第22話「都市国家-13」
「……。よし、大丈夫」
部屋に戻った私は、本来の服装に着替えると、満天の星空の元、窓から身を乗り出して宿の屋根上に登る。
そして、まずは他の建物の屋根上に人影が無いかを念のために探るが……、まあ、夜に屋根の上に登るようなヒトはまず居ないだろう。
「まずは色々と調べないとね。と」
さて、ネリーの為にもマダレム・ダーイを滅ぼす事を決めた私だが、実際にマダレム・ダーイを滅ぼすにあたっては、解決しなければならない問題点が幾つも存在している。
「それでな……」
「へー……」
「夜間の見回りは二人一組が基本か……」
問題点その一。
それは絶望的な戦力差だ。
具体的には、現状ではこちら側には私一人しか居ないのに対して、マダレム・ダーイには百人以上は間違いなくいる衛視に、傭兵や妖魔専門の狩人と言った戦う事を生業とするヒトが多数。
更には、武器さえ与えれば最低限の役割ぐらいは果たせそうなヒトも、衛視や傭兵たちの数倍は間違いなく居る。
つまり合計すれば、私の敵になり得る存在は千を超すと考えても問題ない事になる。
と言うわけで……うん、どう足掻いても私一人でマダレム・ダーイを滅ぼすのは無理だ。
「そいつは見たかったなぁ」
「宿に泊まっていると言う話だから……」
「明かりは二人とも持っていて、もう片方の手には槍。当然防具も着用済みね。んー……まあ、何とかはなる……かな。今日は狩らないけど」
と言うわけで、まずは仲間を集めなければならない。
集めるべき数は……妖魔とヒトが戦ってどっちが勝つかは、お互いの数や戦い方、その場の状況によりけりだけど……まあ、少なく見積もっても、戦う相手の半分、今回の場合だと五百は必要だろう。
正直に言って、私だって完全武装したヒトを相手にした場合、同時に相手して確実に倒せると言えるのは二人ぐらいだろうし。
そして、勿論可能であるならば、戦う相手と同数か、それ以上の数は集めたいのが本音だ。
こちらの数が多ければ多いほど、一人あたりの分け前は少なくなるが、簡単にヒトを狩れる可能性は高まるのだから。
で、集める方法については……まあ、多分何とかなる。
上手くいくかは微妙な所だけど。
「と言うか、数以上に優先して解決策を考えておくべき問題があるのよねぇ……」
私は下の路地を歩く衛視から目を離し、マダレム・ダーイの周囲を取り巻く城壁の方へと目を向ける。
そこには城壁の上を歩く衛視の為なのだろう、多数の明かりが灯っており、夜陰に乗じて妖魔や野盗がマダレム・ダーイの中に入れないよう厳重な警備態勢が敷かれていた。
「まずはあの城壁よね」
問題点その二。
それはマダレム・ダーイの周囲を取り囲む石の壁だ。
アレは力自慢の妖魔であっても、力任せに殴って壊せるような代物ではないだろう。
少なくとも私には無理だ。
で、門については木製なので、石で出来ている壁よりかは簡単に壊せるだろうが……その分だけ守っているヒトの数も多い。
城壁の上から浴びせられるだけの矢や石を浴びせられたら、どれほど頑丈な妖魔であっても耐えられるものではないだろう。
よって、何かしらの方法でもって城壁を破壊するなり、無視したりしなければ、マダレム・ダーイを滅ぼす事は出来ないと言う事である。
うん、早い内に破る方法を考えておかないと。
「で……」
私は視線を北の方へと向ける。
そこは周囲より幾らか高くなっており、城壁の上程ではないが、多くの明かりが灯っていた。
そう、『大地の探究者』の拠点だ。
どうやら、夜の間も活動しているらしく、何となくだが多くのヒトが固まって動いている気配が感じ取れる。
「未だに詳細が分からない魔法、と」
問題点その三。
『大地の探究者』が保有している魔法と言う技術について。
こちらについてはまるで詳細が分かっていないが、マダレム・ダーイに来る前に出会ったアスクレオさんの護衛を務めていたストータスさんが話していた魔法についての説明と、その実力からある程度の推測は立てられる。
で、推測を立てたのだが……うん、かなり拙い。
『大地の探究者』がどれほどの数の魔石と魔法使い、それにどれだけの威力の魔法を保有しているのかは分からないが、衛視さんを前衛とし、魔法使いが後方から魔法で支援を行うと仮定したら、魔法使い一人で妖魔一人分以上の働きは間違いなくしてくるだろう。
なにせストータスさんは石弾と言う魔法一発でもって、軽々とゴブリンの頭を吹き飛ばしていたのだから。
そして、石弾と言う魔法が広く知られていると言う事実からして、多くの使い手とそれ以上の魔法がある事ぐらいは想定しておいても問題はないだろう。
となれば、何かしらの対策を予めしておかなければ……数で圧せる状況になってでも、返り討ちに会う危険性が否定できない。
うん、こっちも早めに対応策を考えておかないと。
「とりあえず明日は『大地の探究者』について調べてみようかな。あれだけ森が深い丘なら、私が隠れられる場所も少なくないだろうし」
私はそう判断すると、誰かに見られないように気を付けつつ、宿の中に戻ったのだった。