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第72話「堕落都市-2」

「はぁ……フローライトへの思いが有れば、多少はマシになると思ってたんだけどね……」

 さて、地理の確認も一通り終えた所で、本題でもある情報収集を行うべく、私たちは人気のない場所に居た『闇の刃』の魔法使い三人組を襲った。

 そう、いつも通りに獲物を生きたまま丸呑みにする事によって、記憶を奪い取ったのである。

 ただし当然と言えば当然だが、『闇の刃』の魔法使いと言う事は……


「ほんっっっっっとうにコイツ等はくっそ不味いわね」

 いつものあの味である。

 まったく、私には汚物を食べる趣味なんてものはないのに、何で何度も何度もこんな不味い物を食わされなければいけないのか。

 汚物を食べるのは、蚯蚓とかフンコロガシとか、蝿とかの一部の生物でしょうが。

 いやまあ、この方法で知識吸収が出来るのが私だけである事に加えて、フローライトの指示でもあるから、耐えてはみせるけど。


「ソフィアんてば毎回それだねぇ……」

「それだけ不味いと言う事よ」

 でも愚痴は言う。

 言わないとやってられないぐらいに不味いし。


「それで目的の記憶は?」

 私が丸呑みにしなかった二人の魔法使いを解体しているトーコが、私に目的は達成できたのかと聞いてくる。


「問題ないわ。コイツを含めた複数の『闇の刃』の魔法使いの名前、住所、所属派閥、仕事、所有している魔法に『闇の刃』が持っている修行法の一部まで、大体の情報は揃っているわ」

「流石だね」

 当然目的は達成できている。

 出来ているが、以前も言ったかもしれないが、この方法で情報を収集する場合、一つ大きな問題があるのだ。


「ただ所詮はコイツの主観に基づく情報だから、最低でも後二人は別の派閥に所属している魔法使いから同じように記憶を奪う必要が有るわね。でないと、正確な情報とは言えないわ」

 それは、私が得ているのはあくまでも食べたヒトの持っている記憶であって、食べたヒトが直接目にした事はともかく、食べたヒトが別の誰かから聞いただけの情報などには、誤情報の可能性も存在していると言う事だ。

 そして、伝聞による誤情報を得てしまう危険性を抑えるには、複数のヒト(情報源)から情報を得る以外にない。

 ただ、今回の場合複数のヒトから情報を得ると言う事は……。


「そうなんだ……頑張ってね」

「気が重くなるわ……」

 あの味を何度も味わえと言う事である。

 ああ、うん。もういっそのこと吐けるなら、吐いてしまいたい。

 吐くわけにはいかないから、耐えるけど。


「それにしても何でソフィアんにとって『闇の刃』の魔法使いはそんなに不味く感じるの?」

「……」

 純粋に私の事を心配するような表情でもって、トーコが私に話しかけてくる。

 実を言えば、私は既に何故こんなにも『闇の刃』の魔法使いが不味いのか、その理由について知っている。

 知っているが、これは私の弱みでしかないため、誰かに話すのは躊躇われる事でもあった。

 だから私は悩む。

 トーコに話すべきか否かを。


「んー、もしかしてこの葉っぱが原因?」

「う……」

 ただ、その悩みは直ぐに解決することとなった。

 トーコが『闇の刃』の魔法使いの遺物である革の袋から、乾燥させた植物の葉を切り刻んだ物を取り出して見せたからだ。


「はぁ……そこまで分かっているなら、フローライトの所に戻る道中で話すわ」

「分かった」

 うん、トーコが原因を掴んでいるのなら、もう素直に話して、トーコにもその危険性を理解してもらった方が早いだろう。

 と言うわけで、私たちは誰かに見られないように気を付けつつその場から離れると、フローライトの閉じ込められている屋敷へと戻り始める。


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「それでソフィアん、この葉っぱは何なの?」

「それは私の住んでいた……あー、生まれた辺りではジャヨケと呼んでいた草よ」

「ジャヨケ?」

 私とトーコは裏通りを横に並んでゆっくりと歩きつつ、周囲のヒトに会話の内容を聞かれないように小声で話す。


「マダレム・エーネミではマカクソウと呼んでいるらしいわ。これは『闇の刃』の魔法使いたちの呼び名ね。まあ今はとりあえずジャヨケと呼んでおきましょう」

「ふむふむ」

 まず草の名前はタケマッソ村の辺りではジャヨケ、マダレム・エーネミではマカクソウと呼ばれているものだ。

 名前が違うのは、それぞれの地域で違う用途に用いられている為だろう。


「で、ジャヨケだけど、コイツは湿らせた物を火で炙ると蛇や虫が嫌う臭いの煙を出すのよ。だからそれを利用して、虫よけをしたり、巣穴に隠れている蛇をあぶり出したりするの」

「へー……じゃあ、ソフィアんが不味いと感じるのは」

「『闇の刃』の魔法使いたちがこの草を常用しているからよ」

「ふうん」

 私は思わずあの味を思い出してしまい顔を顰めるが、トーコは感心した様子で何度も頷いている。

 この様子だと、もしかしなくても私対策で幾らか持っていようとするかもしれないな。

 でもそれを許すわけには行かない。

 私が嫌いだからという理由以外でもってだ。


「トーコ。貴女は何で連中がこの草を常用していると思う?」

「へ?何でって虫除けじゃないの?」

「お生憎様、食べたら虫除けの効果は大して出ないわ」

「そうなの?じゃあなんで?」

 私はトーコの前で革袋を数度振って視線を誘導した後、通りの端で蹲っている男の方へとトーコの視線を誘導する。


「ジャヨケの葉を乾燥させた物を噛み、呑み込むと強い幻覚作用を服用者に与えるのよ」

 その男は……意味の分からない言葉をひたすらブツブツと呟き続けていた。

まあ付き物ですよね


04/18誤字訂正

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