第6話「妖魔ソフィア-5」
「それでお前らは村に帰ってきた……と」
「はい」
夜。
タケマッソ村の男たちは村長の家に集まり、暖炉の火で照らされた室内で、今日の捜索の結果をお互いに報告し合っていた。
「山の中で揉めた事をまずは咎めたいが……」
「う……」
「まあいい、その事については後回しにするとしよう」
その中で男たちの報告を受ける事に専念していたのは顎に白ひげを蓄えた老人……タケマッソ村の村長だった。
そして、その村長はディランたち四人を一度睨み付けるが、直ぐに視線を部屋全体へと戻して話を始める。
「儂らが第一に考えるべきは、そのマルトを連れ去ったソフィアの顔をした妖魔をどうするかだ。お主らの話を聞く限りでは、ただ突っ込んでくるだけの猪ではないようだしな」
村長の言葉に部屋中の男たちが静かに頷く。
「では情報を整理しよう。まず確認だが、そのソフィアの顔をした何者かは妖魔で間違いないのだな」
「あ、ああ。最初に音も無く現れたのはともかく、マルトを一瞬で動けなくした上に、マルトを抱えた状態で木の上を難なく移動していた」
「あの動きで人間だったら、そっちの方が驚きだよ……」
「それに、俺たちが着ている物とはまるで違う衣服を身に着けていた。あんな衣装は見た事が無い」
「なるほど」
ソフィアと遭遇した男たちの言葉に、村長は一度頷く。
「ディラン。その妖魔の顔がソフィアの顔だったのは間違いないのだな」
「ああ、間違いない。横顔と後ろ姿しか見ていないが、アレは間違いなくソフィアだった」
「そうか。ならやはりそう言う事になるな」
「そう言う事?」
ディランの言葉に村長は悲しそうに首を振る。
「ディラン。それに皆にも言っておこう。残念だが、ソフィアとアルマは死んだものとして扱え。二人が生きている可能性は諦めた方がいい」
「「「!?」」」
部屋に居る男たちの間に動揺が走る。
だが、その反応を予想していたように、村長は淡々と話を続ける。
「お前たち、妖魔が突然現れると言うのは知っているな」
「あ、ああ。と言うか、祖父さんが仲間たちと一緒にその瞬間を目撃したんだろ」
「そうだ。そして、その時倒した
「それってつまり……」
「そうだ。推測でしかないが、その妖魔がソフィアそっくりの顔をしているとなれば……ソフィアはその妖魔が生まれる瞬間に立ち会ってしまったのだろう。そして、目の前に現れた獲物を逃すほど、妖魔は甘い存在ではない。となれば必然、ソフィアを追っていたであろうアルマも……だ」
「くそっ、そんな……」
「くっ……」
「妖魔め……」
村長の言葉に殆どの男が悔しそうな表情をすると共に、ソフィアへの怨みと憎しみを募らせる。
「ぐっ……ソフィア……アルマ……」
その中でも特に悔しそうに歯ぎしりするのは、少女の方のソフィアと近々結婚する予定であったディランだった。
だが、彼がそうなるのも仕方がないだろう。
なにせ、自分が愛し、これから一生を添い遂げようと思っていた相手が居なくなっただけでなく、もう一人の居なくなった少女……アルマも、彼の妹の一人だったのだから。
「ディラン。分かっているな。ここでやみくもに動けば、更に死者が増える事になる。冷静になるのだ」
今にも村の外へと駆け出しそうなディランを諌める様に、村長が声を発する。
「分かっているさ……分かっているが……」
「お前は息子の次の村長なのだ。常に私情に走らず、村の為に働けとは言わないが、ここだけは私情に走るな。走れば、相手の良いようにされるぞ」
「分かっている!マルトが死んだのは、俺とジャルガが言い合いをしていて、奴が付け込む隙をうんじまったからだ!もうあんな事はしない!」
「分かっているのならそれでいい。ジャルガよ。お主も……」
「分かっている。あんな事はもう御免だ……」
「そうか。ならば、これ以上儂から言う事は無い」
ディランとジャルガ、反目し合っていた二人の反応に、これなら大丈夫と納得したのか、村長は椅子に深く座り直す。
「息子よ」
「分かっております。父上」
村長の横に居た男性が一歩前に出る。
「さてと。それでは例の妖魔をどうやって仕留めるかを考えるとしよう。相手は一人だが、昨日の
その男性は昨日の夜オークとの戦いで、指揮を執っていた男性であり、その目には確かな戦意が宿っていた。
やがて、男性を中心にソフィアを倒すための作戦が建てられ、その日は解散となった。
「ヘイロート、ユースタス」
「何ですか?村長」
そして、話し合いが解散となった後。
村長は二人の男性を呼び止める。
「例の書状だ。これを持って二人で近隣の村を回り、ソフィアの顔をした妖魔について注意をするように伝えて来るのだ」
「ありがとうございます。しかし……私とユースタスが抜けても村は本当に大丈夫なのですか?」
「心配するなら、自分の身を心配した方が良い。奴は昨日の時点で生まれていたはずなのに、この村を襲って来なかった。と言う事は、山の中から出てくる気が無いと言うことだ。となれば、襲われる可能性で言えば、二人で山の中を行動することになるお主らの方が遥かに高いぐらいだ」
「「……」」
「だからこそお主らに頼む。頼んだぞ」
「分かりました」
「頑張らせていただきます」
ヘイロートとユースタスの二人はそう言うと村長から離れていく。
と同時に、村長も自分の家へと戻っていく。
そして、この光景を遠くから一人の人物が見ていた。
村サイドでした
02/13文章改稿
02/28誤字訂正