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第46話「三竦み-2」

「さてと」

 私と少女は適当な宿に入ると、店主にお金を払い、短時間ではあるが部屋を一つ貸し切る。

 その際に妙な視線を店主に向けられたが……気にしたら負けだと思う。

 と言うか、気にしない方が私の精神衛生上よろしいだろう。


「まずは自己紹介と行きましょうか。私はソフィア。蛇の妖魔よ」

「変わった名前だな」

「そうかしら?私にピッタリの名前だと思うし、珍しくも無い名前だと思うけど」

「見た目だけならそうだろうな」

 で、まずは自己紹介である。

 お互いの名前ぐらいは知らないと、話をするにも面倒であるし。

 少女が私の事を訝しげな目で見ているが、敢えて気にしないでおく。


「小生はシェルナーシュ。蛞蝓の妖魔だ」

 少女……シェルナーシュは自分の帽子のつばを弄りながら、そう名乗る。

 そしてシェルナーシュの名乗りで私は何故、シェルナーシュに対して苦手意識を抱いていたかの理由を知る。


「なめ……くじ……ね」

 それは私が蛇で、シェルナーシュが蛞蝓だからだ。

 古い伝承で本当かどうかは分からないが、蛞蝓に蛇の毒は効かない。

 それだけではなく、蛞蝓はその粘液でもって蛇を溶かしてしまうそうなのだ。

 うん、凄く怖い。

 この上なく怖い。

 そりゃあ、苦手意識の一つや二つ程度抱くのも当然だ。


「どうした?」

「いえ、何でも無いわ」

 ただまあ、この情報については私の胸の内に秘めておくとしよう。

 シェルナーシュに話したところで、私が一方的に不利になるだけだからだ。


「それよりもシェルナーシュ。改めて質問させてもらうわ」

「何だ?」

 と言うわけで、早々に話題を変えさせてもらうとしよう。


「あの事件は貴女の仕業ではないのよね」

「違うな」

 あの事件とは言うまでも無く、私たちが出会った現場の話であるが、シェルナーシュははっきりと自分では無いと言い切る。

 そして、言い切ると同時に持っていた袋から棒切れのような物体……いや、乾燥させきった肉の塊を私に向かって放り投げてくる。


「小生のやり方なら血は流れないし、そもそも昨晩はあの住宅街に近寄っていない」

「ふうん……」

 私はシェルナーシュがもう一つ同じような干し肉を取り出し、齧り出したのを見てから、干し肉を齧ってみる。


「っつ!?」

 で、一口齧っただけで、シェルナーシュの言っている事が本当の事だと私には分かった。

 蛞蝓の妖魔の能力なのか、シェルナーシュが個人的に使える魔法なのかは分からないが、仮にこの干し肉を造るのに利用した力を普通の生物に対しても使えるのなら、血は一滴も流れ出さないはずだからだ。

 と言うか良い能力を持っているなぁ……保存を利かせられるなら、毎日狩りが成功するかを心配しなくて済むわけだし。

 しかも濃縮された分だけ味も良くなっているし。


「逆に質問をさせてもらうぞ。ソフィア。貴様は犯人ではないのだな」

「と……、え、ええ。私は犯人じゃないわ」

 と、乾燥によって濃縮された味に呆けている場合じゃなかった。


「私も昨晩はあの家の辺りに行っていないし、私のやり方なら……ゴクン、死体は残らないわ」

 私は大きく口を開くと、干し肉をそのまま丸呑みにする。

 その光景にシェルナーシュは一瞬だけ驚き……続けて大きく頷く。


「なるほど。丸呑みか。それなら確かに死体は残らないし、流れ出る血の量も精々仕留める時に流れ出た程度で済むか」

「場合によっては生きたまま丸呑みにする事もあるから、本当に一切の痕跡なく始末することも出来るわ」

「ふむ」

 私が犯人でない事にシェルナーシュは納得がいったのか、感心したような表情を見せる。


「さて、お互いが犯人でない事が分かったところで本題に入りましょうか」

「そうだな。そうするとしよう」

 ここで、私たちはお互いに相手があの事件の犯人である可能性が低いと認識し、私は硬いベッドに、シェルナーシュは椅子にしっかりと腰かける。


「それで、あの事件の犯人についてシェルナーシュはどう思う?」

「妖魔だとするならば、小生たちと同じ知能を有する妖魔だろうな。ヒトであるならば、何か妙な考えに行きついてしまったヒト。それも魔法を扱える者だろう」

「まあ、それが妥当な所よね」

「と言う事はソフィアも?」

「ええ、犯人像については同じ考えよ」

 そして例の事件について話し始めるのだが、どうやらシェルナーシュも私と同じ考えに至っていたらしい。

 まあ、シェルナーシュの纏っている知的な雰囲気からすれば妥当なところかもしれないけれど。


「で、あの現場に居たって事は、私と同じでシェルナーシュも犯人を捜すつもりだったんでしょう?」

「その通りだ。そして、会った後にどうするかについては……まあ、この場で小生と貴様が話し合いの場を設けている時点で分かるだろう?」

「話が通じる相手なら協力を。話が通じない相手なら始末を。って事でしょう?」

「そう言う事だ」

 どうやら見つけ出した後の対応含めて、私とシェルナーシュの考えは一致しているらしい。

 まあ、今の今まで生き残っている変わり者の妖魔なら、同じ変わり者の妖魔との間に協力体制を気付いておきたいと言う考えは妥当な所だろう。


「ふふふ、私たち仲良くなれそうね」

「そうだな。少なくとも協力は出来そうだ」

 そうして私は苦手意識を顔に出さないように全力で隠しつつシェルナーシュと握手を交わすと、今回の事件の犯人と接触するべく、一緒に行動をすることにしたのだった。

と言うわけで、三人目の変わり者、シェルナーシュです


03/22誤字訂正

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