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第88話「堕落都市-18」

「それで、九人の重要人物のうち、誰を狙うつもりだ?」

「そうねぇ……」

 長く一か所に留まっていると怪しまれると言う事で、私たちは出来る限り騒がしい通りを通る形でゆっくりと移動をはじめる。

 これは、静かな通りよりも騒がしい通りの方が、他のヒトの話声に紛れて私たちの会話を隠しやすいからだ。

 で、誰を狙うかについては……


「まずペルノッタとピータムの二人は無し……と言うか、狙いたくても狙えないわ」

「確か表には出て来ていない二人だよね」

「分かっているのは名前と『闇の刃』内で重要な人物である事と、ピータムが懲罰部隊のまとめ役である事ぐらいだったか。確かにこれでは無理だな」

 まずは単純な消去法でもってペルノッタとピータムの二人を狙うと言う選択肢は無くなる。

 なにせこの二人については、シェルナーシュが言っている事しか分かっておらず、何処に居るのかはおろか、顔も性別も、そもそもとして私たちが調べた子の名前が本名かどうかすら分からないのだから、狙う事も出来ない。

 まあ、ピータムが懲罰部隊のまとめ役である事から推測して、ペルノッタこそが魔石の加工に関わる諸々を取り仕切っているであろう事はまず間違いないとは思うので、私たちの目的を達するためにはいずれ始末する必要が有る人物なのは間違いないわけだが。


「ドーラムも無理ね。悔しいけど」

「フロりんの居る屋敷の持ち主で、実質今のマダレム・エーネミと『闇の刃』の最高権力者……だっけ?」

「ええ、その通りよ」

「狙えないのは……戦力の問題か?」

「いいえ、戦力差については正面切って戦わないから大丈夫よ」

「じゃあ何が問題なの?」

「ドーラムについては始末する前じゃなくて、始末した後が問題なのよ」

「ほう?」

 私はドーラムを始末した場合に起きるであろう事態を二人に話す。

 と言っても、私が確証を持って起きると言い切れる事と言えば……地下に居るフローライトが発見される事や、他の有力者たちがドーラムの後釜を狙って活発に動き出す事、抑えが利かなくなった開戦派と決戦派の暴走が起きる懸念ぐらいだが。


「で、何が拙いって、今言ったのは最低限確実に起こると言い切れる範囲内の事であって、実際には私どころか他の有力者たちにすら状況を完全に把握できなくなるような事態がまず間違いなく発生する点なのよねぇ……」

「んん?ソフィアん。周りが混乱していた方がアタシたちは動きやすいんじゃないの?」

「混乱の大きさにも限度があるのよ。最悪は……そうね。後釜を狙った有力者同士の争いによって生じた内乱の隙を突く形でマダレム・セントールが攻め込んできて、私たちごと殲滅される。と言ったところかしらね」

「無いとは……言い切れない……な」

「うわぁ……」

 私が考えるドーラムを始末した場合の懸念事項について、どうやら二人とも納得してくれたらしく、微妙に声が引き攣っている。

 でも実際、今言った最悪の状況にはならなくとも、私たち三人の内の誰かが命を落とすぐらいの事態には普通に陥ると私は感じている。

 と言うわけで、フローライトを地下室に監禁していると言う一点だけでも、百万遍殺してやりたい程に憎らしい相手ではあるが、現状ではまだドーラムは殺せない。

 と言うか、ドーラムの命が危険に晒されるようなら、守らなければならないぐらいである。

 ああ本当に苛立たしい。


「「……」」

「コホン。まあ、ドーラムについてはここら辺でさて置くとしておきましょう」

 と、気が付いたらトーコとシェルナーシュの二人から変な目で見られていた。

 どうやらドーラムに対する憎しみの念が多少ではあるが、漏れ出てしまっていたらしい。

 いけないいけない、一体どこで私たちの正体(部外者である事)がばれるか分かったものでは無いのだから、もう少し落ち着かないと。


「ハーカム、トトウェン、セントロの三人も駄目ね」

「『闇の刃』じゃないんだっけ」

「ええ、『闇の刃』との連携を取るための人員として、側近に『闇の刃』の構成員は居るでしょうけど、私たちが欲しい魔石関連の情報については知らないと思うわ」

「まあ、『闇の刃』の構成員で無い者には万が一にも漏らすわけには行かない情報だしな。それを考えたら、この三人の側近に居るであろう『闇の刃』の構成員は、良くて懲罰部隊の伝達役クラスの情報しか持っていないだろう」

「でしょうね」

 で、話を続けるわけだが、ハーカム、トトウェン、セントロの三人も狙えない。

 と言うか彼らはそもそも情報そのものを知らないだろう。

 そう言うわけで、狙う価値なしである。


「となると残りは……」

 さて、目標はだいぶ絞られてきた。


「バルトーロ、ギギラス、グジウェンの三人ね」

「『闇の刃』であると同時に七人の長でもある三人か」

「確かにこの三人だったら、知ってそうだね」

 残る三人はシェルナーシュの言うように、『闇の刃』の構成員であると同時にマダレム・エーネミ七人の長でもある。

 そして、彼らの下にはドーラムと同じように多数の一般構成員がおり、それぞれがそれぞれに派閥と言っていいような物を築き上げている。

 と言うわけで、仮にこの三人が周囲から担ぎ上げられただけの存在であっても、その側近たちの中の誰か一人ぐらいは『闇の刃』の魔石加工関係に関する知識を有しているはずである。

 で、私たちにとって都合のいい事に彼らは……、


「さてと。それじゃあ目標を一人に絞るためにも、色々と調べてみましょうか」

「だね」

「そうだな」

 非常に仲が悪いのだ。

誰を狙うのかと言うのは意外に重要です。

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