第2話「妖魔ソフィア-1」
「んー……」
私は妖魔だ。
だからヒトを食べなければ生きていけない。
故にヒトを獲物として狩らなければならない。
「まずは能力の確認かな」
ただ、確実にヒトを狩るためには自分が何の妖魔で、どういう能力を備えているのかを事前に確認しておくことは必須だろう。
「私は……そう、蛇の妖魔だ」
私は自分が蛇の妖魔である事を思い出す。
そして、蛇が持つ能力のうち、自分に出来る事と出来ない事を思い出していく。
「ーーーーー!」
何処かからかヒトの声が聞こえてくるが、今は自分の出来る事を整理する。
私が出来る事は……
・物音を立てずに移動する
・樹の上や屋根の上のような高い場所へと簡単に上れる
・麻痺毒を含む折り畳み式の牙
・熱源の視覚化
・舌を出す事によって空気中の情報を得る
・獲物の丸呑み
・ヒトより数段優れた身体能力
・夜目が利く
とりあえずこんな所かな。
考えてみれば、蛇をモチーフにした妖魔のくせに脱皮も出来ないし、柔軟な関節もヒトより多少マシな程度で、変温動物では無く恒温動物と言うあたり、妖魔と言うのは一般的な獣たちと比べてかなり変わっているなと思う。
と言うかアレ?こういう知識って何処から得たんだっけ?
何で私の頭の中にはヒトと蛇と妖魔以外の動物についての知識もあるの?
「……アーーーー!」
ヒトの声がこちらに近づいてきている。
んー……私の持っている知識の元……妖魔としての基本的な情報は元からで、ヒトと蛇もそうだよね。
となると他の獣や植物に関する知識は……
「……ィアってばー!」
私は先程飲み込むのに邪魔だと言う事で剥いだ少女の服を見る。
染色もされていない、普通の麻布一枚と数本の紐で出来た服だと理解できた。
ああうん、なるほど、そう言う事ね。
妖魔としての基本的な情報以外はさっき食べた子から吸収したのね。
「ソフィアってば何処に行ったのー!?」
さて、疑問も解けた所で、私には一つ決めるべき事がある。
「もう、ソフィアってば本当に何処に行っちゃったのよ……」
それは私の名前だ。
名前が無いと、色々と面倒な事になる事は目に見えている。
「このままじゃ、夜になっちゃうじゃない……」
んー……蛇子、スネーク、コブラ……駄目だ。
何となくだけど、私のイメージにそぐわない気がする。
「どうしよう……村に戻って、皆を呼んで来た方が良いのかしら……」
うーん、折角だし、こっちに段々と近づいてきているヒトがさっきから呼んでいた名前……『ソフィア』を貰っちゃおうかな。
何だかしっくりする気がするし。
「ソフィアー、本当に何処に行っちゃったのよー!お願いだから返事をして―!」
よし、私の名前はソフィアだ。
そう言う事にしよう。
「て、あれ?」
さて、自分の名前も決まったところでだ。
のこのこと私が潜んでいる樹の下にまでやってきた獲物を狩るとしましょうか。
「これってソフィアの……それに、この白い液体は?」
というわけで。
「なにこれネ……」
私は手ごろな枝に足を掛けると、樹の下に居る少女の背後に回るように垂れ下がる。
「!?」
そして、先程の少女と同じように、口を抑えて悲鳴を上げさせないようにした上で、先程の少女よりも多少荒れた肌の首筋に噛みつき、麻痺毒を送り込む。
「あ……ぐ……」
すると、少女の体内に送り込まれた麻痺毒の効果によって、少女の全身から力が抜け、その場に倒れ込みそうになる。
が、ここで倒れられると回収が面倒なので、もう一方の手を伸ばして少女の身体を樹上へと引き上げる。
「よいしょっと」
で、先程と同じようにこの少女を食べてしまっても良かったのだが、折角なので私の身体能力を試すべく、少女の身体を正面から全力を抱きしめる。
「うん、結構力が出るね」
それだけで、何か信じられないものを見るような瞳を浮かべた少女は全身の骨が砕け、その命の灯が消える。
うん、これだけの力が出るのなら、普通のヒトについては物陰に引き摺り込めれば問題なく殺せるだろう。
「じゃ、いただきます」
さて、私の身体能力を試す為に絞め殺したが、その目的は食べる為である。
と言うわけで、消化の邪魔になりそうなものを剥いで、少女の死体を丸呑みにしたのだが……
「んんー?」
なんだろう。
最初に食べた少女に比べると、微妙に充足感のようなものが足りない気がする。
別に味が劣っているわけでは無い。
ただ、腹に収めた時の満足感とでも言えばいいのだろうが。
そう言うものが微妙に劣っている感じがする。
ついでに言えば、得られる知識や記憶の量も劣っている感じがする。
「んー……」
ヒトと言う種は男女差、年齢差がそれなりにあるとは聞いている。
が、二人の少女は年齢も性別も、外見から判断する限りでは近しいと思う。
健康状態もそんなに差が有るとは思えない。
「まあ、そうなる……かな?」
となると味の差は……食べる時に生きていたかどうかといったところだろうか。
「でも、もう少し食べてみて試してみないと分からないよね」
勿論、偶然と言う可能性もある。
私はまだ二人の人間しか食べていないのだから。
だが、私の考えが正しいかどうかは直に分かるだろう。
「じゃっ、次の目的地はアッチだね」
なにせ、私の頭の中には二人の少女が住んでいた村の位置が刻まれているのだから。
早速二人目です。
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