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第91話「堕落都市-21」

「お帰りなさい。ソフィア」

「ただいま。フローライト」

 フローライトの部屋に戻ってきた私たちは、フローライトの座るベッドの前の床で車座になる。


「で、ソフィア。目的の情報は手に入ったのか?」

「ええ、少なくとも手がかりには間違いなくなるだけの情報は手に入ったわ。ただまずは……」

 さて、全員が一息吐いたところで、今回の作戦の結果と成果について話す事とする。

 と言うわけで、まずは今回の作戦中、今後に多少なりとも関わってくる部分を一人でやってもらったトーコへと視線を向ける。


「心配しなくても大丈夫だよ。ソフィアんに言われた通り、今回の為に持ってきた剣をベッドで寝てたギギラスの胸に突き刺して、そのまま残して来たから」

「死んだのは?」

「勿論確認済み。ちゃんと脈も止まってたよ。あ、これはギギラスが身に着けてた魔石ね。使おうとしたから、ぶんどってきちゃったけど問題ないよね」

「ふふふ、むしろ盗って来て正解ね。これで疑いの目が向けやすくなるわ」

 で、トーコの方だが、無事に作戦通り事を進めてくれたらしい。

 それどころか、事前に言っておかなかったギギラスが身に着けていた希少品の類を盗ってくると言う事もしてくれた。

 これならば、これ以上私たちが手を加えなくても、勝手に色々と面白い事になってくれるだろう。


「それでソフィアんの方は?」

「今から説明するわ」

 さて懸念事項の方も片付いたところで、今回の主目的……『闇の刃』の魔石加工関連についての情報収集をどこまで出来たかについて話してしまうとしよう。


「まず『闇の刃』の魔石加工関係をまとめているのは、やっぱりペルノッタで良いみたい。私が食べた奴の記憶の中でも、ギギラスとペルノッタが未加工の魔石や道具に食料と言った必要物資を幾つ納入して、代わりに加工済みの魔石を幾つ渡すと言う交渉をしている風景が有ったから」

「ふむ。そこは事前の予想通りだな」

「そうね。目新しい情報ではないわね」

 まず、魔石加工関連の責任者がペルノッタなのは確定。

 ただし、外に出る時の私たちと同じように布で顔を隠している上に、体型が分からないようにするローブや、交渉中一切席を立たないと言うスタイルでもって、声と筆跡以外の正体を特定するための情報を一切漏らさないようにしているので、そこまでの手掛かりとは言えないが。


「それで、その交渉をしていた場所って言うのは?急がないとこの前の懲罰部隊の時みたいに潰されちゃうんじゃないの?」

「んー……急ぐ必要はないと思うわ」

「と言うと?」

「その交渉をしている場所って言うのが、『闇の刃』全員が利用している場所なのよ。だから、その場所を潰せば、色々と面倒な事になるの。それにそもそもとして、今回のやり方で『闇の刃』が情報が漏れた事に勘付く可能性は有り得ないと言い切っていいわ」

「確かにソフィアのヒトを丸呑みにすれば記憶を奪い取れると言う能力を『闇の刃』が知っているとは考えづらいな」

「むしろ知っていたら吃驚ね。私もソフィアみたいな妖魔が居るだなんて知らなかったのに」

「あー、言われてみればそうか」

 で、魔石供給の交渉をしていた場所も判明。

 この場所はドーラム含め『闇の刃』の幹部連中全員が利用していて、所有もペルノッタなので、幹部の誰かがこの場を奪い取るべく動こうとすれば、動き出した時点でマダレム・エーネミ全体を敵に回す事になると言う場所である。

 と言うわけで、個人的にはここは常に懲罰部隊を始めとした『闇の刃』の精鋭たちが常時秘密裏に警備しているのではないかと思う。


「それに、交渉場所は本当に交渉にしか使われていない場所だから、あまり積極的に調べる意味がない場所でもあるのよ」

「そうなの?」

「ふむ……」

 ただ、この魔石供給の交渉をする場所は、本当にそれだけにしか使われていない場所であり、魔石の加工は勿論の事、未加工の魔石も加工済みの魔石もここには置かれていない。


「で、未加工の魔石を集める場所と、加工済みの魔石を運び出す場所もそれぞれ別の位置にあることが記憶から分かるんだけども……肝心の魔石の加工場所については、ギギラスも私が食べた奴も教えられていなかったみたいね」

「やはりそう来たか」

「うわー、面倒くさい」

「でも、正解だと思うわ。ソフィアたちの話を聞いていた限り、ギギラスはマダレム・エーネミも裏切っていたようだし」

「まあ、その通りではあるわね」

 で、交渉に基づいて魔石の供給を受ける関係上、未加工の魔石を運び込む場所、加工済みの魔石を運び出す場所についても記憶にはあるのだが……加工する場所については調べても分からなかったと言う記憶しか存在していない。


「ちなみにギギラスが加工場所を調べようとして、失敗した理由は?まあ、予想は付くが念のためにな」

「そんなの調査員が懲罰部隊に始末されたからに決まっているじゃない」

「だよねー」

 私の言葉に全員揃ってまあそうだろうな。と言うような顔をする。

 まあ、どの魔法使いの流派にとっても最重要情報である魔石加工関係に対して行われている警備が緩いはずがないので、当然と言えば当然の話であるのだが。

 ちなみにギギラス視点の情報なので少々信憑性が怪しいが、魔石を加工している場所について知っているのは、その場で働いている者を除けば、ドーラムとその側近、それに懲罰部隊の上層部ぐらいでは無いかとの事だった。


「でもソフィア。そうなるとこの後は……」

 いずれにしても一つ確か事が有る。


「ええ、結局懲罰部隊は始末するべきであるみたい。でないと、調べられないわ」

 それは『闇の刃』の魔石加工場所について知るためには、『闇の刃』の懲罰部隊を無力化する必要が有ると言う事だ。

05/06誤字訂正

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