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第67話「マダレム・エーネミ-6」

「さて、後半分と言う所ね」

 夜。

 私たち三人は頭の上に枝葉で作った帽子を被ると、出来る限り水音を立てないように気を付けつつ、マダレム・エーネミ目指して多少上流からベノマー河を泳いでいた。


「衛視たちの様子はどうだ?」

「んー、今のところ不審な動きはしていないわね。至極暇そうにしているわ」

「まあ、ヒトの側からしてみれば、他の方角はともかくとして河から敵が来るとは思わないか」

 マダレム・エーネミの衛視たちは、城壁の上で至極暇そうにしている。

 と言うか、完全に暇を持て余し、談笑し合っている様子が私の目には見えている。

 うん、侵入する側としてはありがたいが、正直それでいいのかと思う。


「で、トーコは?」

「聞けば分かるだろう」

 で、トーコについてだが……


「ソフィアんが男……女装しているだけの男……」

「まだショックを受けているのね……」

「そのようだ」

 準備中に服を脱いだ私の股間を見て、ようやく私が男だと気づいたらしく、その事で偉くショックを受けているようだった。

 別に私は言わなかっただけで、騙していたわけじゃないんだけどねぇ。


「シエルんも男……半分だけど男だった……」

「シェルナーシュは気づいていたのよね」

「その通りだ」

 なお、実を言えばシェルナーシュも見た目通りの性別では無く、その事には私も少々驚かされた。

 うん、シェルナーシュは外見上は明らかに女性であり、胸も膨らんでいるのだが、その股間には男性特有のものがしっかりと生えていたのだ。

 つまりシェルナーシュは両性具有の存在だったと言う事である。


「小生も似たような物だしな」

「まあ、確かに似たものではあるわね」

「ううう……女三人だと思っていたら、女一人半とか酷いよう……」

 ちなみにシェルナーシュ曰く、蛞蝓の妖魔は基本的に両性具有だそうだ。

 んー、蛞蝓の妖魔の特徴として両性具有があると言う事は、蛞蝓と言う生物そのものが両性具有と考えた方が良いのかもしれない。

 面倒だし、わざわざ調べる気なんてないけど。


「さて、距離も近くなってきたし、そろそろ潜りましょうか」

「そうだな。そうするとしよう」

「なんかやけ食いとかしたい……」

 さて、そうやって小声で話をしている間にも、マダレム・エーネミは近づいて来ており、城壁の上に居る衛視たちの姿もだいぶはっきりと普通の目で捉えられるようになってきている。

 なので、流石にこれ以上このまま接近すると、偽装を施しているとは言え、マダレム・エーネミの衛視たちに怪しまれることになるだろう。


「じゃっ、行くわよ。すぅ……」

「では小生も」

「うえっ!?ちょっ、二人とも待って!?」

 と言うわけで、私たちは水中に沈むことによって枝葉の帽子を脱ぐと、水面が多少荒れるのも気にせず、そのまま水面下を勢いよく泳いでいく。


「ぷはっ」

「ふうっ」

「二人とも酷いよう……」

 そして、桟橋の下にまで辿り着いたところで、呼吸の為に水面上に顔を出す。


「大丈夫……そうね」

「まあ、こんな所を見に来る奴がいるとは思えないしな」

「ぶー……」

 周囲に人影は?無い。

 私たちの頭上には木製の桟橋が架かっているし、左右には桟橋に繋がれている船によって塞がれているので、何処からか私たちの姿が見られることも無いだろう。


「しっ……」

「……」

「ふむぐ……」

 後気になるのは、水音や私たちの声を聞き付けたヒトが近づいてくるかだが……うん、私たちの方へと近づいてくる足音は無い。

 これならば、気づかれていないと考えてもいいだろう。


「よし、大丈夫そうね。じゃあ、このまま桟橋の奥の方へと向かいましょう」

「そうだな。そうするとしよう」

「まあ、アタシ程水中に慣れていない二人に無駄話をしている余裕がないのは分かるんけどさー……ん?」

 と言うわけで、私たちの周囲の状況が今のところは安全であることを確認した所で、私たちはそのまま桟橋の下を静かに移動していく。


「どうしたの?トーコ」

「水の流れが変わってる。何処かに引き込まれてるみたい」

「当たりね。案内して」

「分かった」

 そうして移動を続ける中、トーコが水の流れが変わっている場所……つまりはマダレム・エーネミの中に水を引き込むか、マダレム・エーネミの外に水を排出する事によって生じている流れを感じ取り、私とシェルナーシュをそちらの方へと誘導し始める。


「ここから都市の中に水を引き込んでいるみたい」

「よくやったわ。トーコ」

「ふむ。鉄の柵か」

 やがて私たちの前に見えてきたのは、都市の中へとベノマー河の水を引き込む水路と、その水路から入り込む者が居ないように立てられるも、手入れがされていなくて所々が錆びている鉄の柵。

 勿論、水路がある場所の上には桟橋が架かっている為、上から私たちの存在を捉えられることはない。

 と言うか、鉄の柵の手入れの状況からして、そもそもとしてここに水路があること自体知らない可能性もあるかもしれない。


「それじゃあ、シェルナーシュ」

「ああ、任せておけ」

 まあ別に知らなくてもいいのだろう。

 妖魔には鉄の柵を壊す発想が無いし、ヒトには鉄の柵を壊す力が無いのだから。

 それに警戒をされていないお陰で……。


(アシド)性化(フィケイション)

 シェルナーシュの酸性化の魔法によって鉄の柵の一部を溶かし、水路の中に入ると言う手法を私たちは取れるのだから。


「よし、開いたぞ」

「それじゃあ行きましょうか。付いて来て」

「うん」

「分かった」

 そして、私を先頭として、私たちは一寸の光も挿さない水路の中へと入っていった。

実は男女のバランスが良いPTでした(白目)

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