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第53話「三竦み-9」

「馬鹿……な……」

 シェルナーシュの魔法を受けた男はその場で崩れ落ち、数度痙攣した後、苦悶の表情を浮かべた状態で動かなくなる。


「死んでいる……だと!?」

「一体何が……」

 まあ、相当痛かったのは間違いないだろう。

 なにせシェルナーシュの使った酸性化の魔法は、指定範囲内に存在する液体を強酸性に変えるだけのものであるが、今回魔法が発動した場所は男の心臓が有る場所だ。


「まったく。質問に対して要求で返すだなんて、どういう教育を受けているのかしらね?」

 それはつまり、シェルナーシュの魔法によって男は心臓を溶かされると同時に、心臓が止まるまでの僅かな間ではあるが、全身に強酸の血液を送り込んでしまったと言うこと。

 うん、元々のシェルナーシュの使い方である全身の体液を一度に強酸に変えると言う方が、痛みははるかに少なかっただろう。

 まあ、敵に使っているんだし、元々の使い方よりも発動にかかる時間が大幅に短くなったのだから、何の問題も無いか。


「きさっ……」

「でも、そこの間抜けのおかげで分かった事が有るわ」

 それに今は死んだ敵よりも、目の前に居る他の敵への対応を優先するべきだろう。

 と言うわけで、私はハルバードを地面に派手に叩きつけると同時に男たちの方を睨み付け、威圧する。


「貴方たちはマダレム・シーヤと敵対する都市に所属する流派の魔法使いで、その目的は私とシェルナーシュの保有している魔法。目指すはマダレム・シーヤの弱体化と自分たち流派の強化と言ったところでしょうね」

「てことは、仮にさっきの男の要求を呑んだとしても、俺たちは殺す対象ってわけだ。この手の行為は目撃者が誰も居ない方が都合がいいわけだしな」

「そもそも目指すのがマダレム・シーヤの弱体化と言う時点で、衛視である私たちを見逃す理由も無いでしょうしね」

「「「!?」」」

 私、ラグタッタさん、チャールさんの言葉に、男たちが明らかに動揺した様子を見せる。

 いや、この程度で動揺しないでよ。

 少し考えれば誰にだって分かる事なんだから。

 シーヤの狗とか言っていたんだしさ。

 あー、もしかしてこいつ等使い捨ての駒なのかも。

 それなら、この錬度の低さにも納得がいくかもしれない。


「さて、一応聞いておくわ。素直に投降しなさい。今ならまだ素っ裸を晒すだけで済ませてあげるわ」

 私は残った四人の男たちが居る方に向けてハルバードを伸ばしながら、そう宣言する。

 これに素直に従うのならそれで良し、従わないなら……まあ、適当に一人か二人程気絶させて、後は殺してしまっていいだろう。

 魔法使い相手に中途半端な手加減は不要だ。

 ただまあ……


「ふっ……ふざけるなああぁぁ!!」

「まあそうよね」

「だよなぁ」

「ですよね」

 こういう奴らが素直に従うわけがないのだが。


「殺す!殺してくれる!」

 短剣を持った男が私たちの側へと駆け出してくる。

 そしてそれが戦いの始まりの合図だった。


「ふっ!」

(アシド)性化(フィケイション)

闇円盤(ダークディスク)!」

灯り喰い(グローイーター)ぁぁ……ぐっ!?」

 シーヴォウさんの矢が放たれ、シェルナーシュの杖が一番遠くに居た男の胸に向けられる。

 と同時に、杖を持った男の一人から黒い円盤のようなものが射出され、もう一人の男がシェルナーシュの魔法を受けながら大量の黒い蛾のような何かを生み出す。


「ぎっ!?」

「ぐっ……重い……!?」

「すり抜けた!?」

 偶然に近いだろうが、シーヴォウさんの矢がまだ何もしていなかった男の腕に当たり、その男は倒れ込む。

 それと同じくして、黒い円盤をラグタッタさんが盾で受け止め、私は黒い蛾のようなものをまとめてハルバードの腹で叩き潰そうとする。

 だが、実体を有していないのか、黒い蛾の群はハルバードをすり抜けてしまう。


「!?」

「やられた!」

 そして、私の背後にある松明に黒い蛾の群が辿り着いた時だった。


「明かりが消えた!?」

「くそっ、面倒な魔法を!」

 松明の光が一瞬にして消え去り、周囲一帯が完全な暗闇に覆われ、短剣を持つ男の姿も見えなくなる。

 なるほど、灯り喰い……か。

 周囲の灯りを消し去り、自分たちにとって有利な状況を作り上げる為の魔法。

 あの黒い蛾が実体を有さない点も含めて、普通のヒトにとってはこの上なく厄介な魔法と言えるだろう。


「ふはははは!この闇の中で動けるのは我ら『闇の刃』だけ……」

 闇円盤の魔法を使った男が大声を上げる。

 が、彼らにとって一つ残念なお知らせがある。


乾燥(ドライ)

「よっと」

「「!!?」」

 それは私たちにとって暗闇とは味方でしかないと言う事だ。

 シェルナーシュの乾燥の魔法が後ろに控える二人の魔法使いに対して効果を発揮し始め、大声を上げた男が脱水症状を起こし、その場で膝をつく。

 と同時に、私のハルバードの斧が短剣を持って駆け寄る男の頭を正確に捉え、吹き飛ばす。

 そしてそれと同時に……


「よっと」

「ギッ!?」

 私の後方、シーヴォウさんの居る辺りから、僅かな声が聞こえると共に、大量の血の匂いが勢いよく漂ってくる。

 って、えっ!?


「シーヴォウ!?」

「ふっ」

「ラグタッタさん!?」

「何っ!?」

「っつ!?」

 私もシェルナーシュも慌ててシーヴォウさんの方を見ようとする。

 と同時に、シェルナーシュと私の横を人影が通り抜け、人影が手に持った何かによってラグタッタさんの首が切られ、シーヴォウさんと同じように大量の血を噴き上げる。


「ゲロっと」

 そして人影は着地と同時に、まだ息が有った二人の魔法使いの首を刎ね飛ばしつつ方向転換。

 私たちの方を向く。

 人影の正体は……


「で、出たあああぁぁぁ!!」

「殺人鬼だああぁぁ!!」

 例の事件の犯人だった。

次に貴様は「フラグが立つどころか回収されてるじゃねえか!」と言う

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