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第89話「堕落都市-19」

本話は普段以上に人を選ぶ描写が存在していますので、ヤバいと感じられた方は素直にブラウザバックされることをお勧めします。


今回は三人がどういうヒトなのかを描写するだけですしね。

「さて、だいたいの情報は出揃ったわね」

 一週間後。

 私たちはバルトーロ、ギギラス、グジウェンの三人の配下に化け、別の誰かを探ると言う方法でもって、三人の不和を煽りつつ情報探っていたのだが、暗殺に必要な情報がだいたいで揃ったと言う事で、どうやって実行するかを話し合う事とした。


「まず、バルトーロ、ギギラス、グジウェンの共通項は、『闇の刃』の構成員である事。マダレム・エーネミ七人の長である事。それに程度の差はあっても開戦派である事。後は……兵力、商売、家の構造なんかまで、大体同じような感じね」

「……。この三人は三つ子か何かなのか?」

「此処まで一緒だなんて本当は仲が良いんじゃないの?」

「んー、どうにもドーラムの座を狙おうとした結果として、三人とも色々と似る事になったみたいね。で、そうした事情もあって、仲が悪くなったみたい」

「まあ、座れる椅子は一つしかないし、そう言う事なら仲が悪くなって当然か」

「なるほどー」

 で、この三人の共通項だが……多過ぎて、シェルナーシュが三つ子か何かかと疑いたくなるようなレベルで共通項が多い。

 まあ、似通うのも仕方が無くはある。

 なにせこの三人は自分の力を増したいだけでなく、ドーラムの座を奪いたいと考えているのだから。

 だから他の二人に後れを取らないように強引な手段を持ってしてでも兵力を増そうとするし、金品や武具も集めようとするのだ。

 なお、三人の兵力を集めても真正面からではドーラムには勝てないらしいので、この辺りからもドーラムの厄介さが窺えるし、私たちの調査によって部下が多少消えた程度では問題があると思わない辺りにこの三人の残念さが窺える。


「でもまあ、どれほど似通ってはいても、この三人にはきちんと相違点もあるわ」

 話は戻すが、彼らはその地位と目的ゆえに酷く似通ってはいるが、血の繋がりもない赤の他人なので、一から十まで全てが同じではない。


「と言うと?」

 と言うわけで、一人ずつ違いを説明していこう。


「まずバルトーロ。コイツは大層な大食漢で普通のヒトの数倍は食べるわ」

「へー」

「おまけにかなり好色で、侍女や部下の女性にも手を出していて、おまけにそれを咎めようとした部下を鞭で撃ったり、酷い時には新しい魔法の試射に使うみたいね。当然酒癖も悪いわ」

「酷いな」

「しかも金銀財宝、宝飾品類を大いに好むそうだし……まあ、こんなのが上に居たら、マダレム・エーネミが今の状況に陥るのにも納得がいくわね」

 まず一人目、バルトーロ。

 私の中で簡単に言うのであるならば、あのディランを更に悪くしたようなヒトと言ったところか。

 ちなみに見た目はオークがヒトの振りをしているようだと、よく揶揄される外見である。

 うん、それは豚の妖魔(オーク)に対して失礼だと思う。

 彼らの身体は脂肪だらけのバルトーロと違って、必要な分だけ脂肪が付いた筋肉の塊と言った方が正しいし。


「二人目、ギギラス。どうにもコイツはかなりの野心家であるみたいね」

「と言うと?」

「未確定の情報ではあるけれど、コイツの家にはマダレム・セントールのヒトが出入りしている疑惑があるし、常日頃から何時かはマダレム・エーネミだけでなく、マダレム・セントール、マダレム・シーヤ、その他諸都市を自分の手の内に収めたいと思っているみたい」

「大層な願いだねぇ」

「でも、その大層な夢を本気で叶えようとしているみたいで、三人の中では特に武器の収集や兵力の増強に力を注いでいるらしいわ」

 二人目はギギラス。

 こちらは中肉中背で、見た目に関しては多少鍛えてあるだけで極々普通のヒトである。

 ただまあ、その野心の大きさに対して実力や度量が見合っていない。

 その証拠として積極的に動き回り、バレれば反逆者扱いされるような真似をしているにも関わらず、他の二人を引き離せないでいるし、良い部下が居ても信頼できず、扱い切れていないのだから。


「三人目はグジウェン。コイツは……あまり近寄りたくないわね」

「どういう事?」

「ふむ?」

 で、最後の一人はグジウェン。

 コイツは……色々と危ない。


「順に説明するわ。まず外見は他二人に比べて痩せていて、目指しているもの、優先しているものは不明。家の中には時折中身不明の大きな袋が持ち込まれ、週に一度はわざわざ改装させて造った部屋の中に半日はこもっているらしいわ」

「ふむふむ」

「問題はこの部屋から出てきた後で、かなり奇異な言動をするらしいわ」

「奇異な言動?」

 シェルナーシュとトーコが首を傾げ、私に先を促してくる。

 正直私としては侍女の一人から入手したこの情報を口には出したくないのだが……まあ出さないと色々と判断するための情報が足りなくなるし、出すしかないか。


「奇異な言動と言っても、その時毎に度合いは異なるわ。良い時は……そうね、突然従者の一人に何処かの都市国家へと交易に行かせたり、マダレム・エーネミの何処かに宝飾品を埋めるように指示を出すそうよ」

「確かに妙ではあるが……そこまでおかしなものではないな」

「問題は悪い時ね」

「と言うと?」

 私は念のためにもう一度シェルナーシュとトーコの顔を見る。

 うん、どうやら二人に聞かないと言う選択肢はないらしい。


「悪い時の言動は、例の部屋から出た直後に侍女の首をナイフで突き刺し殺害」

「へっ?」

「その後侍女の死体をその場で犯し、腹をナイフで十字に切り裂き」

「なっ!?」

「庭の木の一本に三日三晩侍女の死体を逆さ吊りにするように命じたそうよ」

「「……」」

「で、無事に侍女の死体が吊るされたところで、こう言ったらしいわ。えーと……『じゃんひゃぅぢゃじゃぢみ えあぁえあいじゃだっや ぉてふぇ えあやぢじゃ づぅえあてや』」

「「……」」

 私の発言にトーコとシェルナーシュの様子は?

 完全に固まっている。

 まあ仕方がないか。


「おい、ソフィア」

「何?シェルナーシュ」

 だって……


「こいつはマカクソウ狂いか?」

「たぶんね」

「うわぁ……」

 どう考えても異常と言う他ない行動をしているのだから。


「と言うわけで、私は近寄りたくないと言ったの」

「ああうん、これは近寄らない方がいいな」

「だね。関わり合いになりたくない」

 と言うわけで、シェルナーシュとトーコの了承が得られたところで、私はグジウェンをターゲットから外すのだった。

 なお、この部屋から出てきた直後を除けば、グジウェンは他二人よりも遥かに善良であるらしい。

 マダレム・エーネミレベルでの善良さだが。

うわぁ……(ドン引き)


05/04誤字訂正









『反逆者は死に、災いは去った。これで 私は 救われた』

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