第28話「都市国家-19」
「よっと」
夜。
私は再び窓から屋根の上へと登り、ネリーたちに気付かれる事無く夜のマダレム・ダーイへと繰り出す。
今夜の活動の目的は?
「うん、結構な数が居るね」
調査と食事だ。
と言うわけで、まずはマダレム・ダーイの西門へと向かったわけだけれど……うん、やっぱり他の場所に比べて衛視の数も、明かりの数も多い。
「はぁ……暇だな……」
「暇でいいじゃねえか」
「そうだぜ。何かが起きる方が面倒だ」
「まったくだ」
西門の上の足場には衛視が四人居て、二人が城壁の外を、残り二人が城壁の中……つまりは街の中を見ている。
そして当然ながら、四人の周囲には大量の明かりが灯されており、誰かが忍び寄るような事が出来ないようになっている。
うん、厄介だ。
ここで仮に私が四人の事を誘い出そうと思っても、一人か二人しか近寄って来ず、上に連絡をしに行くとしてもそうだろう。
つまり、常に誰かが門に就いていると言う事だ。
「おいっ!上の!あんまり駄弁ってんじゃねえぞ!」
「そうだぜ!こちとら何時そこの物陰から妖魔が出て来るんじゃないかと……」
「うんうん」
「こっちの身にもなってくれっての」
「悪い悪い」
加えて、厄介な事に門に就いている人員は城壁の上の四人だけではない。
城壁の下、閉ざされた門の前にも複数の明かりが灯され、その明かりの近く四人の衛視が立っており、常にお互いの安否を気遣っている。
「ふうむ……」
私はどうやればこの門を破る事が出来るかを考えてみる。
まず単独で力押しによる突破は不可能だろう。
八人に囲まれ、その処理に手間取っている間に、どんどん周りから他の衛視が集まって来てしまう。
つまり、城壁の上の四人も、城壁の下の四人も、仲間を呼ぶ暇や逃げる隙を与えることなく始末する必要が有るという事だ。
なのでまあ……最低でも私以外に四人は欲しいかな。
それも出来れば空を飛べたり、城壁の上に一足飛びに登れるような能力の保有者が。
「門そのものは……問題ないかな」
ただ、衛視たちの排除さえできれば、門を破る事自体はそれほど難しくない。
門は木製で、内から外に向けて開くようになっている他、その枠は金属の板で補強されているのだが、門を開かないようにしているのは木製の太い閂一本だけだ。
なので、あの閂を外す事さえできれば、後は内側から誰かが押すだけで門を開ける事は可能だろう。
「しかし、例の魔法使いの件。どう思うよ?」
「あー、『大地の探究者』の拠点に侵入した奴な」
ちなみに、城壁の上に登るには、門の横にこっそりと用意されている階段を登るか、適当な場所に架けられている梯子を登るかのどちらかのルートを通る必要があるのだが、どちらのルートを通るにしても、城壁の上に居る衛視に気づかれず登り切るのは厳しいだろう。
なので、城壁の下に居る者が城壁の上に居る衛視を潰すのは中々に手間がかかると言っていい。
ヒト同士の戦いに限ればの話ではあるが。
「余所の都市に拠点を置く流派の魔法使いだって話だったよな」
「そんなものが本と……」
まあいずれにしても、今日は調査だけだ。
今門を破れても、戦力が集まっていないから門を破る意味はない。
と言うか、むしろマイナスかもしれない。
「行くか」
と言うわけで、私は門を守っている衛視たちに見つからないように気を付けつつ、その場から離れる。
そうして向かうのは?
他の門を調べる意味はない。
細かい構造の違いはあっても、基本から違うとは思えない。
ただ時間を無駄にするだけだ。
むしろ調べるべきは……
「あった」
私は適当な住居の屋根の上から、大通りから多少離れた所にあった、その建物を見つけ、目を凝らす。
「それでよー……」
「ははっ、マジかそれ」
その建物は真夜中であるにも関わらず複数の明かりが灯され、他の建物が一切の明かりを放たず寝静まっている中、闇夜の中で煌々と輝き、賑わっていた。
建物の中に居るのは兜に青い羽根を刺した複数の男たち……つまりは衛視たちだ。
「ここが待機所って事で良さそうね」
そう、ここは衛視たちの待機所。
衛視たちの使う武器や防具が保管、整備され、昼夜問わずに多くの衛視が集まり、拠点としている場。
他の建物が木造である中、火事になる事を警戒してなのか、この建物は石を基本の材料にして造られている。
それこそ、いざという時には立てこもり、抵抗の場にする事も出来そうな造りだった。
「結構居るわね……」
こういう拠点が、マダレム・ダーイには何か所もある。
そして、巡回中の衛視だけで対応できないような揉め事が起きた際にはここから応援の人員が出て来て、揉め事に対応することになっているそうだ。
つまり、私たちが襲撃した際には、優先して潰すべき場所の一つと言う事になる。
「まあいいわ、他の場所も確かめておきましょう」
私は目の前の待機所から目を離すと、その場から離れる。
で、他にも夜でありながら明かりが灯っている場所を探し、記憶していく。
この待機場の一番厄介な所は、人員の出入りなどの関係で、昼は夜と違って普通の建物との見分けが付きづらいという点だ。
だから夜の内に確認出来ておいてよかった。
「さて、適当に食べたら帰りましょうか」
その後、私は適当な衛視を誰にも見られないように仕留めて食べると、『サーチアの宿』に戻ったのであった。