に関しては、デスペナルティを無くした上、暗殺組織ギルドの無敵NPCへ自動的にPK行為をした者の暗殺依頼が舞い込む新要素を追加するなど、街の正常化を図った。


 だが時既に遅く、当時最も陰惨な残虐映像(1人の生産職業プレイヤーを集団リンチで何度も殺害する映像)が生放送や動画でゲーム外に広く拡散してしまい、8割以上のプレイヤーが引退して戻ってこなかった。

 □■□(オンライン百科事典より出典)□■□





 くだんのPK残虐映像の動画が百科事典のページに張られていたが、征司は再生しなかった。ヒーラーが他の人を回復する職業を意味する言葉だと言うことだけを調べてページを閉じる。


(どうしよう、PK凄く怖い……。人殺しの描写があるから15歳以上推奨……?)


 ゲームストアでは、VRMMO『クロニクルアーツ・スカイ8』が全年齢対象なのに対して、VRMMO『プラネット イントルーダー・ジ エンシェント』はR15指定だった。征司が昨日15歳になったことでギリギリ購入して遊べるようになっていたゲームなのである。

 しかも今日は〝5.5ブラディス事件〟が起こった日と同じ5月5日。とても縁起が悪かった。

 折角購入したものだが遊ばない方がいいかもしれない、と胸中に迷いが生じる。

 迷っている間に、ゲームのダウンロードとインストールが終了した。新しいゲームアイコンが浮かぶ。


(……とりあえず、少しだけやってみて判断しよう。滋さんも合う合わないは人それぞれだって言っていたから)


 及び腰でゲームアイコンにタッチする。ログイン用のIDとパスワードを打ち込む画面が現れた。征司はまだIDを持っていないので《新規登録》の文字をタッチし、新たにIDとパスワードを作成する。一度本人確認のメールを受け取り、登録終了となった。


 ふっと、辺りが暗くなる。景色が宇宙空間に変わった。


 次にその宇宙空間に浮かぶ青黒い惑星が目の前に現れ、それを背景に『プラネット イントルーダー・ジ エンシェント』のゲームタイトルと、メニュー選択の文字が大きく浮かび上がった。

 征司は《NEW GAME》の文字に触れる。暗転し、まず警告文が表示された。



《警告。この作品は、法律で一部の技術使用が禁じられている最新技術、疑似細胞信号電波音を脳へと使用し、仮想世界を知覚させています。未成熟の脳細胞に悪影響を与える可能性があり、15歳未満のお子様の利用を固く禁じています。少しでも身体に異変を感じた方は、適切な医療機関を受診して下さい。

 また、他者から襲われる描写、暗所や高所から落下する衝撃がゲーム内で存在します。心臓の弱い方や妊婦の方の利用も固く禁じています》



 続けて、他にも注意事項が長々と書かれた利用規約の文章が表示され、《同意する》をタッチした。



《現在稼働中のサーバーは「インナースペース」のみです。

 「インナースペース」サーバーで新規キャラクターを作成します》



 征司にとって初めてのゲームだ。何だかんだでワクワクしてきた。オンラインゲームは自分のキャラクターを好きに作れるらしいので楽しみである。


(身長は現実よりも少し高くしたいな。165cm、とか)


 征司はギリギリ160cmで小さい部類に入るから5cm伸ばしてみたい。


(他の人に「PKしない」ってひと目で伝わるように、ヒーラーになろうかな? 攻撃するのって難しそうだし……PKの人には狙われそうだけど、自分で回復出来るなら何とかなるかも)



 しばらく待つ。

 しかし黒一色の暗転が終わる気配はなかった。征司は首を傾げる。


「まさか止まってる?」


 次の瞬間、「まさか止まってる?」という征司の声が反響して両耳に届いた。ぎょっとした拍子に後ずさる。

 すると、固い金属板を踏んだような足音がして、それも反響して辺りに木霊した。


(もうゲームが始まってた!?)


