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第25話「都市国家-16」

 マダレム・ダーイを去った私は人目を避けるために森の中を移動し続け、マダレム・ダーイへの南へと向かっていた。

 とある噂も流しながらだが。


「よっと」

「ば、化け……ぎゃあ!?」

 で、現在だが、森の中で遭遇した野盗の集団の大半を不意打ちで切り殺した後、私に気づいて逃げ出そうとしていた一人に向かって一足飛びに接近、蹴りの一発で頭を吹き飛ばしたところである。

 うん、今日の食料を無事に確保。

 同時に、『大地の探究者』の拠点で魔法使いの男を蹴り飛ばした時、異常に吹っ飛んだ理由も分かった。


「なるほどね。多くのヒトを食べれば食べるほど、身体能力が上がっていく。か」

 どうやら妖魔と言うものはヒトを食べれば食べるほど、多少ではあるが身体能力が上がっていくらしい。

 恐らくは、生命維持に必要な量以上にヒトを食べる事によって、普段なら生命維持に回されている何かを身体能力の向上に回した結果なのだろう。


「まあそうはいっても、現状だと一度に相手を出来るヒトの数が一人増えるかどうか程度みたいだけど」

 私は食事を終えると、再びマダレム・ダーイの南へと向けて道なき道を駆け抜けていく。


「さて……」

 さて、ここら辺で何故私がマダレム・ダーイの南に向かって移動しているのかについて語っておくとしよう。


「早めに会えると良いんだけどなぁ」

 まず私がマダレム・ダーイの外に出たのは、マダレム・ダーイを攻略するための準備として、どうしても外に出ざるを得なかったからだ。

 具体的に言えば、仲間の確保である。

 それもただ目の前のヒトを貪り食う数頼みの妖魔だけでは駄目だった。

 普通の妖魔のように本能で動くのではなく、私のように考えて動ける妖魔がせめてもう一人は必要だった。

 だが、当然のことながらそんな妖魔は私自身以外に見かけたことなど、今までに一度も無かった。


「まあ、噂にはなっていたし……」

 そこに聞こえてきたのが『サーチアの宿』の酒場部分や、街中での妖魔専門の狩人たちの間で噂になっていた存在。

 狩人に見つかった途端に逃げ出す妖魔だ。


「狩られてさえいなければ……」

 そう、妖魔はヒトを見つけたならば、食わずにはいられない。

 襲わずにはいらない。

 我慢することなど出来ない存在なのだ。

 故に、妖魔でありながらヒトに見つかった時に逃げると言う選択肢を取れるその妖魔は、私と同じように理性で動ける妖魔である可能性が高いというわけである。


「何とかはなるかな」

 でまあ、そんなわけで、件の妖魔の目撃証言が上がっているマダレム・ダーイの南、別の都市国家との間に散在する村々を囲うように広がる森のまっただ中へとやってきたわけである。

 噂ではこの森の中で、護衛を付けていない行商人を主に狙って襲っているとの事。


「ーーーーー!」

「ん?」

 と、私の耳に森の奥の方からヒトの声と、複数の生物が激しく動き回る事によって生じているであろう物音、それに前二つの音と違って異様に小さな……森の中を駆け回る事に慣れた存在によるものと思しき声が聞こえてくる。

 これは……もしかしなくてもそうかもしれない。


「見つけた」

 私は音の出所に向かって真っ直ぐに駆けていく。

 すると直ぐに複数の人影が私の視界の中に入ってくる。


「はぁはぁ……見つけたぞ」

「手間取らせやがって……」

「まったく、妖魔とは思えない逃げっぷりだぜ……」

 複数の人影は二つのグループに分かれており、数人のヒトと一人の妖魔に分かれていた。

 グループの片方、ヒトの集団は全員が武器を手に持ち、鎧を身に纏って武装していた。

 その数は五。

 うん、私ならノータイムで逃げ出す。

 仮に狩るのなら、森の中でとっさの連携が取れない程度に分散した所を狙う。

 それぐらいには厄介そうな相手だった。


「……」

 対する妖魔の方は?

 かなりの巨体で、しかもその全身は光沢のある甲殻で覆われていた。

 身に着けているのはボロボロの布と腰布だけだが、二枚の布しか身に着けていない事によって、むしろ威圧感や重厚感は増していると言えた。

 その腕の数は四本で、腰布の下からは蠍の尾が一本伸びている。

 つまり、この妖魔の種族は蠍の妖魔(ギルタブリル)である。


「ちっ、別の狩人も来ちまったか」

「いや、一人だけなら好都合だ。俺たちだけじゃ手が足りない」

「そうだな。まずは確実にコイツ狩る事だけを考えるべきだ」

 と、ヒトの集団が私に気づいたのか、手振りと多少の視線だけで私に協力を求めてくる。

 うん、これならいける。


「……」

「……」

 私とギルタブリルは無言で視線を交わす。


「来るぞっ!」

 そしてギルタブリルがまるで逃げる事を諦めたかのように、ヒトの集団に向かって突撃を開始すると同時に、私もヒトの集団に向けて駆けだす。


「全い……っ!?」

「あはっ」

「なっ……ぎゃっ!?」

「死ぬがいい」

 私のハルバードが指揮官と思しきヒトの頭を背後からかち割り、その光景に驚いたヒトの頭をギルタブリルの腕の一本が貫く。


「お……!?」

「ふんっ」

「お終い!」

 そして残りの三人も、急変した状況に慌てている間に二人で手際よく仕留めると、自分の仕留めたヒトを手際よく処理して痕跡を消しておく。

 やがて処理も終わったところで……


「さて、自己紹介といきましょうか。私の名前はソフィア。貴方は?変わり者のギルタブリルさん」

 私はギルタブリルに向かってそう問いかけた。

森の中でも都市国家編なのよ

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