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第20話「都市国家-11」

「さてとだ」

 翌朝。

 私は『サーチアの宿』でちょっと豪華な朝食に舌鼓を打つと、マダレム・ダーイ全体に関わる事を話しあうための場所……庁舎?と言う所に向かい、昨日のサハギンの件について話すと同時に報奨金を貰った。

 うん、考えてみれば、昨日はネリーにだけ注意が向いていたから、仕留めたサハギンの魔石を回収し忘れていた。

 報奨金の中身はきっとそのお金だろう。


「色々と見て回ってみないとね」

 で、庁舎での話が終われば、私の身は今日一日自由になる。

 なので、昨日の夜に考えた通り、まずはマダレム・ダーイ全域を巡ってみる事にする。


「最初は……あそこでいいかな」

 私は大通りから伸びている細い路地の一本に入ると、そこから更に数度大通りから離れる様に路地を曲がっていく。

 そして、周囲に人影が無くなったところで、私は手近な壁のでっぱりに手を掛ける。

 うん、しっかりとしたでっぱりだ。

 これなら大丈夫だろう。


「よっと」

 私は手を掛けたでっぱりをとっかかりとし、蛇の妖魔としての特性も生かして建物の壁を勢いよく登っていく。

 そして、木製の屋根の上に乗ると、まずは身を伏せて周囲の気配を窺う。

 うん、大丈夫だ。

 どこからも見られていない。


「さてさて……」

 何故、マダレム・ダーイ全域を巡るのに、屋根の上へと登る必要が有るのか。

 その理由は至極単純で、マダレム・ダーイの広さと道の複雑さだと、下を歩いて回る場合には見て回るだけでも何日もかかるからだ。

 現に私は昨日迷子になったわけだし。


「と、あそこがいい感じかな」

 ならば、下や窓から見られないようにだけ注意して、建物の上を駆けた方が手っ取り早い。

 そう私は判断して、屋根の上へと登ったのであった。


「へー……」

 私は周囲より多少高めになっている建物の上に登ると、周囲の様子を一通り見渡してみる。

 そして、改めてマダレム・ダーイの構造がどうなっているかを理解する。


「あそこがアスクレオ商店。あそこが庁舎。あそこが『サーチアの宿』と」

 マダレム・ダーイは昨日地図と衛視さんから得た情報で、三本の大通りと『大地の探究者』の拠点、港を始点として、そこから木の葉の模様のように伸びる無数の細い路地が絡み合う事によって出来ている事が分かっている。

 だが、今日この場所に登ってマダレム・ダーイ全体を見渡した事によって、更に分かった事が有る。


「大通りから離れるほど、建物が簡素な物になっていく……と」

 その一つが建物に使われている材料の差。

 どうにも、マダレム・ダーイでは大通りに面している建物程、建材に石材を使う傾向が強く、大通りから外れれば外れるほどに建材に木材が増えていくようだった。

 これは石材と木材の価格差もあるだろうが、何か有った時の処理のしやすさにも関係があるのだろう。

 なにせ石材の方が堅くて強固で、火に強い分だけ建て直すと言う行為が難しくなるし、木材はその逆なのだから。


「で、一番簡素な造りになっているのは……あの辺りかな?」

 ただ簡素になっていくのにも限度と言うものがある。

 現に『大地の探究者』の施設、門、大通り、港、いずれからも離れた場所に位置するマダレム・ダーイの南東部は、もはや廃材を組み合わせて作ったのではないかと言うほどみすぼらしい建物が立ち並んでいた。

 たぶんだが、あそこはマダレム・ダーイの偉い人たちの手も殆ど入っておらず、あそこだけで通用するようなルールが造られているか、無法地帯と化していると思う。


「うん、あそこは無いかな」

 私はそう結論付けると、視線を別の方向に向ける。

 だって、私が今回探しているのはネリーと一緒に半日ぐらいこもっていて、その後私一人で出て来ても怪しまれないような場所なのだ。

 ああいう場所は一見するとそう言う事に適していそうな場所だが、実際には見た目以上に余所者に対しては敏感だ。

 まず間違いなく、半日どころか一時間だって居られないだろう。


「むしろ良さそうなのは……あの辺りかな?」

 私の視線が向けられたのは、新たな建物が複数建てられたり、古い建物が壊されていたりする最中であるために、人の出入りが激しくなっている一帯だった。

 そう、人の出入りが激しいと言う事は、それだけ見慣れない人間が居ても怪しまれないと言う事である。

 ああいう場所であるならば、半日ぐらいネリーを連れ込み、私一人が出ていっても怪しまれないだろう。

 まあ、場所が決まっても、予めネリーと二人きりで何処かに行っても大丈夫な程度には親密な仲になっておく必要はあるだろうけど。


「とりあえず、あの辺りの雰囲気がどうなっているか、直接行って調べておこうかな」

 私はそう判断すると、下に誰もいない事を確認した上で路地へと降りる。

 そして、目的の場所に真っ直ぐ向かおうと思ったのだが……


「ああっ!テメエは昨日の怪力女!」

「ん?」

「兄貴!コイツです!コイツが昨日俺らをシメたんでさぁ!」

「ああん?コイツがか?」

 なんか変なのに絡まれた。

 えーと、昨日のチンピラ二人に、筋骨隆々な大男が一人か。

 どうしよう、衛視さんを呼んでもいいけど……近くには居ないっぽいかな。


「へぇ……中々に上玉じゃねえか。それじゃあ、ちょっと俺らと……」

 うん、それならそれでいいや。

 お昼もまだだったし。


「よっ」

「アギョ!?」

「「兄……」」

 と言うわけで、私は妖魔としての身体能力を全開放して飛び出すと、背負ったハルバードを抜き、そのまま大男の頭を叩き割る。


「ほっ」

「キギャ!?」

「き!?」

 続けて右手側に居たチンピラの首を槍で突き刺し、捻じり、首を破壊して確実に絶命させる。


「はっ」

「ゴッ!?」

 そして、戈の部分で最後のチンピラの側頭部を撃ち抜いて仕留める。


「さっ、誰かに見られる前に片付けないと」

 三人を仕留めた私は物陰に三人の死体を引き摺りこむと、身体は昼食代わりに食べる事によって消し、衣服の類はハルバードに付いた血糊を拭うのに使った後に湖へと投げ入れる。

 これで、三人が私と会ったと言う証拠は十分に隠滅された。

 あの三人の性格からして、マトモに探されるとも思いにくい。

 私が妖魔だとばれる事はないだろう。

 ついでに言えば、味は……まあ、微妙だったけど、十分に腹も膨れた。

 おかげで今日明日はヒトを食べなくても問題はないだろう。


「絡んでくれて感謝だね」

 だから、私は目的の地域に向かって歩きながら、そう呟いたのだった。

だって妖魔だもの


02/24誤字訂正

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