第51話「三竦み-7」
「さて、全員揃ったわね」
夕方。
間もなく陽が城壁の向こう側へと完全に隠れそうな頃、私とシェルナーシュは今夜共に行動する面々と顔を合わせていた。
「では、仕事を始める前にお互いの名前と武器ぐらいは確認しておきましょうか」
「そうね。最低限それぐらいは知っておくべきだと思うわ」
「同感だ。連携は期待できなくても、お互いの得物も分からずに仕事はしたくない」
数は私たちを含めて六人。
マダレム・シーヤ側が用意した衛視二人に、今回の依頼を受けて集まった傭兵四人だ。
「それでは自己紹介と行きましょうか。マダレム・シーヤ警備隊のチャールです」
「同じくデルートです。今回は皆様の道案内を務めさせていただきます。武器は見ての通りですね」
まず名乗ったのは衛視二人。
全身を革製の鎧で包み込んだ彼らの背中には、穂先が鉄製の槍と、木を組み合わせて作ったと思しき方形の盾が掛けられている。
また、腰には替えと思しき松明も挿されている。
「ああ、よろしく頼む」
「おう、頼んだぜ」
「ええ、よろしく頼むわね」
「ん」
「「はいっ!」」
なお、二人はマダレム・シーヤの地理に疎い私たち傭兵の為に用意された道案内役であるが、それと同時に私たちがきちんと仕事をしているのかを監督する監視役でもある。
なので、私とシェルナーシュが本来の目的を果たす際にはその目を誤魔化すか、消えてもらうか、いずれにしても何かしらの手を打つ必要が有る。
「じゃあ、次は私ね。私の名前はソフィア。武器は背中に挿してあるハルバードよ」
「小生はシェルナーシュ。魔法使いだ」
次に私たちが自己紹介を行う。
反応は……特におかしな反応をされることはない。
まあ、シェルナーシュは見た目通りだし、私のハルバードが飾りでない事は昼間のアレを見るか、体験していて、マトモな思考能力が有れば理解できる事柄だから当然だとも言える。
そう、体験だ。
「最後は俺たちだな。俺の名前はラグタッタ。武器は剣と盾で……昼間、そこの姉ちゃんに持ち上げられて呆然とした大男だ」
「で、俺がそんな大男の相方で、シーヴォウだ。武器は弓だな。いやー、あの時は驚かされたぜ。まさかラグタッタがあんなあっさりと持ち上げられるとは思わなかった」
「ははははは……」
「……」
ワザとなのかそうでないのかは分からないが、残り二人の傭兵……ラグタッタさんとシーヴォウさんは、昼間に私が持ち上げて見せた傭兵とその相棒だった。
いやまあ、私の実力に妙な疑いを持たれなくてもいい分、色々と楽なのは確かなんだけどね。
それでもまさかと言う感じだ。
なお、二人の印象についてだが、ラグタッタさんは鉄製の剣に分厚い木の盾、それに革の鎧を身に着けており、見るからに前衛と言う感じであり、対するシーヴォウさんは革の鎧こそ身につけているが、背負っているのが弓矢一式と言う点から分かるように、明らかな後衛だった。
うん、分かりやすい。
「ではまずは私たちの担当地区に移動しましょうか。付いて来てください」
「分かったわ」
「分かった」
チャールさんの言葉に従って、私たちは今居る街の中心から、街の南西部に向けて移動を始める。
「へぇ……」
「どうされましたか?」
「いえ、何でも無いわ。ただちょっと感心しただけ」
「はぁ?そうですか?」
そして、その移動の仕方を見て、私は素直に感心する。
先頭を行くのはチャールさんとラグタッタさんの二人。
それもラグタッタさんが左手に持つ盾を生かしやすいように、後ろにいる私から見て右にチャールさん、左にラグタッタさんと言う形で並び、歩いている。
次に行くのはシェルナーシュとシーヴォウさん。
こちらもシェルナーシュが右手に杖を持っている事を考慮してだろう、左にシーヴォウさんが立ち、右にシェルナーシュが立つことによって、何か有った時に対応がしやすいように並んでいる。
で、最後に私とデルートさんだが、常にデルートさんの方が私の居る位置よりも半歩ほど左ななめ後ろの位置に下がっている。
これならば、私の動きを邪魔することも、一人で後方の敵を受け持つ事にもならずに、私たち傭兵四人の動きを観察する事が出来るだろう。
うん、実に素晴らしい並びだ。
「ボソッ(とりあえず、これならそこら辺のチンピラや強盗程度は問題ないわね)」
まだ移動の動きだけしか見ておらず、実際の戦いぶりは目にしていないわけだが、誰に言われるまでも無く自然にこの並びと動き方が出来るのであるならば、それ相応に戦い慣れはしているだろう。
と言うか、これだけの動きが出来て、戦い慣れをしていなかったら、そちらの方がむしろ驚きだ。
「……」
まあ、裏の目的を考えたら、本当はあまりに出来のいいヒトと組むのは良くないんだけどね。
それだけ目を誤魔化すのが難しいと言う事になる訳だし。
「さ、着きましたよ。此処が我々の担当する地区です」
「住宅街か……細い通路、入り組んだ通路が多そうではあるな」
「確かにそう言う道は多いですね。が、そう言う道はあまり通らないようにしますのでご安心を」
「まあ、細いと言っても、人三人横並びに歩けるなら、むしろどんとこいだ」
「小生もそう思う」
「期待しているわ」
やがて私たちは今夜の担当地区に辿り着く。
そして、陽がゆっくりと地平線の向こうへと沈んだ。
こういう時は優秀だとむしろ困ります