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第47話「三竦み-3」

「宿は無事に確保できたわね」

「そうだな」

 さて、私とシェルナーシュはこれから一緒に行動する。

 と言う事で、話し合いをするための宿から出た私たちは、まず私が泊まっている『クランカの宿』に向かい、私が取っていた一人部屋をキャンセルして、代わりに三人部屋を一つ取った。

 勿論、三人部屋にしたのは例の事件の犯人が妖魔で、話が通じて協力体制が築ける相手だった時用の備えだ。

 ちなみにシェルナーシュは毎晩泊まる宿を変えるタイプだったらしい。

 うん、その分の手間がかからなくてよかった。


「それで、これからどうするつもりだ?」

「とりあえずは街の中心部に向かうわ。私の予想通りなら、ちょうどいい状況になっていると思うから」

「ふむ?」

 で、シェルナーシュは多少納得がいかないようだが、私はシェルナーシュを連れて街の中心部、物見台も兼ねているであろう塔の方へと向かう。


「どうせだし、説明しておくわ」

「分かった」

 さて、何故塔の方に向かうのか。

 私はそちらに向かって歩みを進めつつ、シェルナーシュに説明する。

 まず、塔の辺りは街の中心部と言う事もあって、マダレム・シーヤの中核を担う施設……議会や庁舎、衛視たちの集会場などが集まっている。

 で、今回の事件はヒトの側から見れば凄惨極まりない物であり、一刻も早く解決をしなければならない事件なのだ。

 となれば、マダレム・シーヤの上層部が動かないはずがなく、動いているのならば、塔の辺りでは何かしらの動きがあるはずなのだ。


「と言うわけで、まずは塔に向かうの。闇雲に探して見つかる様な相手ではないしね」

「なるほど。確かに目標の相手がどの辺りに居るかだけでも知っておかねば、探しようがないか」

「そう言う事。私には特定の誰かを探す力はないし、事前の情報は大切よ」

「ま、小生にもそう言う力はないし、反対する余地はないな」

 なお、私には集団の中から特定の個人を探し出すような能力はない。

 いやまあ、時間をかけてもいい上に、妖魔だとばれてもいい状況なら後を追う事ぐらいは出来るけどね。

 それに特定の施設に潜入しろとかだったら、むしろ得意技なんだけどね。

 今回のように集団の中から特定の個人を探し出すとなったら、ネリーぐらいに特徴のある子でなければ無理です。

 ああそれにしても……。


「また早くネリーみたいな子に会いたいなぁ……。今でもあの時の事を思い出せば、それだけで三回はイケちゃうぐらいなんだけど、やっぱり妄想と現実は違うのよねぇ。妄想の中のネリーじゃ、やっぱり現実のネリーは超えられないのよね。直接触れて味わえるってのは大切よね。ああもう、本当にネリーはどうしてあんなに魅力的だったのかしら……?」

「……」

 また早くネリーのような子に会って、ネリーの時と同じように……ううん、それ以上に燃え上がる様な状況になりたいものである。

 ネリーの太もも、髪、胸、唇……ああ、何処の部分であっても、思い返してみればエクスタシーを感じてしまう。

 でも、結局なんでネリーがあんなに魅力的だったのかは分かっていないし、その理由が分からない内は狙ってもう一度と言うのは難しいのかもしれない。

 でもそれならそれでいい。

 だってそれなら、偶然会えたと言う喜びを……


「いい加減にしろ。気持ち悪い」

「あいたっ」

 と、ここで突然、背後から私に白い目を向けるシェルナーシュに後頭部を杖で小突かれた。

 その為、私は小突かれた事に対して抗議するべくシェルナーシュの方へと向き直るが……向いた先ではシェルナーシュが私の背後に向けて指を伸ばしていた。


「それともう着いているぞ」

「あ、あら……」

 どうやらネリーの事を思っている内に目的地に着いてしまったらしい。

 しょうがない、妄想はまた後にしておくとしよう。


「それで、予想通りか?」

「ええ、集まりについてはそうね」

 さて、塔の辺りだが普段は普通のヒトで混み合っているそこは、今も他の場所に比べて明らかにヒトが多かった。

 が、普段とは違い、行き交うのは街の住人や商人と言った一般人では無く、私たちのように武器を担いでいるヒト……つまりは傭兵や衛視が殆どだった。

 どうやら、多少なりとも頭の回る傭兵は皆同じ事を考えていたらしい。


「それでここからどうするつもりだ?」

「んー……」

 私は周囲の傭兵たちの動きを観察する。

 すると大半の傭兵は、マダレム・シーヤの議会が決めた事を人々に伝える為の高札へと一度目を向けた後、仲間内で話し合いをしたり、何かを取りまとめている様子の衛視へと声をかけているようだった。

 ああうん、これはやっぱり私たちにとって都合のいい展開になっていそうだ。


「まずはあの高札に何が書かれているかを見に行きましょう」

 と言うわけで、私は高札に向かおうとしたのだが……


「あー、字を読むのは任せた」

「読めないの?」

「読めないな。だから読んでくれ」

「今回は分かったわ」

「すまない」

 どうやらシェルナーシュは文字を読めなかったらしい。

 うん、その見た目で文字が読めないと言うのは、後々不都合が起きそうだし、出来るだけ早めに文字を教えておこう。


「それで何と書いてあるんだ?」

「そうね……」

 そして私は目の前の高札に張られている文章を読み、まとめた物をシェルナーシュに話し始めた。

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