前へ次へ
61/322

第61話「三竦み-17」

「それでだ」

 翌日、私たち三人は午前中にちょっとした用事を済ませると、適当な食堂に入り、昼食を摂っていた。


「ソフィア。さっきの死体を確認する時に、どうしてあんなことを言ったんだ?」

「ん?」

「ああそれ、アタシも気になってた。どうしてあんなことを言ったの?」

「ふむぐ……ゴクン」

 で、食事の肴として午前中に私たちがやっていた用事……昨日の夜に私とシェルナーシュが殺した男たちの死体を、マダレム・シーヤ側の要請でもって確認すると言う作業の際に、私がマダレム・シーヤ側に話した事の内容について、私は二人から問われることとなった。


「ああ、あれね。別に適当な事を言ったわけじゃないわよ」

 なお、私たち三人がマダレム・シーヤの衛視たちに呼ばれたのは、昨日の殺しが私たちの仕業だとばれたからでは無い。

 所持品から死んだ男たちが『闇の刃』と雇われた傭兵崩れであり、彼らが死んでいた場所と状況からして、私たちを浚うべく『クランカの宿』を襲撃しようとしたところで例の事件の犯人……通称(ミス)()殺屋(ブッチャー)に殺されたとマダレム・シーヤ側は思っており、女屠殺屋はまた市井の何処かに潜んでいると彼らは思っている。

 で、それ自体は正解なのだが……マダレム・シーヤとしては未だに正体が分からない女屠殺屋よりも、『闇の刃』がまだマダレム・シーヤ内に居た事を問題視したらしい。

 彼らは、私たちに死んだ男たちの顔を見せ、男たちの顔に見覚えが無いか、見覚えが有るのならば、何時何処で見たのかを尋ねてきたのだ。

 うん、私たちが狙われている以上、何処かで目を付けられたはずだと言う考えの下の質問だったのだろう。


「私が食べた男の記憶。アレにちょっと脚色を加えて話したのよ」

「何故そんな事を?」

 それに対してシェルナーシュとトーコは知らないと答えた。

 で、二人がそう答える中、私はただ一人こう答えたのだ。


『えーと、マダレム・シーヤに来た日だから二日前……だったかしら。宿を探している時に、何となく彼らの顔を見た覚えがあります。たしか、街の南東部の路地裏……そう、この辺りだったかしら?ごめんなさい、ただ通りかかっただけなので、よく覚えていないです』


 と。

 勿論、そう言った通り、私はマダレム・シーヤに来た初日に宿を探すべく街の南東部にも行っている。

 行っているが、男たちには出会っていないし、見かけてもいない。

 では、何故わざわざ良く調べられれば、嘘だと言われかねない事を言ったのか。


「あそこには『闇の刃』のマダレム・シーヤにおける拠点が有るのよ」

「何?それは本当なのか?」

「へー」

 それは『闇の刃』を潰すための第一手として、マダレム・シーヤ内に存在する『闇の刃』の拠点を潰しておきたかったからだ。


「拠点と言っても、構成員が寝泊まりしたり、集めた金品や浚ったヒトを一時的に置いておくための場所であって、魔石魔法関係の資料は一切置いていないけどね」

「なんだ……」

 魔石魔法関係の資料が無いと言う話に、シェルナーシュが見るからに残念そうにしているが、それは置いておく。


「それでも、彼ら……魔法使いの拠点である以上、私たちが直接抑えようと思えば、相当厳しい事になるわ」

「だからヒトの手を使ったの?」

「そ、マダレム・シーヤにとっても連中はウザったかったでしょうしね」

 だが、他の都市に置かれている拠点とは言え、魔法使いの拠点である事には変わりない。

 表向きはただの民家に思えても、その警備は厳しく、最低でもそれなりの魔法使いが一人は常駐しているはずである。

 で、そんな所へ私たち三人だけで挑みかかったりしたら、良くて誰かが討たれるのと引き換え、最悪三人揃って一方的に殺される事もあるだろう。


「しかし、連中の使う魔法は見たかったな……」

「諦めなさい。流れ弾だってあるんだから。それに、私が把握している魔法なら後で教えるって言ったでしょう」

「それはそうだが……」

 そう、それほどまでに魔法使いと言う存在と正面切って戦うと言う行為は危険を孕んでいるのだ。

 私が食べた男も、他の魔法使いが保有している魔法を完全に把握しているわけでは無かったし、いざ戦いとなった際に何が出てくるか分からない以上、私たちが直接矢面に立つと言う危険を冒すべきではないのだ。


「モグモグ……ソフィアんソフィアん」

「何?」

「もしかしなくても対魔法使いの基本って不意討ちで何もさせない事?」

「でしょうね。正直何かをさせる暇を与えた時点で、こっちが不利になると思っていいわ」

 で、それでもなお魔法使いと戦わなくてはならない状況になった場合だが……その場合はトーコの言うように、相手の魔法使いに何もさせないと言うのが重要で理想だろう。

 なにせ、世の中にはシェルナーシュの酸性化の魔法のように、文字通りの一撃必殺になる魔法だってあるのだから。


「さて、それじゃあ食事を終えたら、南門からマダレム・シーヤの外に出ましょうか」

「で、しばらく南に行ったら迂回して北へ」

「目指すはマダレム・エーネミか」

 そうして私たちは食事を堪能し終えると、マダレム・シーヤを後にしたのだった。

マダレム・シーヤを滅ぼすと言った覚えはないのです

前へ次へ目次