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第8話「妖魔ソフィア-7」

「それじゃあ行ってくる」

「気を付けろよ。ヘイロート、ユースタス」

「そっちもな」

 夜が明け、タケマッソ村の住人達がそれぞれ動き出す。

 まずはヘイロートさんとユースタスさんの二人が村の外へと出ていく。

 勿論、二人一緒にだ。


「では我々も行くぞ。目的はただ一つ。妖魔の首だ!!」

「「「おう!」」」

 そして、二人が出ていってから多少の時間が経ったところで、山の中に居るはずの私を狩るべく、村長の息子さんによる指揮の元、村の男たちの半数以上がアムプル山脈の中へと一丸になって入っていく。

 その声からは、恐れや怯えのような感情は感じられない。


「さて、早いところ収穫作業を終わらせないとな」

「そうだね。このままじゃ冬を越せなくなっちまう」

「お父さんたちの分まで頑張らなきゃ」

 と同時に、村に残った者たちも、男は槍を手にして森の側を警戒し始め、女子供は畑の収穫作業を始めるべく動き出す。

 男たちが無事に戻ってくる事も、村に何かが襲い掛かってくる事もそれほど警戒していないのか、聞こえてくる声にはそれほど緊張感や悲壮感は感じられない。


「さて……」

 で、当の私はと言えば……既に村の中に入り込んでいる。

 具体的には、少女の方のソフィアの家の屋根裏に潜んでいる。

 昨日の夜から既にだ。


「私もそろそろ動き出そうかな」

 うん、私が妖魔に食われたと言う事で、今現在我が家は大いに悲しみに耽っており、特に私のすぐ下の妹に至っては完全に体調を崩して、床に伏せていた。

 そのため、我が家の住人が今日の収穫作業に強制的に参加させられる事も無く、誰かがわざわざ訪問してくると言う事も無かった。


「妹はもう食べたしね」

 おかげで、まずは夜の内に屋根裏の寝床で一人眠っていた妹を食べることが出来た。

 うん、実に美味しかった。

 そしてだ……。


「フィーナ。大丈夫か……う!?」

「はい、お母さんゲット」

 今、妹に食事を持ってきた母親を仕留めた。

 うんうん、いい感じだ。


「じゃ、弟達も食べてあげなきゃね」

 私は物音を立てずに家の中を動き、悲鳴を上げる間も与えずに三人居る弟へ順に麻痺毒の牙を突き立て、食べていく。

 うーん、やっぱり子供の方が美味しいっぽいかな。

 少女の方のソフィアのような年頃の少女と弟たちのように幼い男の子なら、前者の方が美味しいけど。

 好みって難しいね。


「服はこれで良し……と」

 さて、恐らくは他の男たちと一緒に村の外へ私を狩りに出ている兄を除いて、これで家族は全員仕留めた。

 と言うわけで、今回タケマッソ村に侵入した目的である、私の衣服をまずは回収。

 足りない胸の部分については、今まで着ていたコートを詰めて補う。

 そして、顔については村……と言うよりかは、この辺り一帯の礼儀作法に従って、帽子に黒い布を付けて垂らす事によって隠す。

 私と母親の体格はかなり似通っているので、これで顔と声さえ知られなければ、村の中を歩く事ぐらいは出来るだろう。


「よし、行くか」

 この時点で時刻は昼を回る少し前。

 山狩りの男たちが帰ってくるのはまだ先だが、収穫作業をしている住人たちは、一度軽めの休憩に入るはず。

 ここが一つの狙いどころだ。


「おや、セーラさん。出て来て大丈夫なのかい?」

「……」

 私は顔を隠し、母親の歩き方を真似て村の中をゆっくりと移動する。

 途中で何度か声も掛けられたが、静かに頭を下げ、悲しそうにしている振りをすれば、特に咎められることも無かった。

 で、そのまま特に何事も無く、私は村の中を移動し続け、村長の家に到達する。


「さて、次は路銀だね」

 村長の家には、とある事情から大量のお金が蓄えられている。

 私はそれを知っていた。

 なので、それをこれからの旅の資金として、頂く事にする。


「おや、セー……っ!?」

 勿論正面から家の中に入るようなことはしない。

 私の母親が村長の家を訪ねること自体は不審でなくとも、その後の行動を考えれば、最初から人目につかない方が良い。

 と言うわけで、村長の家の近くで警戒していた男の一人を物陰に招きよせ……始末。

 その後、壁を登って我が家に侵入したのと同じ方法でもって、屋根裏に入り込む。


「さて、お金は……あったあった」

 お金は直ぐに見つかった。

 袋一杯に金貨と銀貨が詰め込まれていたからだ。

 これで、他の村で人間のフリをして宿に泊まると言った事も問題なく行えるだろうし、色々と面倒な状況をお金で解決するなんて真似も出来るだろう。


「はぁ……まったく……」

 そして手に入れたお金の袋を腰に結んで、入ってきた時と同じように脱出しようと思った時だった。


「えっ!?」

「っつ!?」

 屋根裏部屋に村長の息子さんの奥さんが入ってきて、目が合った。


「な……っ!?」

 私の行動は速かった。

 瞬き一つの間に、音も無く奥さんに近づくと、その首を片手で掴み、脚で奥さんの身体を全力で蹴り飛ばす事によって、首の骨を無理矢理折る。


「何のお……ソフィア!?ぐっ!?」

 そして、階下に居て、私の姿を目撃した憎たらしい村長も同様の方法でもって始末する。

 だが、今度は距離もあって、仕留めるのが一瞬遅かった。


「村長!?」

「なっ!?」

「ソフィア!?」

「ちっ」

 村長の家の中に、村の男たちが踏み込んでくる。

 倒す事は?家の中という狭い地形を利用すれば、目の前の男たちだけならば始末できるかもしれない。

 が、直ぐに村中の……それどころか山狩りに出ていた者たちも含めて、男たちが駆けつけてくるのは目に見えている。

 そして、私は既に衣装も路銀も手に入れ、腹を十分に満たしている。

 それに、村長と村長の息子の妻も殺せている。

 つまりは私が村に侵入した目的は達せられているのだ。


「逃げるが勝ちってこういう事よね!」

「なにっ!?」

「に、逃げたぞ!」

「逃がすな!追えー!」

 故に私は踵を返し、手近な窓から家の外へと飛び出ると、麦の間に身を潜めながら畑の中を駆け抜け、山の中へと撤退する。

 妖魔とヒトの身体能力差もあって、私が追いつかれることは無かった。

02/12誤字訂正

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