第27話「都市国家-18」
「さて、帰って来たわね」
サブカと出会い、協力を得る事が出来た次の日の昼過ぎ。
私はマダレム・ダーイに帰って来ていた。
と言うのも、襲撃日である次の新月の夜はおおよそ三週間後であり、それまでにマダレム・ダーイの中でやっておくべき事も色々とあるからだ。
「ふうむ……」
で、南門を行き交う人々の雰囲気だが、取り立てて変わったところはない。
が、私が『大地の探究者』の拠点を襲ったついでに、マダレム・ダーイから出て行った三日前と比べて、どことなく浮ついた気配のようなものも感じ取れる。
この雰囲気は何と言うか……そう、タケマッソ村で麦を収穫し終わった後にやっていた収穫祭だ。
あれに似た雰囲気を感じる。
つまりは祭りが近いという事になるが……この時期に祭り?何の?
「うん、分からない時は素直に聞こう」
と言うわけで、私はこの雰囲気の正体を確かめるべく、ネリーの待つ『サーチアの宿』に向かうのだった。
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「ネリー!」
「あら、ソフィア。三日ぶりね」
「ええ、久しぶり。またお世話になりに来たわ」
『サーチアの宿』には、私が離れた時を変わらぬ姿で宿前の掃除をしているネリーが居た。
うん、相変わらずとっても美味しそうだ。
間違っても顔には出さないけど。
「おや、早い帰りだったね」
「上手く妖魔を狩れたんです」
「なるほどね。部屋なら余っているから安心しな」
「はい」
と、私の声を聞き付けてきたのか、おかみさんが宿の中から出てくる。
うん、おかみさんも元気そうだ。
おかみさんの元気が無くなると、ネリーも悲しむだろうし、息災で良かった。
「じゃあ、ちょっと換金してきちゃいますね」
「いってらっしゃい」
「気を付けるんだよ」
ちなみに、私の腰の袋には複数の魔石が入っているが、この魔石は森の中で適当な狩人を始末し、持っていた魔石の一部を奪った物である。
噂と言う名の私の命令を無視した妖魔が居れば、そっちを狩ったんだけどね。
居なかったから仕方がない。
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「ネリーネリー。ちょっと聞きたい事が有るんだけどいい?」
「何?ソフィア」
さて、街中とは別の方向に雰囲気が少し変わっていたアスクレオ商店で無事に魔石の換金を終え、宿も取った私は酒場部分でネリーを私の近くへと招きよせる。
「私の出た三日前と比べて、街の中の雰囲気がちょっと浮ついている感じがしているけど、近い内に何が有るの?」
「雰囲気?んー、皆が浮ついているのはもうすぐ『冬峠祭り』だからじゃないかな?」
「『冬峠祭り』?」
やはり街の雰囲気が変わっていたのは、祭りが近かったからであるようだ。
が、何をする祭りなのかは分からない。
「そう。次の新月の夜で、丁度冬が半分終わるじゃない。それで、その日からは毎日少しずつ暖かくなるし、お日様の登っている時間も長くなるでしょう。だからそれを祝って、皆でお肉を食べたり、お酒を飲んだりする祭りなの」
「へー、流石は都市国家ね。そんな祭りもあるんだ」
なるほど。
要するに残り半分になった冬を越える為の活力を付けるべく、みんなでどんちゃん騒いで、沢山飲み食いしましょうって言うお祭りなのね。
で、その祭りが開かれるのが次の新月の日と。
私たちの襲撃日とモロ被りだし、これはもう便乗させてもらうしかないわね。
「そう言えばソフィアの住んでいた場所ではどういう祭りが有ったの?」
「そうねぇ……」
ちなみに、月が完全に満ちた状態から、欠けて満ちるまでにかかる日数は28日で、ヒトはこれを一月としている。
そして、一月を四分割したのが一週間で7日。
一月が12個で一年である。
でまあ、季節は三ヶ月で一つの季節であり、現在は冬の一の月の終わり頃、襲撃予定日は冬の二の月の真ん中である。
「と、だいたいそんな所ね」
「へー、楽しそう」
「まあ、楽しくは有ったわね。酔って暴力を振るうような奴が居なければだけど」
「ははははは……まあそこについては『冬峠祭り』も同じかなぁ。お互い変なのに絡まれないように、気を付けないとね」
なお、私……と言うか、少女のソフィアの方は祭りと言う物にあまりいい思い出は無い。
ディランの奴が酒を飲み過ぎた為に暴れており、その暴力の対象に私が選ばれやすかったからだ。
ああうん、もう死んだ奴だけど、もう一回殺したくなってきたわ。
「邪魔をするぞー」
「あー、腹減ったー」
「夜勤はマジで辛いぜ……」
「と、お客さんが来たから、もう行くね」
「ええ、色々と教えてくれてありがとうね。ネリー」
と、ここで早めの夕食を取りに来たらしい衛視さんたちがやってきたため、ネリーはそちらの対応をするべく私の傍から離れていく。
うん、ちょっと名残惜しいけど仕方がないかな。
仕事の邪魔をしたら悪いし、仕事をしているネリーの姿も……うん、いい目の保養になる。
むしろご褒美かも。
「しっかし、三日前に『大地の探究者』の拠点に侵入した奴はどうなったんだ?」
「まだ捕まっていないどころか、痕跡も碌に残っていないらしい」
と、ネリーの仕事姿を見るついでに、衛視さんたちの話に耳を傾けていたのだが、どうやら三日前の件についてはまだ治まっていないらしい。
まあ、安全だと思っていた場所で三人も死んでいれば、騒ぎにもなるか。
「たしか犯人は『大地の探究者』じゃない他の魔法使い組織の魔法使いじゃないか。って話だったよな」
「らしいな」
「他の組織、他の都市か……嫌な相手だぜ」
「……」
てあれ?なんか勘違いされてる?
あー、まあいいか、私にとっては有利な勘違いだし。
放置して、有効活用させてもらおう。
ネリーももう奥に引っ込んでしまったし、今晩やるべき事を頭の中で整理しておかないと。
そうして私は人々が交わす他愛のない話に耳を傾けつつ、やるべき事を考えていくのだった。
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