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第30話「都市国家-21」

「さてと」

 襲撃予定日まで後四日にまで迫ったその日。

 私はマダレム・ダーイの西に広がる森へとやって来ていた。

 勿論、誰にも後を追われない様に注意を払うと共に、最近マダレム・ダーイに流れている噂も考慮して北西の門から出立してだ。


「サブカ、居るかしら」

 森の中、木が枯れた為に多少周囲が開けているその場所で、私は森の奥の方に向けて声を呼び掛ける。


「勿論、居るとも」

 そうして現れたのは四本腕のギルタブリル、サブカだった。

 その口元に赤い物が付いている辺りからして、適当な食事を済ませてきた直後であるらしい。


「準備の方は?」

「全てが順調と言うわけでは無いな。お前が頼んでいた燃えやすい物を持ってこない……いや、持ってくると言う考えも持たない妖魔が殆どだ」

 サブカが手を軽く振って、私の事を森の奥へと誘ってくる。

 なので、私もサブカの誘いに乗って森の奥へと歩みを進める。


「別にそれぐらいは良いわよ。どうせそのレベルの頭しか持っていない奴には、暴れること以外で期待してないから。それに、こうなる事を見越して適当な村を襲い、燃やせる物を回収するように貴方に頼んだんじゃない」

「ま、そうなんだがな」

 やがて私の視界に周囲を警戒する数体の妖魔と、濡れないように洞窟の中に蓄えられた大量の薪や油と言った燃えやすい物が入ってくる。

 ああ、きちんと油を染み込ませた麻縄も準備されているわね。


「うん、これだけあれば十分よ」

「そうか、ならよかった」

 私の言葉にサブカはほっとしたような声を出す。

 まあ、頑張ってくれたサブカには悪いけど、これが無いなら無いで、別に手は考えてあるんだけどね。


「それで、ちゃんと燃料を持ってきた組に例の妖魔は?」

「簡単な意思疎通と自制が出来るレベルだが五人居る。副案の方も含めれば二十ってところだな」

「良いわぁ……凄く素敵。これなら私の仕事はこれからやる事だけになりそうね」

「ぶっちゃけ、その仕事が最重要なんだけどな」

 私はサブカの言葉に笑みを浮かべつつ、麻縄の調子を確かめる。

 ああうん、これなら大丈夫そう。

 長さも十分にあるみたいだしね。


「だから私がやるんじゃない」

 私は油を染み込ませた麻縄を、こちらもサブカに頼んで準備しておいてもらった荷車へと詰み込んでいく。


「でだ。『冬峠祭り』とか言う祭りの最中に襲い掛かるのは良いが、衛視たちの配置や、魔法使いたちの動向、それに商人の中でも兵力を持っている厄介な連中について調べると言う話についてはどうしたんだ?別に知らなくても何とかはなるが……っつ!?」

「知らなくても何とかなる?」

 サブカの言葉に、私は最大限の速さでもって、ハルバードの穂先をサブカの口の前へと持って行く。

 それと同時にサブカと、サブカの周囲に居た他の妖魔たちの事を睨み付ける。

 今の言葉は決して聞き流して良い物ではないからだ。


「サブカ。ヒトを舐めないで。そもそも、こっちには余分な戦力なんてものは無いのよ。無闇に戦力を散らせば、数で押されて返り討ちに遭う事になるの。だから……」

「悪い。俺が悪かった……」

「分かればよろしい」

 私はハルバードを降ろすと、近くにあった木の枝で地面にマダレム・ダーイを上から見た地図を描いていく。

 そして、地面に描いた地図の上に適当な石を置いていく。


「さて、私が動く時間までまだあるし、例の子たちを集めてくれる?そしたら説明を始めるから」

「分かった」

 サブカが何処かへと走っていく。

 さて、私が描いた地図だが、これはただの地図では無い。

 マダレム・ダーイの長老たちも持っていないであろう程に正確で詳細、かつ『冬峠祭り』の際に私が私的に優先して潰すべきだと感じたヒトの集団が居るであろう場所についても表された地図だ。

 羊皮紙に記した物もあるが……それは私以外に見せる予定はない。


「連れてきたぞ」

「ありがとう」

 と、サブカが例の妖魔たちを連れてくる。

 うん、この面子なら大丈夫そうだ。

 少なくとも、マダレム・ダーイは間違いなく滅ぼせる。

 私はそう確信すると、一度笑みを浮かべ……


「さて、今回の祭りの計画について改めて説明させてもらうわ」

 妖魔たちに自分のやるべき事を教え始めた。



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 説明終了後。


「しかし、よくもまあ、これだけ正確な情報を得られたものだな。一体どうやったんだ?」

「あら、このぐらいの情報なら、適当な人間を生きたまま食べれば得られるじゃない」

 私はサブカに質問をされたので、素直にそう返す。

 実際、私が得た情報はその組織に属しているヒトを生きたまま丸呑みにして、記憶を奪い取れば簡単に得られる情報でしかない。

 が、私の答えを聞いたサブカは何処か不満げな様子だった。


「どうしたの?」

「生きたままねぇ……正直に言って俺には無理だな。口のサイズが足らない」

「ああ、言われてみればそうね」

 サブカに言われて私も気づく。

 確かにサブカを始めとして、普通の妖魔にヒトを生きたまま丸のみにする事など出来やしないだろう。

 まずそこまで口が大きく広がらないわけだし。

 つまりこの方法で情報を得られるのは、一部の妖魔だけという事だ。


「まあいい」

 まあ、いずれにしてもこんな話は余談のようなものだ。


「今回の計画中に適当な人間の頭でも丸かじりにしてみて試す」

「上手くいくことを願っているわ」

「そっちもな」

 今はまず目の前に差し迫った私のやるべき事をやるべきだ。

 ネリーを美味しく食べる為にも……ね。

03/06誤字訂正

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