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第66話「マダレム・エーネミ-5」

「ぷはぁ……あー、こいつ等が酒を積んでいてよかったわ」

 襲撃の結果は?

 魔法使いは問題なく確保し、丸呑みにした。

 味は相変わらず最悪だったが、馬車の中に有ったワインで口直しも出来た。


「どうしてそんなに不味いんだろうね?アタシの食べた二人はそこまで不味くはなかったし」

「さあな。妙な物でも身体の中に入っていたんじゃないか?」

 他の四人についても、トーコとシェルナーシュが問題なく処理した。

 馬は手綱を切って逃がしたし、馬車についても森の中に移動させた。

 これでしばらくの間、見つかる事はないだろう。


「とりあえず、今後私は記憶回収が必要じゃない限りは、『闇の刃』の魔法使いは食べないでおくわ。腹を満たしたいだけなのに、吐き気を催すような物なんて食べたくないもの」

「それでいいんじゃない。アタシたちは普通に食べれるしね」

「好きにすると良い。で、目的の記憶は?」

「大丈夫よ」

 で、私が食べた魔法使いから、今後の為に必要な記憶は無事に奪えているので、襲撃の目的も無事に達成できている。

 なお、『闇の刃』の魔法使いを私が不味く感じる理由については、何となくではあるが既に気づいている。

 気づいているが、その原因の影響は蛇の妖魔である私にしか影響しない物なので、二人には話さなくても問題ないだろう。


「じゃ、得た記憶と今後どうするかについて話すわね」

「分かった」

「うん」

 そうして私は今回丸呑みにした魔法使いから得た記憶の内から、まずは今後の計画に関係ある部分……つまり都市内部の状況や警備状態の実態、それと以前食べた魔法使いの記憶には無かった魔法についての情報を話す。

 で、それらの情報を話した結果……。


「本当にマダレム・エーネミの連中の行動は理解に苦しむな」

「獲物が限られているならともかく、そうじゃないのにどうして仲良く出来ないんだろうね」

「少しでも自分の取り分を多くしたいんじゃない?この辺りは普通の妖魔もそうよ」

 シェルナーシュもトーコもかなり渋そうな表情をしていた。

 まあ、マダレム・エーネミの中が冷静に考えて崩壊一歩手前な状況になっているなんて話をしたら、こういう顔もしたくなるのかもしれないが。

 とりあえずマダレム・エーネミと『闇の刃』上層部に居る連中の自制心は普通の妖魔より多少賢い程度ね。

 これは間違いないわ。


「ま、私たちにとっては好都合よ。中に入れれば、簡単に仲違いさせて騒乱を引き起こせるし、多少ヒトが消えた所で騒ぎにもならないもの」

 私は自信に満ちた笑みでもって二人にそう言うと、二人もその点については同じ気持ちなのか、軽く頷いてくれる。


「それで、どうやって中に入る?いや、そもそもとしてどうやって怪しまれずにマダレム・エーネミに近づく?」

「接近方法については、偽装を施した上で、夜の内に河を泳いで渡るわ」

 それで今後の計画についてだが。

 まず私たちとマダレム・エーネミの間に流れるベノマー河については、夜の間に泳いで渡る事にする。

 勿論、相手に暗視の魔法が有る事を理解した上でだ。


「暗視の魔法がかかっている衛視はそんなに多くないから……だね」

「ええそうよ」

 何故そんな真似を出来るのか。

 実を言えば、暗視の魔法をかける手間を惜しんでか、夜間警備の衛視全員に暗視の魔法が掛けられるのは新月の夜のみで、それ以外の日は確認役とでも言うべき一部の衛視にしか暗視の魔法は掛けられていないのだ。

 つまり、人影や船の影が堂々とマダレム・エーネミに接近してくるのであればともかく、ヒトの頭を一回り程大きくした程度の丸い物体が川を流れる様に近づいてくる程度では、暗視の魔法がかかっていない衛視たちが私たちの事を怪しむ事はない。

 加えて、そもそもとしてベノマー河には水棲の妖魔が多数生息しているため、泳いで渡ると言う発想自体がヒトの側には存在していないため、よほど疑り深い相手でもなければ、暗視の魔法込みでも遠目には枝葉の塊にしか見えない物体を上に報告したりはしないだろう。


「で、中に入る方法については、都市の構造を利用させてもらうわ」

「都市の構造を?」

 では、無事にマダレム・エーネミに接近出来たらどうするのか。

 当然、門を叩いて正面から入るような真似はしない。

 そんな真似をすれば、マダレム・エーネミの現状だと、例え昼間に正規のルートで入ろうとしても、多くの面倒事を引き起こす事になるからだ。

 だから裏……他の都市のヒトも、普通の妖魔も使えない道からこっそりと入らせてもらう。


「ええ、あの桟橋の下。そこに面白い物が有るはずなの」

「ほう……」

「へぇ……」

 対岸の桟橋の方を向きながら発する私の言葉に二人が笑みを深める。

 どうやら、具体的な話をしなくても、私が有ると言えば信じてくれる程度には、私は二人から信頼されているらしい。

 うん、良かった。

 実を言えば、このルートは二人の協力が前提の物なんだよね。

 だから、二人が居ないと話にならなかったりするんだよ。

 口には出さないけど。


「さて、そう言うわけだから、早いところ準備をしちゃいましょうか」

「そうだね。あ、荷物はどうしよっか?」

「トーコの鍋に入らないものは置いていくしかないな」

「そうね。頭の上に乗せておく余裕なんてないでしょうし、普通のヒトの服とかは中で回収すれば十分でしょう」

「分かった。じゃあそうするね」

 そうして私たちはマダレム・エーネミに潜入するための準備を整え始める。

 そしてその中で私は本来の服装の方が作業をしやすいと考え、今まで着ていた服を脱いだ。


「!?」

「あ」

「はぁ……」

 と同時にトーコがフリーズした。

フリーズ原因は……本小説のタグを参照ですな

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