 突発的なハプニングに慌てながら、始まったのなら動かなければと思い、歩き出そうとした。

 しかしどこに向かえばいいのかも不明で、真っ暗で何も見ることが叶わない視界は一歩一歩を踏み出すのが心底怖く、異様なほど恐怖をかき立ててくる。

 頑張って歩いても、かびくさい臭いと共にカツン……カツン……と金属板の上を歩く自分の足音が響くばかり。いつまでも視界は真っ暗でとにかく心細い。現実と区別がつかないほどリアルな息苦しさに、瞳には涙がにじみそうになる。

 心がポキッと折れる寸前で、ふっと光が差し込んだ。とっさに眩しい光に顔を逸らす。

 逸らした先には壁があり、そこに光によって自分の人影が生まれた。



《あなたの名前と擬態する人種、性別、容姿を設定して下さい》



「!?」


 唐突に、征司の目の前に青色の半透明なゲームブラウザが登場する。キャラクタークリエイト画面のようだ。完全に不意打ちだった。心臓がバクバクと鼓動する。

 でも心底ほっとしたのも事実で、へにゃりと自然に笑みが浮かんで肩の力が抜けた。

 ブラウザ画面に手を伸ばす。名前は征司の〝司〟を訓読みして《ツカサ》と入力した。



《以下から擬態する人種を選択して下さい。

 ・森人もりびと擬態人

  森人は獣の耳や尻尾を持つ人種。祖先は森を住処としていた。


 ・平人ひらびと擬態人

  平人は獣的部位を持たない人種。祖先は平原を住処としていた。


 ・砂人すなびと擬態人

  砂人は爬虫類の皮膚、尻尾を持つ人種。祖先は砂漠を住処としていた。


 ・種人たねびと擬態人

  種人は獣的部位を持たない小さな人種。祖先は果樹林を住処としていた。


 ・山人やまびと擬態人

  山人は獣的部位を持たない大きな人種。祖先は山を住処としていた》



 人種を仮決定のままスクロールすると、壁に映るツカサの影の形も追随して変わるので面白い。

 一番背が高い人種は〝山人擬態人〟。最小身長の設定でも170㎝ある。


(これにしよう!)



《山人擬態人〈男性〉 初期値/VIT:10 STR:6 DEX:3 INT:1 MND:1》



 《決定》をタッチしかけて初期値という文字が目に入り、手を止めた。


(まさか人種ごとに得意なことが違うのかな……?)


 ヒーラーが出来ない人種だったらどうしようと不安になる。VITなどの英語の単位っぽい表記が何を説明しているのか分からない。

 不意にブラウザの隅にVRホームボタンを見つけた。そこから外部ウェブブラウザも別タブで開けられて、ほっとする。

 検索すれば4つの攻略サイトと、個人ブログが1つ出てくる。攻略サイトでは全人種の初期値が載っていたが、表記に対しての説明は無かった。知っていて当然の知識なのかもしれない。

 がっかりしながら個人の『ネクロアイギス古書店主の地下書棚』ブログも開いてみる。そこに諦めかけていた表記の説明があった。



『VIT…… 最大HP&物理防御力

 STR……物理攻撃力

 DEX……両手剣・遠距離物理攻撃力

 INT……魔法攻撃力

 MND ……最大MP&魔法回復力&ヒーラーの魔法攻撃力』



 おかげで疑問が解ける。ヒーラーをするにはMNDの数値が高い人種にした方がいいはずだ。更にブログでは、それぞれの人種の適性を解説してくれていた。



『森人男性 レンジャー&キャスター

 森人女性 レンジャー&ヒーラー

 平人男性 近接&レンジャー

 平人女性 キャスター&ヒーラー

 砂人男性 タンク&近接

 砂人女性 タンク&近接

 種人男性 ヒーラー特化

 種人女性 キャスター特化(ヒーラーもギリOK)

 山人男性 タンク特化

 山人女性 近接特化 


 ☆最新の高難易度戦闘コンテンツに近寄らないのであれば、初期値は気にせずに好きな人種、好きな職業で始めて大丈夫です。採集や生産にステータス値は関係ありません。自分の好みのキャラクターを作って自由に遊ぼう!』



(男性でヒーラーが得意な人種は、種人のみ……かぁ)


 難しい戦闘のコンテンツをこなしたいという気持ちは今のところ無い。だけど、もしやりたくなった時に、人に迷惑をかけたり怒られたりする可能性があるなら、最初から対応した人種を選んでおくべきだと思った。

 参考になった『ネクロアイギス古書店主の地下書棚』ブログをお気に入りに入れて外部ウェブブラウザを消し、人種を《決定》する。



《種人擬態人〈男性〉 初期値/VIT:1 STR:1 DEX:5 INT:6 MND:10》



(うっ……! 身長低い!)


