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第4話「妖魔ソフィア-3」

「んんー……」

 気が付けば、日が昇っていた。

 どうやらこれからどうするのかを考えるあまり、眠ってしまっていたらしい。


「まあ、方針は決まってるからいいかな」

 私は一応身の回りに変化が無い事と、周囲に人の影が無い事を確かめてから、体を伸ばしほぐす。

 うん、快調だ。

 これなら、私の考え通りに事が進めば今日もヒトを狩れるだろう。


「さて、村の様子はっと……」

 と言うわけで、私の想定通りに事が進むのかを確かめるべく、森の中を移動して、タケマッソ村の様子を探る。


「ーーーーー!」

「ーーーーー!」

 タケマッソ村では、既に畑で農作業を行っているヒトの姿が沢山見られた。

 だが、農作業を行っているヒトの性別と年齢には明らかな偏りがあり、殆どが女性と子供だった。

 では、大人の男は何処に居るかと言えば……居た。


「うん、私の想定通りみたいだね」

 タケマッソ村の男たちは昨日の夜と同じように、武器を手にした状態で村長の家の前に集まっていた。

 ただ、武器だけでなく、ロープや水筒、杖や布なども用意されている。

 加えて、彼らが発している雰囲気は昨日の夜の様に物々しい物では無く、焦りと諦めが入り混じっているような雰囲気だった。

 うん、距離があるから男たちが何を話しているのかは分からないけど、これは間違いない。

 彼らは昨日私が食べた二人の少女を探すべく、山に入ろうとしているのだ。


「まあ、昨日オークが出たせいで、微妙な雰囲気になっているみたいだけどね」

 ただ、集団が放つ雰囲気に焦りと諦めが入り混じっている辺りからして、昨日自分たちで倒したオークに二人が食われている可能性も考えているのだろう。

 まあ、妖魔に限らずこの森には危険な獣が生息しているのだし、諦めたくなる気持ちも分からなくはないけど。

 でも諦めて欲しくはないかな。

 ここで二人の捜索を諦められてしまうと、今日は一人も食べれない可能性が出て来てしまう。

 腹の感じからして数日だったら食べなくても大丈夫だろうけど……出来れば毎日一人は食べたい。


「ーーーーー!」

「と、出発みたいだね」

 と、私の願いが通じたのかどうかは分からないが、タケマッソ村の男たちが複数のグループに分かれて、行動を始める。

 どうやら、アムプル山脈に入って二人の少女を探すグループと、様々な事態に備えて村に残るグループに分かれて行動するらしい。

 うん、ここまでは想定通りだ。


「五人かぁ……ちょっと困るかも」

 ただ、捜索グループの方だが……やはり妖魔と危険な獣を警戒してなのか、それとも単純にアムプル山脈の険しさを知っての事なのか、一人で行動するような愚策は採らなかった。

 しっかりと五人一組で、お互いの存在を確かめ合いながら、山の中に入ってくる。

 一応想定はしていたけど……困る。


「……。よし、あのグループにしよう」

 ただそれでも、村を襲って昨日のオークのようにリンチにされるよりかはマシだと私は考える。

 なので、何となくではあるが、グループの中で意思の統一が図れて無さそうに感じるグループの後を木の上に身を隠しながら、追い始める。


「ソフィアー!」

「アルマー!」

「何処に居るー!」

「居たら返事をしてくれー!」

「……」

 それにしてもソフィアにアルマかぁ……論理的に考えれば、私が最初に食べた子の名前がソフィアで、その次に食べた子の名前がアルマなんだろうね。

 私はアルマと思しき子が叫んでいた名前を自分の名前としたわけだし。


「くそっ、何処に居るんだ……アルマ……ソフィア……」

「どっかに身を隠していてくれりゃあいいんだがな……」

 あ、二人とも私のお腹の中です。

 消化はもう終わっているので、私に食われても会えませんが。


「くそっ、妖魔め……よくも二人を……」

「おいっ、その言い方は無いだろうが」

「そうだぞ。まだ二人が食われたと決まったわけじゃない」

 まあ、そんな事はさて置いてだ。

 やはりと言うべきか、このグループは他のグループと違ってそこまで意思の疎通が図れているわけではないらしい。

 二人が生きていると思っているグループと、二人が死んでいると思っているグループが混ざってしまっているからだ。

 うん、これなら付け入る隙もあるかな。




「……」

 そうして目の前の男たちを追う事数時間。

 その時はやってきた。


「お前はそんなにソフィアとアルマを死んだことにしたいのか!」

「はんっ!お前だってもう理解しているはずだぞ!」

「二人とも落ち着けって……」

 昼を過ぎた頃、男たちは二人が生きているか否かで揉め始めたのだ。

 まあ、ここに来るまでに、お互いに探している二人の事をどう思っているのかを言葉の端々に含ませていたからね。

 鬱憤が溜まっていたんだろう。


「五月蠅い!お前に俺の気持ちが……」

 ちなみに、今特に怒っている男は近々少女の方のソフィアと結婚する予定だったらしい。

 うん、怒りたくもなるよね。そりゃあ。

 食べた私が言う感想でもないけど。

 でも、何となくだけど、あの男の顔は見ていてムカつくなぁ。

 ま、いずれにしてもだ。


「ボソッ……(いただきまーす)」

 私は喧嘩している二人を遠巻きに眺めているだけの男に狙いを付け、頭上から襲い掛かる。


「!?」

 麻痺毒の牙を男の首に突き立てる。

 そこから、男たちが突然の出来事に反応できない間に、私は全身が麻痺している男を抱えると、手近な木の上へと運び上げる。

 そして、痺れさせた男を抱えて、残りの男たちから急いで離れていく。


「最高の結果ではないけど、まずまずかな」

 やがて、十分に男たちから離れたところで、私は手早く男を丸呑みにする。

 ただ、運んでいる間に首を絞めてしまっていたのか、食べるときには男は既に死んでいた。

 味は……微妙だった。

 うーん、本音を言えば、生きたまま食べたかったし、私と言う存在を認識されずに仕留めたかったが……、まあ、今日もヒトを食べられただけでもマシだと思う事にしよう。


「それにしても……」

 それに、一つ気になった事が有る。

 私が男を連れ去る時、私の顔を見た男たちは驚くのではなく、一様に有り得ないものを見るような顔をしていた。

 あれはどういう事なのだろうか?


「うーん、ちょっと確かめた方が良いかな」

 考えてみれば、私は自分の容姿と言うものを確認していない。

 それは問題だ。

 なにせ、容姿も含めて私の能力なのだから。

 となれば、出来るだけ早い内に私は私の容姿を確認しておいた方が良いだろう。

 私はそう考えて、手近な川へと向かう事にした。

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