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第79話「堕落都市-9」

「ソフィア。貴方は昨日初めて会った時、『闇の刃』を滅ぼしに来たと言っていたわね。つまり、少なくとも『闇の刃』を滅ぼすための策は用意してあったと言う事よね」

「ええそうなるわ」

「じゃあまずはそれを聞かせて頂戴」

「分かったわ」

 私はフローライトとアブレアに、マダレム・エーネミに来る道中でシェルナーシュとトーコに話した『闇の刃』を滅ぼす為の計画について話す。

 勿論、元々の計画は『闇の刃』を滅ぼす事では無く、暗視の魔法を無くすことを優先した計画だったので、多少前に話した時とは変わっている点もあるが、そんなのは些細な違いである。

 精々消し去るべき魔法の数が暗視の魔法一つから、『闇の刃』独自の魔法数個に増えるだけだし。


「なるほど……陽動も兼ねた内乱に暗殺。確かにマダレム・エーネミの現状なら、やり方次第では十分に出来ますね」

 私の言葉にアブレアが感心したように頷き、計画が成功する可能性があることに同意してくれる。


「でもソフィア。この策は……」

「ええ、これはあくまでも『闇の刃』と言う組織の力を削ぎ、消滅させるための策。フローライトの望むようにマダレム・エーネミを滅ぼす事は出来ないし、マダレム・セントールにとってはむしろ有利に働くでしょうね」

 ただこの策はフローライトに出会う前に立てたものなので、当然フローライトの願いを叶えられるような代物ではない。


「それは分かっているわ。私も基本的な流れについては、人数の都合もあるし、これ以外にはないと思うもの」

「そうだな。小生たちはこの場から動けない二人を含めても五人。マトモな手段では数の差で何も出来ないだろう」

「となると考えるべきは、数の差をどうにかして二つの都市を滅ぼすための作戦だね」

 と言うわけで、基本的な流れは私の計画のそれに沿えばいいが、その最後についてはトーコが言っているように、何かしらの特別な作戦を考える必要が有る。


「まあ、その作戦については追々考えるとしましょう。今はそれ以上に調べる事があるもの」

 尤も、私自身はちょっと思いついている事が有るが、その最後にやるべき作戦については現状では考えても仕方がない。

 なにせ、どのような作戦を立てるべきかという情報すらまだ出揃っていないのだからだ。


「調べる事?」

「色々とあるわよ」

 私は指折り数えながら、トーコたちに対して調べるべき事柄を教えていく。


 まずマダレム・エーネミの九人の長の性格、嗜好、実際の所属、人間関係、大切にしているもの、仕事の内容、住居、それ以外にも有益そうな情報全般。

 これは仲違いをさせ、内乱を引き起こすためには必須だと言っていい。

 誰がどういう事を考え、どのように行動するかが分かっていなければ、内乱と言うこちらの都合のいいように動いてもらうことなど出来ないのだから。


 次に魔石、武器、ジャヨケ、その他必需物資の保管場所、流通、それから管理をしているヒトについての情報。

 これも内乱を起こさせるためにはほぼ必須だと言っていいし、マダレム・エーネミを滅ぼすためには欠かせないだろう。

 なにせこれらの物資を上手く操れば、群衆を自在に操る事も不可能ではないからだ。


 さらに言えばマダレム・エーネミの詳しい地理……門、『闇の刃』の拠点、一般市民の住居、地下水路、重要施設についても調べておく必要が有る。

 なにせこの情報が無ければ、作戦もへったくれも有ったものでは無いのだから。


 そして、今言った情報の内、物資と地理についてのマダレム・セントール版の情報。

 フローライトの望みがマダレム・エーネミとマダレム・セントール、両都市の滅亡である以上、マダレム・セントールについても同程度……最低でも致命的な一撃を与えられる情報は必須だと言える。


 で、これらの説明を一通りしてみたところ……


「……」

 トーコが完全に固まった。


「私、そんなに難しい事は言ってないわよね」

「言っていないな」

「言っていないわね」

「言ってませんね」

 一応、他の面々に私の説明が難しかったかどうかを訊いてみるが、どうやらトーコが固まったのはトーコ自身の問題であるらしい。

 まあトーコだから仕方がないか。


「しかしソフィア。マダレム・エーネミについては小生たちが自分で調べればいいが、マダレム・セントールについてはどうする?さっきも言った通り小生たちはたった五人。しかもうち二人はこの場から動けない。とてもではないが、マダレム・セントールについて詳細に調べ上げ、内乱から殲滅に至るまでの人員など割けないぞ」

「んー……その点についてはちょっと考えている事が有るのよね」

「考えている事?」

「ええ、私の考え通りの物さえ有れば、色々と目途は付くのよ。マダレム・セントールについてはただ滅ぼすだけだし」

「ふむ……」

 私の言葉に対してシェルナーシュは多少悩むようなそぶりを見せる。

 私の言葉を信じられるかどうかを考えていると言ったところか。


「信頼は出来るのか?それと時間は?」

「時間はかかるわね。今この場には居ないし。でも信頼は間違いなく出来るわ」

「ほう……」

 シェルナーシュは感心した様子を見せる。


「まあ明日からでも安全にマダレム・エーネミに出入りできるルートを見つけておくわ。でないとこの策も出来ないもの」

「分かった。セントールの情報収集については貴様の策とやらに任せる」

「頑張ってね。ソフィア」

 そうして今後の方針が決まったところで、この日の活動は終わりを告げる事となった。

人員不足なのは確かです

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