第63話「マダレム・エーネミ-2」
「今の内にその計画の内容について聞いても?」
「モグモグ……うーん……」
トーコが何か唸りながら食事をしているが、気にしても仕方が無いので置いておく。
今はシェルナーシュの質問に答えるとしよう。
「そうね……概要と根拠程度なら話しておいてもいいかしら」
「分かった」
と言っても、まだ細かいところは何一つ決まっていないので、話せるのは計画の概要とそれが何故有効なのかという根拠ぐらいのものだが。
「まず計画の概要として、第一にマダレム・エーネミに潜入と情報収集。これが出来ないとどうしようもないわ」
「まあそうだろうな。小生たちはたった三人だ。単純に外から仕掛けてもやれることはたかが知れている」
「うーん、何が悪いのかなぁ……」
第一段階は潜入と情報収集。
潜入の具体的な手法については現物を見てから考えるが、まあ夜陰に乗じて忍び込むか、適当に服装を着替えて誤魔化すかと言ったところだろう。
ああいや、夜陰に乗じるのは厳しいか。
一体どこに暗視の魔法を使っている『闇の刃』の魔法使いが居るか分かったものでは無いのだし。
「素材は別に悪くないよねぇ……となるとやっぱり捌き方とか、調理の仕方とかが悪いのかなぁ……」
「「……」」
トーコの呟きは無視する。
「で、第二段階としては、『闇の刃』に大規模な内輪もめを起こすの」
「内輪もめ?」
「内乱と言った方が正しいかもしれないけどね」
「要するにマダレム・エーネミと言う都市の中で、ヒト同士で潰し合わせる……か」
「まあそう言う事ね」
第二段階は内乱の扇動。
さっきシェルナーシュが言ったように私たちは三人だ。
『闇の刃』を潰そうと思っても、数が絶対的に足りない。
が、マダレム・ダーイ襲撃の際にやったように妖魔を集めるのは、色々と厳しいと言うか、よろしくない。
と言うわけで、その点はヒト同士を争わせることによって、その数を補うつもりである。
本音を言えば、ヒト同士を争わせるなんて勿体無い真似はしたくないんだけどね。
「で、第三段階として、『闇の刃』の構成員の中でも、魔石を加工する技術を有するヒトを殲滅し、加工法が記された書物も全て破棄するわ」
「魔石を加工する技術を持つヒトと本だけでいいのか?」
「問題ないわ。どうにも『闇の刃』……いえ、ヒトが使う魔法は基本的に魔石を消耗品としているようなの。だから、魔石を加工するヒトが居なくなり、その技術を記録したものも失われれば、後は魔石を消耗する一方になり、いずれその魔法は失われることになるわ」
「なるほど」
第三段階は目的の達成。
つまりは魔石を加工できるヒトを殺し、加工法を記した記録を破壊する。
ちなみに先程普通の妖魔を使うわけには行かないと言ったのは、集めるのが面倒というのもあるが、普通の妖魔だと魔法使い相手に殺されて、『闇の刃』が保有している魔石の数を増やしてしまうからというのもある。
加工できるヒトが自分の手元に居なくなっても、魔石は資金源として活用できるわけだし。
「最後に第四段階で脱出。勿論私たちが関わった事を知っているヒトが居るなら、軒並み始末してから……ね」
「ふむ」
第四段階は脱出。
まあ、これの内容についてはそのままだ。
用が済んだなら、妙な事になる前に脱出してしまった方がいい。
「なるほど。計画の概要は分かった。が、そんな簡単に同じ組織に属するヒトが仲違いするものなのか?それが上手くいかなければ、この計画は成り立たないぞ?」
「それは私も分かっているわ。ただ、私が食べた魔法使いの記憶が正確なら、相手や手口を選べば可能よ」
「ふむ?」
さて、ここからは私の計画の根拠についてだ。
「うーん、要反省だね」
なお、トーコについては出した時と同じ様に調理道具を何処かへとしまっているが、今は無視しておいて、何処にしまっているのかについては後で尋ねる事にする。
「さっきも言ったように、マダレム・エーネミには七人の長が居て、四人は『闇の刃』の構成員、三人は繋がりが有るだけのヒト。そして、都市の運営には関わっていないけれど、『闇の刃』の運営上重要なヒトもその七人以外に二人ほど居るの」
「ほう……つまり、その九人が実質的にマダレム・エーネミの支配者と言う事か」
「そうよ。そしてその九人は、幾つかの派閥に別れていて、それぞれの派閥はとても仲が悪いの」
「同じ『闇の刃』なのにか?」
「同じ『闇の刃』……だからでしょうね」
で、この計画の根拠についてだが、私が食べた『闇の刃』の魔法使いの記憶に多くを基づいている。
そして、ヒトの感情に基づく計画であるが故に、今シェルナーシュは困惑の表情を浮かべているのだろう。
同じ組織に属するヒト同士の仲が何故悪いのか、何故協力できないのかと。
まあ、理解できなくとも仕方がない。
私だって理解は出来ても、納得はできないのだから。
「簡単に言ってしまえば、彼らは誰が一番偉くて、力を持っているのかを競い合っているのよ」
「どうしてそんな事を?」
「より多くの富を集めるため。より多くの力を得るため。より多くのヒトを従えるため。ま、いずれにしても私たちには理解しがたい理由ね」
「?」
「シェルナーシュは理解しなくても大丈夫よ。誰を狙うかは私が考えるから」
「助かる」
ああ本当に、本当に彼らの仲が悪い理由はくだらない。
溜め込むだけの富に意味なんてないのに、扱えない量の力なんて厄介なだけなのに、把握できない数のヒトなんて危険でしかないのに、死ねばどれも意味なんて無いのに、それらを自分の手で生み出そうと考えず、他人から奪う事によって増やそうとするだなんて……本当にくだらない。
「ま、詳しい事は向こうに着く少し前から考えましょう。今はまだ考えても仕方がないわ」
「分かった」
ヒトから奪うのは妖魔の仕事なのだから、仕事を取らないでほしい物だ。