第81話「堕落都市-11」
「まずサブカと言うのは、どういう奴だ?」
私とシェルナーシュは出口目指して水路を歩きつつ、小さ目の声で会話をする。
「サブカって言うのは、私たちと同じ変わり者の妖魔の事ね」
「ふむ」
で、まず説明するべきはサブカについてだろう。
これを説明しないと、私のさっきの行動の意味がシェルナーシュには分からない。
「種族は蠍の妖魔で、直接的な戦闘能力は私以上。知力の方も……まあ、トーコよりは確実に頭が良いわね。魔法はたぶん使えないわ」
「相当優秀だな。だがそれだけ優秀となると……性格と外見どちらに問題がある?」
「長所があるなら短所もあるに決まっていると言う考えはどうかと思うけど……外見に問題があるのは確かね。私たちと違って、どうやってもヒトだと偽れない姿をしているわ」
そう言って私はシェルナーシュの方に顔だけ向けつつ、サブカの口の動きを真似するように、口の前に持ってきた右手を左右に開いたり閉じたりする。
「なるほど。だから貴様に同行していないわけか」
「ええ、蠍の尻尾だけならともかく、四本腕に全身甲殻、蠍の顔は流石に誤魔化せないわ」
「はぁ……貴様の話を聞く限りでは戦闘以外でも優秀そうなだけに本当に残念だ」
「まったくね」
シェルナーシュの口ぶりからは、本当に残念そうに感じているのが伝わってくる。
まあ実際、サブカがこの場に居れば、万が一に備えてフローライトの護衛を一任したり、もう少し強引な攻め手を取ったりするぐらいの事は出来たと思うんだけどねぇ。
居ないものは仕方がないとして割り切るけど。
「それで、さっきの妖魔たちへのお願い事は、そのサブカへの命令なんだろうが……大丈夫なのか?」
この大丈夫かという言葉には、様々な意味が含まれているのだろう。
サブカに話が伝わるのか、話を聞いたサブカが動いてくれるのか、動いたサブカが無事に仕事を出来るのかと言う意味がだ。
ただまあ、その辺りについてはさほど心配していない。
「大丈夫よ。変わり者の妖魔はともかく、普通の妖魔は私たちの言う事を意外と忠実に聞いてくれるものだから。現にマダレム・ダーイを滅ぼした時はこの方法でもって数を集めたし、妖魔たちも効率よくヒトを襲ってくれたから」
「……ボソッ(アレが貴様の仕業だったのか)」
「ん?何か言った?」
「いや、何でもない。それでサブカは噂だけで動くのか?」
「サブカの性格なら動いてくれると思うし、動いたなら仕事も確実にこなしてくれるわね。サブカって言う名前を使った時点で私からの指示だってことも分かるだろうし。実力的に死んでいる可能性も考えなくていいわね」
「そうか。ならサブカについてこれ以上小生から言う事はない」
うん、シェルナーシュは無事に納得してくれたらしい。
一瞬顔を引き攣らせていた理由は分からなかったが。
ただまあ、実を言わせてもらうならばだ。
「それに本当の事を言わせてもらうと、サブカが仕事をしてくれなくても、別に問題はないのよ。仕事をしてくれた方が何かと都合がいいのも事実ではあるけれど」
「は?」
サブカに仕事を頼んだのは次善の策としてであり、本命では無かったりする。
「おいソフィア。それはどういう意味だ?マダレム・セントールについても調べる必要が有ると言ったのは、この前の貴様だろう」
と、ここで私たちの前に縄梯子が見えてきたので、一度会話を止め、私の目と舌で井戸がある部屋に誰も居ない事を確かめてから、縄梯子を昇って地下水路から脱出する。
で、縄梯子を回収しながら、話の続きをし始める。
「シェルナーシュ、私の能力と二つの都市の仲の悪さを忘れたの?」
「いや、それは忘れていないが……っつ!あー……そう言う事か。確かにそちらの方法で情報を入手できる可能性は十分あるな」
「と言うより、入手できない方がおかしいわよ」
どうやらシェルナーシュもここで私の考えている方法に思い至ったらしい。
で、シェルナーシュも思いついたマダレム・セントールについての情報を集める方法だが、実に単純な方法だ。
「マダレム・セントールの地理に明るいものを貴様が丸呑みにすれば、それで情報は集められる……か」
「ええ、この情報については絶対に持っているヒトが居るわ」
そう、私がマダレム・セントールについてよく知っているヒトを丸呑みにして、記憶を奪えばそれで済むのだ。
そして、その際に食べるべき相手はマダレム・セントールのヒトである必要はない。
マダレム・エーネミにも、攻め滅ぼす敵としてマダレム・セントールについて詳しく調べ上げているヒトは必ず居るはずなのだから。
例え詳しく調べたヒトがいなくとも、長い闘いの歴史の中で必ずあるであろう、マダレム・セントールの近くにまで戦いの場が侵攻した戦いの参加者や、斥候や諜報員としてマダレム・セントールを調べたヒトなどから奪い取ると言う手段だってある。
私の知りたい情報は極々単純な情報であるから、それでも問題ないのだ。
「しかしそうなると、貴様が考えている二つの都市を滅ぼす策と言うのは……」
「ええ、色々と時間はかかるわね。その代わりに成功すれば、確実に二つの都市を全滅させられるけど」
「ふふっ、それは実に楽しみだな」
「あ、もちろん準備の段階からシェルナーシュにも手伝ってもらうから」
「言われなくとも分かっている」
そして私とシェルナーシュは周辺住民に姿を見られないように注意しつつ屋敷の外に出ると、軽い笑みを浮かべながらフローライトの待つ部屋へと帰るのだった。
情報源を複数持つのは基本です