前へ次へ
77/322

第77話「堕落都市-7」

「さて、フローライトとアブレアには不要な説明でしょうけど、一つずつ説明させてもらうわね」

「私たちが知らない情報が有るかもしれないから、別に構わないわ」

「ありがとう」

 私は全員の顔を一度見回し、皆聞く態勢が整った事を確認してから説明を始める。

 なお、トーコについては最早気にしないでおく。


「まずは開戦派ね。彼らはマダレム・エーネミと『闇の刃』、どちらで見ても最も多くの人員を有する派閥よ」

「つまり最大勢力と言う事か?」

「人数に関してはそうね。で、そんな彼らの考え方は至極単純で、準備さえ整えば今すぐにでもマダレム・セントールに攻め込みたいと思っている。そしてマダレム・セントールさえ滅ぼせれば、後の事はどうでもいいと思っているわ」

「ふむ。となると……」

「ええ、色々とやらかしているわ」

 まず説明するのは開戦派。

 彼らはマダレム・セントールさえ滅ぼせればいいため、いっそ拙速派と言ってもいいぐらいに考えがない。

 マダレム・セントールに攻め込むために必要な食料や武器、金銭が足りないならば、犯罪行為も含めた強引な手法でもって集めようとするし、一時的にでも力が得られるならばそれで構わないと言わんばかりに大量のジャヨケを使っているようだった。


「つまり小生たちがマダレム・シーヤで遭遇したのもこいつ等か」

「そう言う事」

 で、シェルナーシュが気付いた通り、マダレム・シーヤで私たちを襲ってきたのも彼らである。

 当然、魔法関係の技術についてもお互いの流派で協力して発展させようとするのではなく、相手から奪い取って自分のものにすると言うのが基本的な考えである。

 うん、全くもって救いようがない。

 まあ、マダレム・セントールさえ滅ぼせればそれでいいと言う連中なので、滅ぼした後の事なんて考えていないのだろうけど。


「次が決戦派。こっちは十分な準備を整え、確実にマダレム・セントールを落とせると判断できてから戦いに臨もうと考えている連中ね」

「無駄な戦いは好まない。と言う事か?」

「んー……その辺りはちょっと微妙ね。実戦訓練だと称して戦いを仕掛ける事もあるし、相手の現状の実力を探るために仕掛ける事もあるみたいだから。ぶっちゃけ、ちょっと準備期間を長く取っただけでそこまで変わりはないわね」

「……」

 次に説明したのは決戦派だが、シェルナーシュが呆れた様子で首を振る。

 いやまあ、確実な勝利の為には情報収集は必要だし、実戦と訓練は別物だって話も良くあるから、小競り合いを時々するのはまだ納得がいくんだけどね。


「まあでも最低限の準備さえ整えられればいいと考え、破滅的な物の考えをしている開戦派から臆病者と罵られているだけあって、彼らの頭はまだマトモな方よ。他の都市との同盟も長期的な物を考えて、高圧的に出る事はあっても暴力は振るわないし、ジャヨケについてもいざその時の戦力が減ってしまうと言う事から反対の立場を取っているわ」

「これがマトモと言う時点でマダレム・エーネミ全体の状況が如何に拙いかが良く分かるがな……」

「お気持ちは分かります」

「ちなみに私たちの居るこの屋敷の主であるドーラムが表向きは決戦派の頭首よ」

「表向き……か」

「ええそう、表向きはね」

 シェルナーシュが何か言いたそうにしているが、その辺りについてはこの後で説明することである。

 とりあえず決戦派についてはまだ私たちの理解の範疇である。

 これぐらいの考え方の集まりだったら、外に敵を持っている都市ならまず間違いなく存在しているだろうしね。


「で、最後が継戦派。こいつらは何時までもマダレム・セントールとの戦いを続けていたいと言う派閥ね」

「戦いを続けていたい理由は?」

「武器の売買を始めとした儲けの種を無くしたくないから。後は戦いが有る方が自分たちの生活が保証されるとか、魔法の開発が滾るからというのもあるみたいね。ああ、ジャヨケも当然のように戦争物資の一つとして彼らが握っているわ」

「つまりは自分たちが得したいだけ……か。理解しがたいな」

「まあ、マトモに損得を考えられる者には、理解しがたい考え方よね」

 三つ目は継戦派。

 こちらはもはや私たちには理解しがたい存在である。

 なにせ自分と同じヒトを犠牲にして、我欲を満たしたいだけなのだから。


「で、そんな彼らだけど、構成員そのものの数は少ないわ」

「ふむ。戦いを裏から操っているわけだし、それは当然だろうな」

「ただその代りに、所属しているヒトはその大半が地位のあるヒトで実力は確か。ドーラムも実際の所属はこっちよ」

「ほう……」

「あら、やっぱりそうだったの」

 ただその厄介さは他の二派とは比べ物にならない。

 なにせマダレム・セントールとの戦いで儲けているヒトは大抵がこの継戦派であり、表向きは存在そのものが否定されているような派閥なのだから、明確な名簿のようなものも無い。

 決戦派の頭首であるドーラムが実際はこの派閥である事からも分かるように、他の二派に深く食い込んでいるのも確かだと言っていい。

 それから、今に至るまでマダレム・エーネミとマダレム・セントールの戦いが続いている事も、彼らの立ち回りのうまさを証明する証拠の一つと言えるだろう。


「とまあ、これが今のマダレム・エーネミを支配する三派閥の概要よ」

「なるほど」

「分かり易かったわ。ありがとうねソフィア」

 私の終わりを告げる言葉にシェルナーシュは何度も頷き、私が話した内容を頭の中で反芻しているようだった。

 フローライトも笑顔で頷いてくれる。


「ねえ、ソフィアんソフィアん」

「なに?トーコ」

 と、ここでトーコが声をかけて来る。

 今までの話は……表情からしてギリギリ理解出来ていそうだ。


「マダレム・セントールとの和解を望む派閥って言うのは無いの?」

「……」

 で、トーコが切り出してきた話だが……うん、またデリケートな話を持ってくるんだから。

 いやまあ、トーコはこの情報を知らないから、純粋におかしいと思って口を挟んできただけだろうけど。


「……」

 私は一度フローライトに視線を向ける。

 それに対してフローライトは自分で話すと言う仕草をした後……。


「マダレム・セントールとの和解を望む派閥は既に存在しないのよ。十年前に、和解派の頭首だった父を始めとして、主だったものは全員殺されたから」

「へっ!?」

「何っ?」

「「……」」

 和解派について語り始めた。

和解派?そんなもん居ません


04/23誤字訂正

前へ次へ目次