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第62話「マダレム・エーネミ-1」

「それでソフィア。結局『闇の刃』と言うのはどう言う組織なんだ?」

 マダレム・エーネミに向かう道中。

 森の中、道なき道を勝手知ったる我が家の庭のように進む私たち三人は、遭遇したヒトを始末しながら進んでいた。


「何よ突然藪から棒に」

「いやなに、聞ける内に聞いておこうと思ってな。街の近くに行ってからでは、対応が後手に回る可能性もあるだろう」

「ああ、それは確かにそうね。じゃあ話せる内に話しておきましょうか」

 で、そんな道中。

 トーコが火打石で起こした火で料理をしているために、私とシェルナーシュが暇な状態となったので、私はシェルナーシュに『闇の刃』について訊かれる事となった。


「そうね……とりあえず以前私が言った話では、『闇の刃』はマダレム・エーネミを裏から牛耳っていると言ったわよね」

「確かにそう言っていたな」

「あれ間違い。『闇の刃』は裏から牛耳っているんじゃなくて、マダレム・エーネミの上層部全員が『闇の刃』の関係者なのよ」

「は?」

 と言うわけで、私は『闇の刃』の魔法使いを食べる事によって得た『闇の刃』とマダレム・エーネミに関する情報をシェルナーシュに話す事とする。

 トーコは……料理に集中していて聞いていないかも知れないが、まあ別に良いか。


「言っておくけど、この情報はあくまでも私が食べた魔法使いの主観に基づく情報だってことを忘れないで聞いてね」

「分かった」

 勿論前置きはきちんとしておくが。


「まず、マダレム・エーネミには他の多くの都市国家と同じように複数人の長老が居るわ。で、その下に各部署のトップが居て、マダレム・エーネミと言う都市を動かしているの」

「ふむふむ」

「で、その複数人の長老なんだけど……七人中四人は『闇の刃』の構成員で、『闇の刃』内でも立場がある人物。そして、残りの三人も『闇の刃』から犯罪行為を見逃す代わりに金を受け取っていたり、戦いにおいて優先的に『闇の刃』の構成員を融通してもらったりと、一蓮托生と言っていい関係性を結んでいるのよ」

「なるほど……」

 まあ、実際問題として、一つの都市に拠点を置いている組織であるのならば、所属している都市の上層部と何かしらの繋がりが有るのは当然だと言える。

 と言うか、魔法と言う使える人間と魔石の数さえ揃えれば、同じ数の傭兵よりも遥かに強力な武器を扱える魔法使いの流派と、都市の上層部との間に繋がりが存在しなかったら、間違いなく洒落にならないレベルの諍いが生じる。

 なので、シェルナーシュが私の言葉に納得したように、マダレム・エーネミの都市の上層部に居るヒトが全員『闇の刃』と関わりがあっても何もおかしくはない。


「問題は『闇の刃』の構成員が普段やっている事ね」

「それは小生も聞いたな。自分たちに従わない者に対する暴力や殺人、他の都市に所属する者に対する誘拐、強盗、脅迫、その他諸々だったか」

「ええそうよ。これらの行為は他の都市国家でもそうであるように、マダレム・エーネミでも本来は禁じられ、犯罪行為だとされている。けれど、『闇の刃』は上層部との繋がりを利用して、堂々とこれらの犯罪行為をしている……いいえ、むしろ上層部が積極的に推し進めているようにも感じるわね」

 実際、マダレム・エーネミの長老の指揮の下、都市を正常化しようとした他の長老を暗殺すると言う行為を、私が食べた魔法使いは何度か記憶しているので、私の考えはそこまで間違ってはいないだろう。


「ソフィアんソフィアん」

「何?トーコ」

 と、ここで何処かからか取り出した鍋に水と具材を入れ、火にかけ始めたトーコが私の名前を呼んだので、そちらの方を向く。


「そんな事をして、マダレム・エーネミって言う都市は保つの?」

 で、トーコが出してきた質問の答えだが……。


「ぶっちゃけ放置していても、もう数年したら周囲の都市を巻き込みながら滅びるでしょうね」

「えっ!?」

「まあそうだろうなぁ……」

 ぶっちゃけ私が何もしなくても、マダレム・エーネミは滅びると思う。

 私が食べた魔法使いはそんな事はないと思っていたようだが、男の記憶を冷静に検証した私から言わせてもらうならば数年以内にマダレム・エーネミは崩壊する。


「ただ、自然崩壊だと色々と困るのよねぇ」

「まあ、そちらについてもそうだろうなぁ……」

「あ、やば、沸いて来たし、集中しなきゃ」

 再び料理に集中し始めたトーコはさて置いて、マダレム・エーネミが自然崩壊した場合にどうなるかを考えた私は、シェルナーシュと一緒に溜息を吐く。


「滅びる前に周囲の都市に戦いを仕掛け、食料と魔石、金を始めとして、各種物資を奪おうとする……か」

「そしてその際には無駄に多くのヒトが死ぬと共に、『闇の刃』が保有している魔法についての情報が色んな場所へと流れて行くでしょうねぇ……」

「愚かの極みだな」

「まったくね」

 現実はそうならないかもしれない。

 魔法使いにとって最重要情報である魔石の加工法については、街が滅びると共にその情報を所持しているヒトと共に消え去るかもしれない。

 マダレム・エーネミがマダレム・セントールとの戦いに負け、全てが微塵に帰すような破壊活動が行われる可能性だってあるだろう。

 が、高い確率で魔石の加工法……特に暗視の魔法については流出するだろうと私は思っている。

 と言うか、そもそもとして自然崩壊だと貴重なヒトの命が一体どれだけ無駄に失われることになるのやら……想像するだけで嫌な気分になる。


「まあ、そんな愚かな事態が発生する前に、マダレム・エーネミの病巣である『闇の刃』は消えてなくなる事になるのだけれどね」

「ほう……何か策が有るのだな」

「ええ、上手くいくかは向こうで調べる必要が有るけどね」

 尤も、マダレム・エーネミを自然崩壊させる気など、私には欠片も無いのだが。

貴重なヒトの命(食料的な意味で)


04/07誤字訂正

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