 種人擬態人は最小身長が80cmと、まるでコビトだった。最大身長にしても130cmで、これでは征司と同じクラスの小学2年生の女の子の背丈である。悩みに悩んで現実より高い身長は諦め、最大身長130cmで《決定》した。

 次に種人擬態人での顔作り。どうやら人種ごとに一定の人相が規定されていて、どう頑張っても女の子みたいな顔立ちにしか変えられなかった。無茶をすると変な配置の顔になってしまうので、仕方なく中性的なモデルサンプルを土台にし、髪型は水色水晶色のショートカットで、両サイドの前髪は耳を隠すぐらいに少しだけ長い。瞳は深い菫色で作成した。



《人工音声変換機能を使い、声を加工しますか? 様々な声質を選べます。更に男性の声を女性、女性の声を男性、性別不詳にも加工出来ます》



 征司は現実と性別を変えていないし、地声で平気だと思う。《いいえ》を選択した。



《以下からメイン職業を選択して下さい。

 【タンク】守護騎士、騎士、戦士

 【近接アタッカー】剣術士、槍術士、体術士、棒術士、格闘士

 【遠距離レンジャー】弓術士、二刀流剣士

 【魔法アタッカー】星魔法士、召魔術士、秘儀導士

 【ヒーラー】白魔樹使い、神鳥獣使い、宝珠導使い》



 3種類のヒーラーは、他の職業と違って初期武器が半永久的に固定装備になるという注意書きがあった。そのため事前に武器の見た目が選べる。性能の差はない。

 白魔樹使いが杖、神鳥獣使いは鳥、宝珠導使いが宝石の見た目を選ぶようだ。


(武器が神鳥獣使いだけ生き物なんだ)


 野山にいる野鳥の姿を思い起こす。鳥獣保護法があるから枝に止まった彼らの姿を遠くから眺めることしかしたことはないが、間近で見て触れてみたいという淡い気持ちが昔からある。

 選べる鳥の見た目は《カラス、ハト、スズメ、ツバメ、オウム、フクロウ》で、色も好きに変えられるようだ。この中ならフクロウかなと指を滑らせた先に、右下の離れた位置に《ランダム》という文字があるのに気付いた。



《ランダム》


《上部のランダムボタンは、鳥の形状と色がランダムに決まります。他プレイヤーと色が被ることはありません。一点ものの色となります。ただし色を自由に選べる《カラス、ハト、スズメ、ツバメ、オウム、フクロウ》の形状はランダムには入っておりません。ご注意下さい》



(こっちに山の野鳥がいるのかな?)



 《神鳥獣使い》と《ランダム》を選ぶ。



《神鳥獣使いは、堅牢なる古き伝統の体現国家〝ネクロアイギス王国〟所属です》


《ランダム武器はゲーム開始後まで形状が開示されません。変更したい場合、既存のキャラクターを消去し、再びキャラクタークリエイトから作り直しとなります。それでもよろしいですか?》



 《はい》を押して全てのキャラクター作成を終えた。ふわんと身体全体が柔らかな光に包まれる。



□――――――――――――――――――□

名前:ツカサ

人種:種人擬態人〈男性〉

所属:ネクロアイギス王国

職業:神鳥獣使い LV1

 HP:10 

 MP:100

 VIT:1

 STR:1

 DEX:5

 INT:6

 MND:10


スキル回路ポイント〈0〉


◆戦闘基板

◇採集基板

◇生産基板

□――――――――――――――――――□




「アンタ、何者だ?」


 突然、背後から声がかけられた。

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